第二十話
デート後半戦
「ねぇー、あーんして?」
「え、絶対嫌だけど」
ランチは遊園地内にあるフードコートに来ていた。
暦月はオムライス、俺は肉うどんを頼んでいた。
まぁ、なんで肉うどんかというと、大した理由はないのだが、こういった状況を避けるため、というのはある。このあーんとかされそうな状況を。
麺であーんはできないからな!
「えー、いいじゃん!」
「一口頂戴からの、あーんなら分かるけど、それ自分のオムライスでしょ?自分で食いなよ」
どーだ!完璧だ!
完全に防いだぞ!
「いや、あのね。そんなのあーんしてもらうための口実でしかないから。大事なのはあーんしてもらうことだから」
ですよねー
「はいはい、わかったよ…………はい、あーん」
スプーンを奪い、オムライスをすくい、暦月の前に差し出す。
「っ………!…………あ、あーん」
真っ赤にしながら、オムライスを食べると幸せそうに笑う。
「じ、じゃあ……………は、はい………」
暦月もオムライスをすくい、目の前に持ってくる。
食べろということらしい。
「だから…………そんなに恥ずかしいならしなきゃいいのに……」
「う、うるさい!………早く食べて……………!」
「はいはい………」
とりあえず口に含み、味わう。うん、美味しい。
「そういえば、間接キスだったけど………大丈夫?」
「か、かかか間接キス!?…………何を言いよりますがな!…………平気に決まってるに決まってるやないですか!」
「……………喋り方、変だよ?」
とりあえず、冷めると嫌なのでうどんを黙々と食べた。
暦月はしばらく帰って来なかった。
「うん、美味しかった!」
「そうだね」
「じゃあ、休憩もしたし、そろそろどっかいこっか!」
「うん。どこ行くの?」
「んー、食後だし、あんまり激しいのはねー」
「そーだね、何か軽めの?」
「んー、…………メリーゴーランドとかどう?」
「あぁ、あの馬のやつか…………いいんじゃない?」
「よし!そうと決まれば早速行こう!」
「はいはい」
そうして、メリーゴーランドに行く。
小さい子供か恋人どもしかおらず、空いていたのですんなり乗れた。
が、速度も遅いし、あんまし楽しくない
「あははは!…………大きくなっても2人で乗ると楽しいね!」
「そ、そうだね………」
まじか…………
これもう、誰と一緒とかそういうの関係なくね?
子供から子供までしか楽しめないでしょ………
「次はどこ行こっか!」
暦月がパンフレットを開いたときに、1つの店が目に入る。
ク、クレープ屋だと!?
「お、おやつの時間も近いし、クレープでも食べに行かないかい?」
「え?………あはは………………ほんとにそういう系好きだねー」
「まぁね、早く行こう」
「え!………ちょっ、まっ……………なんでこういうときだけ、行動早いのー!」
後ろで何やら言っているが聞こえない。クレープ屋に向け、歩みを速くした。
着いたところはいわゆる販売車で、よほど人気なのか、相当並んでいた。
「ねーねー、またあーんしてくれる?」
「俺のをあげるのは無理だけど、暦月のならいくらでもいいよ」
「相変わらず自分のはあげないんだ………」
「はぁ…………それなら2人のと別に、それ用のやつ買う?」
「えっ?い、いいの!……………買う!買います!」
「わかった、じゃあ先に席座ってて」
「う、うん!ありがと!」
◇◇◇◇◇
その後は特に大したイベントはなく、時間はどんどん過ぎていった。
よほど怖いのか暦月は頑なにお化け屋敷には入りたがらなかった。
いい時間になりそろそろ帰ろうとしたとき……
「ね!最後に、デート定番の観覧車乗ろうよ!」
「まぁいいけど…」
「おー!どんどん上がって行く!」
「……意外と眺めいいんだね」
「ねぇ、隣に座ってもいい?」
今、暦月は向かい側に座っている。
特に断る理由もないので、座れるスペースを空け、
どうぞ、とすると暦月はこちらに移動し、隣に座った。
「…………ありがとね……初の休日デート、すごく楽しかった…」
少しの沈黙の後、暦月がそうつぶやいた。
「こちらこそ、楽しかったよ」
「そっか……………楽しかったか……」
「………………どうかした?」
「…………あと5日で1ヶ月だね」
「そうだね…」
あぁ、そういうことか………
暦月からすれば、怖いんだろうな。
これが最後の休日デートになるわけだから…
こうして、一日中2人で遊べるのは今日が最後だろう。
ふと、横を見れば目に僅かながら、涙が溜まっているように見える。
「ちょっと…………抱きしめて…いいかな………?」
「……ん、どうぞ…」
手を広げ、受け入れ態勢を取る。
すると、顎を肩に置き、抱きしめてきた。
そのまま抱きしめ返す。
思ったよりもずっと、細く華奢な体だ…
わずかに震え、かすかに泣き声が聞こえる。
きっとこれ以上のことをしようとしないのは自分へのケジメだろう。
「どうしたの?」
わかっているが、聞く。
出来るだけ優しい声で。
「ううん。なんでもないの…………ちょっと楽しすぎて………」
「そっか………」
それだけ言うと、体を離して、涙を拭いた後でこっちを見て、笑顔で言う。
「また、デートしようね!」
きっといろんな男達を虜にしてしまうような、美しく、優しく、どこか儚げな笑顔で。
提案や約束じゃない。
その言葉は彼女の決意であり、望みなのだろう。
だからこそ、俺はその言葉に返事をすることができず、笑って誤魔化すしか出来なかった。
帰りの電車ではしゃぎすぎたのか、よほど疲れたようで、俺の肩に頭を置き、居眠りしていた。
その顔には目から出た涙が伝ってあり、寝言を呟いている。
「……こう…よ……う………………すき………………わかれ……たく……………ない」
結局最後まで、俺に言うことのなかった弱音。
あぁ、きっと気付いているんだろうな………暦月は。
俺が暦月のことを好きではないことを…
俺はどうしたいのか考えてみる。
……………やっぱり変わらない。
暦月の私服姿を見たときも、あーんしたときも、観覧車での笑顔も、この悲しそうな寝顔も。
可愛いとは思う。
でもそれだけだ。
好きだとかそういう感情は出てこない。
いや、それも違う。
ほんとは多少は情も湧いてる。
でも、暦月とそういう関係になりたいとは微塵も思わない。
暦月の顔を見る。
どうして、俺なんだ………
もっと別の……別の誰かに告白していれば……………
暦月は傷つかなかったんじゃないか?
少しだけ、告白を受けたことを後悔する。
あのとき、振っていれば………
どうしようもない。この気持ちは。
俺にできることは出来るだけ暦月が傷つかないように振ることと、後の5日間を出来るだけ一緒にいてあげることぐらいだ…………
ーーー今日はそのまま何事もなく、解散した。
紅葉、自分との葛藤!
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