第三十二話
「おねしゃーす!」
翌日の放課後、早速ビラを作り、ビラ配り班、買い出し班、装飾班に分かれて文化祭の準備に取り掛かっている。
俺と暦月、晃はビラ配り班だ。
暦月と晃は客引きのため、俺は暦月がどうしてもというので、仕方なくって感じだ。
しかし全然減らないな。
ちょっと晃の様子見てくるか。
「おーい、晃ー」
「なんだぁ?もう終わったのか?」
「いや全然………晃は?」
「俺はあと10枚くらいだ」
「早っ!」
いや早い。ほんとに早い。100枚以上あるビラを1時間ほどで終わらせる勢いなんて…………
俺まだ3割程度しか配れてねぇよ。
「暦月はもっと早いんじゃないか?ちょっと行ってくれば?」
「ん?あぁ、そうだな」
ということで暦月のところへ行く。そこにはなんとすでにビラを配り終わっており、暇を持て余してスマホを触っている女がいた。
おのれぇ………顔で選んでんじゃねぇよ!
「もう終わったの?」
「あ、紅葉!うんついさっきね」
「早いな。ちょっと手伝って」
「うん、いいよー」
そうして暦月に手伝ってもらうが、ペースが全然違う。
すごいなぁ…………人って他人だとここまで素直になれるんだな。俺のほう見向きもしねぇもん。
「あれ?めっちゃ可愛いじゃん。ちょっと遊ばね?」
うわぁ、出たー。時代遅れのナンパ野郎集団。4人だ。
タチ悪いなぁ。
「あ、ごめんなさい。今学校の活動中なので………」
「じゃあ、いつ終わるか教えてよ。てか、RINE教えてよ。今度の休み、じっくり遊ぼうぜ!」
「いや、私…彼氏いるんで………」
「いーの、いーの。バレなきゃいいんだって」
いや、バレてんだけどな。今隣にいる俺なんだけどな。
「いや、あの、ホント困るんで………」
「いいじゃん!遊ぼうよー。大丈夫だって!別に体に手出したりしないからさ!」
「いや、でも……」
「ちょーと遊ぶだけだって!な!」
「でも、彼氏が……」
「だから見てねぇからバレねぇって」
だから見てるからバレてるって
「いや、こ、この人が私の彼氏です!」
そう言って俺の腕を掴み、引き寄せる。
うわぁ…………は?みたいな顔してるよ………最悪。
「そういうその場しのぎの嘘はやめとけって」
「ほ、ホントです!」
「あー……………一応ホントです……」
「はぁ?マジで?あんたこんなやつと付き合ってんの?やめとけって!俺たちの方がいいからさ!」
「い、いや………こっちの方がカッコいいです…」
「それは気付いてないだけ。お兄さんたちがもっといいこと教えてやるから」
「いや、でも………」
「いいから………こんな見るからに根暗な眼鏡より俺たちに来な?」
「でも………」
「ちっ!…………じゃあこいつがどんくらいカッコいいか俺らに見せてみろよ。おいお前!」
「え?なんすか、ちょ、こわ…………え?」
「なに白々しい嘘ついてんだよ!お前がどんだけカッコいいか見せてみろよ」
「どうやって?」
「男どうしっつったら1つしかねぇだろ!?」
「こ、紅葉!逃げよう!」
「へへっ!逃がさねぇよ!」
1人が暦月の腕を掴む。
はい、アウトー!これは完全アウトー!
「はぁ…………いやですよ…つかその手離してくれません?ナンパをするなとは言いません。彼氏がいるからって諦めろとも言いません。でも嫌がる腕掴むのはダメでしょ?大体こっちが勝負にのる理由もない。離してくれません?」
「なんだ?自信ねぇのか?ダッセェ野郎だな!」
「いや、そういうわけじゃなくてですね……そもそも今は学校の活動中で、こういうのはプライベートのときに」
「ごちゃごちゃぬかしてんじゃねぇぞ!」
うわぁ………
言語通じないタイプの人やん
「だって俺、喧嘩とかしたことないし…………もっと他の安全な勝負にしません?せめて。それに学校の活動中に喧嘩なんかしたら俺怒られますし……」
「うるせぇ!」
リーダーらしき、ずっと喋ってる奴が俺の腹を軽く蹴る。思ったより痛くないな、うん。こいつめっちゃ手加減するやん。いいやつやん。
「紅葉!……やめて!」
「いや、あのほんとに………」
「しつこいんだよ!」
俺の顔を殴りかかる。咄嗟に上半身を仰け反らせ、避ける。
「いや、しつこいのはそっちじゃ……」
「おうおう、やるじゃねぇか!」
「紅葉!紅葉!」
暦月の叫びは届かず、手下1号が襲ってくる。
痛いのいや。怒られるのもいや。
どっちもいや…………………
…………痛い方がいや。
咄嗟に避けると、勢いで止まらない状態になっていたので、足を引っ掛け、転ばす。
「うおっ!」
ーーーバタッ
「はい、俺の勝ち!」
と、言いかけたところで、仲間の1人が殴りかかる。
それを避けて、綺麗な一本背負い。中学の体育で習った知識が今、花を咲かせた。
すると、暦月の腕を掴んでいたやつが背後から襲いかかる。相手より早くかかと回し蹴り。いい感じに顔面にヒットして、かなり効いたのか地面にそのまま倒れる。
うわぁ………痛そー………………
「てめぇ、こけにしやがって!」
さっき倒した1号が再び殴る。それをもっかい避けて、足を引っ掛け、たおす。
チョロいなぁ…………
「てんめぇ!なめやがって!」
いやなめてないんだが。むしろ喧嘩してきたのはそっちなんだが。だがってなんかキモいんだが。だがだが。
リーダーが2発殴る。それを避け、腹を思いっきり殴る。
腹を抑え、腰を折ったので顔面がいい感じの位置に。
そこをぶん殴る。
いってぇ!顔かって!マジかたいんだが。
リーダーは鼻血が出て、とても苦しそう。苦しそうなんだが。だがだが。
「はい、俺の勝ち!………もう帰ってくんない?」
「ちっ!」
4人組はすんなり去っていったんだが。
「び、びっくりした………紅葉喧嘩強いんだね。したことないって嘘じゃん。意外………」
「いや、本当に喧嘩はしたことないよ?」
「え?じゃあなんで?」
「昔ね、強さに憧れた時期があって。強さって何かなぁ?って考えてたら、たまたまテレビにブルース・リーが映ってて、これだ!って思ってジークンドーやってたんだよね」
「へぇ………」
「まぁ、めんどくさくなって3日でやめたけど」
「えっ!」
「子供専門に教えるところらしくてさ、入ったときが小一だったんだけど、そのとき一番強いらしかった小三のお兄さん倒したからね。もう強くなったし、いっかー!って思って」
「そ、そうなんだ………」
「ささ、ビラ配り早く終わらせよう?」
「そうだね!」
そう言いつつ、暦月にほとんどのビラを渡した。
にもかかわらず、終わる時間はほぼ変わらなかった。
ビラ配りなんか二度とやらねぇよ。
紅葉の才能が見つかったんだが。
ブックマークと高評価よろしくお願いしますなんだが。だがだが。