第二十四話(後半暦月視点)
『明日、放課後に用があるから、教室で30分待っててくれないかな?』
昨日、かなりの間泣き続けたあと、暦月はそう言って帰った。
多分この30分は色々と覚悟を決めるための時間なのではないかと思う。
正直そんなに時間いる?とも思うけど、まぁ、ただ好きな人に告白するのと、付き合ってた人に全てを告げ、改めて告白するのは勇気が違うし、友達に相談したりとかするだろうし、昨日のやつで決心が鈍ったってのもあるんだろうな、と察しのいい俺は思う。
俺からしたら今から何が起こるのか、1人だけ全部知っているみたいで、少し罪悪感がある。
が、気にしない!
気にしてもしょうがない、こればっかりは。
好きになれなかったんだから。
そうして10分と少ししてから、一緒に待ってくれていた晃が突然聞いてきた。
「………………結局どうだった?彼女は」
「ん?どういう意味?暦月のこと?」
「いや、そうじゃなくてさ……お前が暦月の嘘告受けたのって、彼女に興味があったからなんだろ?」
あぁ、そういうこと。
ていうかそれ今聞く?と思ったが、暦月が来るまで時間はある。
例え聞かれてたとしても、結論は変わらないし、問題ない。
「んー?よくわからないかな…………そういえば暦月とはめんどくさくてあんまり恋人っぽいことしてなかった気がするし……」
「ふーん。じゃあよ、お前がどうするかだけ教えてくれよ!」
「なにを?」
「暦月の告白」
「いや、ダメでしょ。だけってもうそれ全部だから。まずは暦月でしょ」
「へー、振るつもりじゃないんだ」
「それは秘密……」
「じゃあよ、お前の気持ちってのを教えてくれよ」
「どういうこと?」
「お前、こないだ自分の気持ちを全部言うって言ってたじゃん」
「それはさっきの質問と何が違うの?」
「結果までは聞かねーよ。………な?」
「な?って言われても…………まぁ、別にそのぐらいならいいのかな?」
「おぉ!さっすが!」
「はいはい…………最初はね、どうでもよかったかな。嘘告って知ってるから告白されてもドキドキしないし。新刊の方が優先事項だったしね」
「お前は嘘告じゃなくてもドキドキしないと思います!」
「うるさいよ……それでまぁ、野球ボールが飛んできたときは体が咄嗟に動いたけど、ボール自体はあんなに小さいんだから、もっと別の方法で助けてられたとも思うね。告白を受けた瞬間、あれだからこの人は疫病神なんじゃ?って疑いもしたかな?」
「うんうん」
「教室にファンみたいな人が来たときは、これからもこういうことがあるのかな?って思って気が遠くなりそうだったよ」
「へぇ。今もなんか言われるの?」
「うん。まぁ一度来た人は来ないけど」
「さすがだな…」
「その後は元カレと会ったりして、興味のない話を延々と聞かされて、耳がちぎれるかと思ったな。しかも、元カレが消えると泣き出しちゃうから、焦ったよね」
「へー。じゃあデートなんかは?」
「んー、そりゃカフェ行ったり、遊園地行ったり楽しかったよ?でもね」
「でも?」
「暦月と一緒にいたこと自体は別に楽しくなかったかな。今でも暦月のことは別に好きじゃないし、デートだって暦月と行ったって別にさらに楽しくもなんともなかった。いや、わりとめんどくさかったかな」
「?よくわかんねぇんだけど、遊びは楽しかったけど、デートはつまらなかったみたいな?」
「まぁ、そうだね。つまらないに近いと思うよ………………………ただ、」
「ただ?」
「退屈はしなかったかな。一緒にいて、暇だと思ったことなんかなかった。帰りたいと思ったことはあっても、やめてほしいと思ったことはないよ。彼女がどういうものかってのは相変わらずよくわからないけど、たしかに世界が違って見えた。きっかけはなんであれ、俺にとってかけがえのない大切な思い出にはなったよ。間違いなくね」
「お、おー!紅葉!」
「うるさいなぁ」
ちょうど話が終わって、本でも読もうと取り出したとき、教室のドアが開き、クラスメイトの男子が入ってこっちを見て、驚いた顔をする。
「あれ?基山じゃん!」
「ん?どうかしたの?」
「いや、さっき橘さんが教室らへんから走ってどっか行ってたっていうか、ほとんど帰ろうとしてたから、俺はてっきり、お前がどっかで待ってるのかと……」
「先に帰ろうとしてたってこと?」
「え?うーん………多分…?」
「こ、紅葉?途中まで……き、聞かれてたんじゃ?楽しくなかったとか言ってるとこ……」
「い、一応………待ってみよ………………」
その後、約束の時間よりさらに30分待ったが誰も来なかった。
俺と晃の大捜索が始まった。
◇◇◇◇◇
【暦月視点】
30分の猶予を貰い、恵奈たちと話しながら、最後の覚悟を決めた。
そんなに時間はかからなかった。昨日は本当に辛かったけど、今日はなぜかマイナスではなく、プラスに考えることができた。
多分、昨日庇ってもらったときに、きっと大丈夫という、謎の自信が湧いてしまったからだろう。
でも、そんなのはただの自惚れ。間違いだった。
早く終わったため教室に向かうと、紅葉たちが何やら話していた。聞くつもりはなかったのだが、聞こえてしまった。
「はいはい…………最初はね、どうでもよかったかな。嘘告って知ってるから告白されてもドキドキしないし。新刊の方が優先事項だったしね」
えっ?知ってたの?
ってやっぱり好きじゃなかったのか……………
でも、それでも付き合ってくれてるってことは……
その後も私の話が続く。
そして聞いてしまった。
「暦月と一緒にいたこと自体は別に楽しくなかったかな。今でも暦月のことは別に好きじゃないし、デートだって暦月と行ったって別にさらに楽しくもなんともなかった。いや、わりとめんどくさかったかな」
そん…………な………
それって…………
あの笑顔は……全部……………私に向けたものじゃないってこと………?
「まぁ、そうだね。つまらないに近いと思うよ」
わかってる。
振られる可能性の方が高いなんてことはわかってた。
でも、紅葉は全部知ってて、その上で私のことを好きにはなってくれなかった。
罰ゲームのせいで振られるなら別によかった。
でも、こうして私自身を否定されると、想像以上に辛い。
わかってる。逃げちゃダメだなんてこと分かってる。
でも、足は止まろうとはしなかった。
涙は堪えようと思う前に、自然と流れてしまっている。
いやだ。別れたくない。いやだ。
怖い………
間違ってるのなんてわかってる。
ーーー私は約束をすっぽかし、逃げ出してしまった。
アンジャッシュみたいですね。
いや、ちょっと違うかな?
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