デザイナーズチャイルド
机上では人類の滅亡は、阻止できるらしい。
これからする話は、別の世界でもあり、未来の時でもある。人類とて生物、進化もし退化もする。
ここにあるカップルがいた。名前は『アイ』『ユウ』二人は、カタログにログインをし、あるページを眺めながら話をしている。
アイ 「そろそろミライも終わりだな、きちんと育て上げたね、うーん、やっぱりノーマルにしとこうよ」
ユウ 「そうねえ、次はどうする?、男のコ、女のコ、どっちでもいい。ノーマルねえ、だけど技術って進歩している?色々ご要望お聞きしますって、ミライはそろそろ十五才、最近眠る時間が長くなってきてる」
アイ 「タクヤもその年頃だったな、バッテリーが切れる様に終わりが来たのは、説明を受けてはいたが『ファースト』は辛かったな、幸い優秀なコドモに育て上げたから『セカンド』は直ぐに育ててもらえたけど、普通が一番だよ」
ユウ 「うん、タクヤはとっても良い子だった、ミライも可愛かったよね。もう少し生きればいいのに、小型犬や猫並の寿命だなんて、あ、目はブルーに出来るのね、これは組み換えするのかな」
アイ 「うーん、操作だよ。君の榛色が好きなんだけどなあまり手を入れないほうが、長生きするって話だよ、仕方ないよ、動物とは産まれる方法が違う、人の手により作られた、アートなのだから、そう次のベビー、『核』は、君をつかう?男のコ希望で、タクヤは僕、ミライは君だったから」
ユウ 「それなら貴方で女のコにする?どちらでもいい、そう、長生きしてもらわないと、ただでさえ短いのが余計に少なくなっちゃう、金額だって、結構高いのに、うーん、やっぱり髪の色は貴方の色が良い」
静かな部屋で二人の声が流れる。
ユウ「そう、ミトの家の『アスカ』ちゃん、おかしいと思ってたけど、エンジェルだったみたい、おかしいなとは思ってたけど」
アイ 「そうか、やっぱりエンジェルか、似てないもんな、今年で十八だっけ?本当かよ!と思った。あのカップル、エデンの資格取れてたんだ」
ユウ 「うん、そう、だから『サード』になる次は『エデン』に申請しない?タクヤもミライも、成績優秀で表彰されたし、お互い仕事も順調だし、財産もあるし、優秀な親としての資格は、得られていると思う」
アイ 「『エデン』、『赤ちゃん』の申請を?必ず成人するという個体を手に入れたいのか?」
ユウ 「たった十数年で次なんて、やっぱり呆気ない、それに、本物の『赤ちゃん』育ててみたい」
アイ 「でもエンジェルは、性別は選べない、容姿も、僕達とは大きく変わる。あれこれセンターに行って、勉強するらしいぞ、それに金額も、何より許可が、何時おりるかわからない、その間は『ベビー』は手に入らない」
ユウ 「早くて数年待ち、別にそれ位まつなんて、たかがしれている、待ちれなくなったら、申請下げればいいじゃない、寿命なんて遥か彼方、老いるのも遅いし、ミライ達とは違う、それに二人共に『エンジェル』だし」
アイ 「遺伝子上の親は何処の誰かはわからない、にしても、何故に俺たちも生殖能力が無いのかな、やっぱり生命の神秘とやらをなめてかかっちゃダメなような気がする、でも不便はないね」
ユウ 「うん。以前は異性じゃないと結婚して、あるいは恋に落ちて、兎にも角にも愛する異性と出会わない事には、子供が持てなかったから、大変だっただろうな、信じられない時代、今はシングルでも、同性同士のカップルでも、異性とのカップルでも、資格を兼ね備えていれば、ベビーで先ずはコドモを育てて、そして結果を残せば、選ばれた親として、赤ちゃんを育てられるのに」
白い病室で眠る娘を見ながら、ユウはアイにふうわり笑う、動かない少女はお人形の様。
ミライと名付けた二人のコドモの『終わり』は、すぐそこに来ていた。そして少女の親は、新しい命の組み立てを考えている。
人類の生殖能力が、じわじわと年月をかけて、著しく劣っていった。それは環境の変化か、神の思し召しかはわからない。代わりに子孫繁栄のお役御免となった、人の身体はどういう訳か、老が遅くなり、人々は長寿を得た。しかし子供は産まれない。
このままだと人類が滅ぶ、人々はそう考えた。
資源の有効利用を、そういう声が上がったのは、当然な流れ、医療の進歩により、不妊治療の為にと、先人達の『生きている卵子と精子』が、あちらこちらの医療機関に、冷凍凍結されていたからだ。
その親になる人々は、もういない、冷たい揺りかごの中で命かけら達は、眠りについていた。中には『優秀な遺伝子』のそれもあった。
『アダムとイブを育てなければならない』
そこで政府は、『楽園』と銘打った、最先端技術医療機関を建設した。それらを一箇所に集めて厳重に管理をし、人と金を集め、設備を開発し、技術を進歩させ、人工的に命を育てる技術を、確立したのだった。
倫理学的に公になってなかっただけで、その裏である程度の研究は進んでいた為、実用化にそう多くの時を、必要とはしなかった。
人類滅亡を阻止する為という、悲壮な大義名分により生命に対する神秘性など、忘れる事など簡単だった。そして始まる、机上の弁論。
『しかし問題がある、かつて我が子を育てきれぬ親がいた、全く遺伝子が繋がらない子供に、無償の愛を与える。時を使う、子供を求める人間、全てがその様な事など出来るのだろうか』
『渡してしまってから、世話を出来ずに死にましたやら、飽きたからいりません、言うこと聞かないから、病気になって醜くなったから、金になるとか、捨てられたり売られたりしたら、勿体ない事だ』
『ある程度の金額を負担する事で、経済的な問題は解決できるだろう、人間性をみるのか、まあ、中には自分達に似ている、容姿の好みにこだわる者達もいるからな、何回か、シュミレーションさせてから、申請受付でいいのでは?』
『シュミレーション、ああ、クローンか、何故か長生き出来る個体は造れていないが、まあいい、それらを幾人か育てて、それで結果を出せと言うことだな、先人達の卵さ、産まれたエンジェルが大人になり、そして彼等の子供が神の授かりものを、かつての様に産むに決まっている、立派に育てて貰わないとな』
『そうだ、我々も年老いた、人間が赤子を産む、そういう時代があったということは、最早、知識の一つになった。エンジェル達には、なんとしてでも新しい命を創造してもらわねばならない、資源には限りがあるから』
『そう、優秀な人間に育たなくてはならない、しかし何故だ?エンジェル達が大人になっても、次世代が出てこないとは?』
『まあ、もう少し待つとしよう、何せ、今の世の中、寿命が長いのだから、そのうち産まれる筈だ、理論上はそうなっている』
アイとユウが話をしている。
アイ 「やっぱり、デザイナー出来るベビーでいいよ、そうしよ!どのみち同じ金額支払うし、赤ちゃんが来たら一緒に暮らそうだって!嫌だと断ったらさ、ひとりで育てたのにって、親不孝とかなんとか、うるさいんだよな、恩着せがましく言われた」
ユウ 「何?実家に行って、喧嘩してきたの、まぁ、どこも一緒だよな。ミトもアスカちゃんの事を、大きくしてやった感アリアリで、あれこれ話してくるもん」
アイ 「だろだろ?アイはユウが、いて良いよねーだってさ!独りで育てるのそりゃぁ、大変だったのよぉ、資格取るところから入れると、そりゃぁ大変、それに、エンジェルの親になれば、社会的評価と地位が上がるのよ、上流階級になるのよ、は?どーゆー事?ってなったよ、もう!二度と実家になんか帰らん、一応親だから、顔を見に行ったけど」
人類の滅亡は、どうやら確定している様だ。
終。