第十一話
「もう大丈夫?」
「う、うん。その……ご、ごめん」
数分間泣き続け、ようやく泣き止んだ。今は目が真っ赤で少し腫れている。
「え? ……あっ、まぁいいけど。いやよくないな……うん。急に泣き出すのはよくないと思います!」
「ふふっ。なにそれ? そ、それと……ありがとう」
「ん? ……まぁ、どういたしまして」
正直、礼を言われる心あたりがありすぎてどれかわかんない。
例えば、さっきの元カレ……は、冷静に考えてみれば、いくらからかわれていたとは言え、幼馴染らしいし。
んー? パフェのためとはいえ、あんなに怒ったら気まずくなる? いやいやでも、なんだか険悪ムードだったような気もするし。
じゃあ、頭撫でてあげたことは……でも女子って頭撫でられるの嫌いらしいし。
うーんわからない。
え? 礼を言われる筋合いがない? いやいやご冗談を。
多分気付いてないだけで、結構色々してあげたんだよ。きっと。おそらく。
「それより、どうする? まだ続ける? デート。個人的には遅くなったし、終わりにした方がいいと思うんだけど。絶対」
絶対(強調)。
「たしかに遅くなっちゃったね。どうしよっか?」
「それなら帰るか。僕は家近いからいいけど、もし遠いなら大変でしょ? 明るいうちに帰りな?」
今はおよそ十八時。まだ空は明るい。こんな早くから、帰らせようとするなんて、僕って紳士〜!
「そ、そっか。近いんだ。じ、じゃあさ……家にお邪魔していい? 晃に聞いたら、一人暮らしなんでしょう?」
「えっ」
全然よくない。けど下手にデートを続けるよりかはましか……。
「まあ、いいけど」
「ほんと!? ありがと!」
こうして、緊急おうちデートが開催されることになった。
◇◇◇◇◇
「はい、ここがうちだよ」
「すごーい。広ーい。こんなところに一人暮らしかー! 贅沢だねぇ」
「まぁね」
うちのマンションは多分割と高いほうではあると思う。高校生の一人暮らしにここまでするのはどうかと思ったが、両親とも甘えられるうちに甘えときなさいって言うので甘えておいた。
「それより、親に連絡とかしなくていいの?」
来る途中、ご飯は自分で作っていると話したら、うちで晩ご飯を食べたいとか言い出した。別に断る理由もないので、了承したが、こんなにいきなりよかったのだろうか?
「あー、私のお母さん、仕事忙しくて夜遅くまで帰ってこないんだよね」
「ふーん。お父さんは?」
「……うちさ、離婚してんだよね」
「あ、なんかごめん」
「いやいやいーよ。そもそも、離婚したのって私がまだ小さい頃で顔も覚えてないしね。浮気したらしいんだ。……まっ!だからそんなに気にしないで?」
「いや、全然してないけど」
「えっ」
「そもそも、そんなの言われなきゃわかんないでしょ。さっきは一応謝ったけど仕方ないと思うね」
「ぐぬぬ……たしかに」
「大体、橘の家庭環境とか興味ないし」
「あ、」
「ん?」
何かを思い出したかのような声を上げると、ニヤニヤし始めた。
そのまま見ていると、気づいたのか、なにかを思い出しかのような、はっとした顔になり、すぐ笑顔になってこっちを見てくる。
「なになに? そんなにじろじろ見ちゃって、見惚れてたのかな?」
「いや、ニヤニヤしてて気持ち悪いなって」
「おい」
というか、父親と初恋は浮気。次の彼氏は罰ゲームなんて。なんというか……。
「なんか、男運ないね…」
「あー、たしかにそうかもね。まあでも……」
そうしてこちらをニッコリ笑いながら見て言う。
「最後が、よければいいの!」
「ふーん、そういうもんか……」
それは暗に僕と付き合うのなんてクソみたいって意味では?
嘘告を隠す気があるのかないのか。
それに、最後だけってのも中々大変だと思うんだけど。
まぁ、どうでもいいか。どうせ橘の恋愛事情なんて知ったこっちゃないし。
「まぁ、そんなことより、あんまり遅くなってもあれだからもうご飯作るけど、いいよね?」
「え? う、うん。……あっ! じゃあ手伝おっか?」
「いやいいよ。リビングで好きにしてて。お願いだから」
いや、まじで結構。せっかく僕が僕のために自分好みの料理を完璧に覚えたというのに、変わってしまうかもしれない。
何を作るか特に決めていなかったが、たまたま残っていた麺が目に入り、焼きそばを作ることにした。
ちょうど2人分くらいあるし、焼きそばを嫌いな人なんてなかなかいないだろう。
◇◇◇
「はい、できたよ」
量を均等に分け、それぞれ皿に盛り付け、テーブルに置く
「おー! 美味しそう!」
「まぁね、あとはこれも」
流石に焼きそばだけだとどうかと思ったため、簡単にできるかき卵スープを作っておいた。
「おー! こっちも美味しそう!」
「はいはい。それじゃ食べよっか」
「うん」
「「いただきます(!)」」
それから2人でご飯を食べていた。どうやら口にあったらしく、何度も笑顔でおいし〜と言っていた。
その顔を見て、ふと思った。
「……なんというか、よかったよ」
「え? この料理が私の口にあったこと? それならむしろ私がお礼を言いたいぐらい」
「いや、もちろんそれもなんだけどさ。そうじゃなくてさ……元気になったみたいで、よかったなって」
「えっ」
「何が直接的な原因かはわからないけど、さっきすごい泣いてたでしょ? 今は、空元気とかには見えないし、そんなに幸せそうに笑ってくれるなら、よかったなって思ったんだ」
「そ、そっか……基山のおかげだよ…」
「まぁ、そうだろうね。知ってたよ」
「ふふっ……謙遜とかはしないんだね?」
「だってしても意味ないし。それに橘が泣いたときも、元気になったときも、そばには僕しかいなかったし、僕以外いないでしょ?」
「まぁ、そうだね」
笑った後に、再び何か悩みこむような顔になる。
ただ、少なくとも辛そうにしているわけではない。
なんというか、恥ずかしそう?
「あ、あのさ……!」
「ん?」
「わ、私の名前…」
「橘がどうかした?」
「そ、そのさ……こ、恋人なんだし、下の名前で呼んでよ」
「あぁ……なるほど。はいはい、いいよ。暦月。これでいい?」
「えっ、早くない!? 結構これ言い出すの恥ずかしかったんだけど!」
「その手のことを頼んでくる人のしつこさは晃で理解したからね。もう諦めたよ」
晃はほんとにしつこかった。下の名前で呼ぶまで、ずっと付き纏い頼んでくるのだ。それも毎日。休日に来たときはさすがにキレそうになった。流石の僕でも2週間が限界だった。あんなにストレスの溜まる2週間はそうそうないだろう。
まぁ、よくよく考えてみれば、下だろうと上だろうと同じ名前なわけだし、そんなにこだわる必要もないだろう。多分あのときは半分対抗心みたいなのが湧いてたんだな。
「そ、そっか。ありがと。……し、し、秀矢……!」
顔を真っ赤にしながらそう呼ぶ。
そんなになるぐらいなら、無理しなきゃいいのに。
まぁ、別にどっちで呼ばれようとどうでもいいけど。
「ん。冷めないように早く食べなよ」
「あ、う、うん」
◇◇◇
「それじゃ、今日はありがとね!」
「うん。別にいいよ」
ご飯を食べた後、二人で皿洗いをして、今こうして玄関にいる。今は二十時半。高校生ともなれば、このくらいそこまで遅くもないし、別に送る必要もないだろう。
「バイバイ!」
橘……じゃなくて暦月は、満面の笑みでてを大きく振る。
「じゃ」
僕も、腕を軽く上げて手を振る。
暦月は満足そうにドアを開け家を出る。
そして、ドアが閉まりかけた瞬間、振り返り、ドアを再び開ける。
「あのさ……秀矢」
「ん?」
「いつも昼は弁当なの?」
「うん。そうだけど?」
「あ、あのさ……毎朝作るのって。……そ、その、大変じゃない?」
「ん? ……まぁたしかに大変だけど」
「な、ならさ! ……わ、私が作ってこようか?」
「いや、いいよ。それこそ大変じゃん。それに自分の好みは完全に把握してるし、大変だけど、苦じゃないから」
「あ…………そ、そうなんだ」
「じゃ、バイバイ」
「え? ……う、うん。バイバイ……」
ドアを閉めて、きっちり鍵をかけ、お風呂の準備をしに行く。
長いデートがようやく終わった。
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