2022.2.22 ฅ^•ﻌ•^ฅ 上げて下げてパタン。
日々の糧を得るために部屋で仕事を終えると、目が青白き人工の光、ブルーライトに侵食をされてしまった。しょぼしょぼになった。シパシパしつつ、かろうじて電源を落とす。そのままパソコンの前で突っ伏して寝てしまった。
ゾクッとした寒さを感じ、ハッと目を開けると真っ暗な部屋。いてて、イテテと固まった身体をミキミキ動かし、背伸びをひとつ。リモコンで灯りをつける。
嘘のような夢のような、物語あるある展開に目が点となるのと同時にときめいた。
金眼の黒猫、僕のたまこが、青少年保護育成条例違反に抵触しない程度の女のコになっていた。
今日はスーパー猫の日。ゾロ目の魔女に魔法をかけられたと、ソファーベッドに寝転がる美形たまこが、気だるくそう話す。
「あ、灯り位つけたらいいのに、雑誌、読めるの? 読むんだ……」
「読まない、イケメン探してるの。猫だもん、明かりなんか要らない」
サラサラとした、ロングストレートの黒髪、漆黒のニットのワンピ、すんなりとした足には黒いタイツ、真っ黒コーデのたまこ。人間の眼だけど色は金色。夜目が効くのも変わらないらしい。
両肘を立て腕を組み、上半身を支える姿勢。上から下半身へ、なだらかな丘陵を描くライン。落ちてきたサイドの髪を一筋、指ですくって耳にかける美形たまこ。
うう。刺激が強すぎる。何しろこちらはパンデミックしたCRにゃ ウィルスにより、非接触の中で育った世代。友情をバーチャルならともかく、リアルで育むのが苦手極まりないのに、上位クラスの恋仲なんて。
無理だろ。だが、コミックスのワンシーンの様に、彼氏のベッドで寝転がる彼女的なシュチエーションは、猫のたまこ。ハードルが一気に下がった気がする。
「イケメン?」
物憂げに話すたまこに、どぎまぎしつつ近づき覗くと。
『月刊 猫まみれ』
僕の愛読書をペラリペラリとめくっている。
「へ、へえ。イケメン……」
「アビシニアンかっこいい♡」
「へえ……。マッチョだね」
「うん。マッチョが好み」
ふぐ。ぽよぽよ気味な自分の腹の肉が脳裏を過る。腹筋をしようかと考える。
「ふ、ふーん。他には?」
そう聞いた僕の声には無反応。うつ伏せの姿勢のままで、左足の膝から下をパタン。上げて下げて動かす。
上げて下げて、パタン、上げて下げてパタン。さながら尻尾の様に動かしている。
「こんな時間か。夕飯何にする?」
携帯で確認。なんとなく期待をして聞いてみる。ラノベ小説あるあるなら、私が作るとか、一緒に買い物に行くぅ♡などなど、甘い展開を言い出すのだが。
上げて下げて、パタン、上げて下げてパタン。
僕の声はスルー。作る気など毛頭ないらしい。出かける事も拒否っているオーラが出ている、足の動き。留守番しててね、いつものようにそう声をかけると、何時ものコンビニへ向かう。
ฅ^•ﻌ•^ฅ
ただいま。僕の声に反応はない。せっかく人語が話せるのに、おかえりなさい位、欲しいものだ。
テーブルに買ってきた物を広げる何時もの時間。床に座る前に冷蔵庫から缶ビールを取ってくる、テレビをつけて夕食。
「一緒に食べる?」
ソファーベッドに陣取るたまこに聞くけれど、そのままパタンと寝ているらしく、返事はない。なんだかな、感じたときめきを返せと言いたい。
時折、片足を上げて下げて、パタン、上げて下げてパタン。さながら尻尾の様に。
普段の猫たまこと変わらないぞ。のり弁の蓋を開けた。猫たまこなら、竹輪の磯辺揚げ狙いで何処で寝ていようと、シタシタ、側近くに寄ってくるのだけど。
そしてあぐらをかく俺の膝頭にスリスリ♡ ああ!かわいい美猫たまこ! 割り箸をぺきっと。相思相愛の仲を綺麗サッパリ別れさせたその時。
「それ、欲しい」
何が起こったのだ! 耳元でくすぐる、たまこの甘い声が! まさか背中から首に腕をまわし、ぴっとり抱きついてくる攻撃に出てくるとは。
俺の理性のネジがグルグル緩む。そりゃそうだろう、背中に感じるやわらか~いソレは、おそらく、ふたつあるのだ。密接することにより、俺の背でムギュと……、羨ましいと割り箸を持つ手のひらがそう言っている。
「だめだよ。人間の食べ物は」
一応、何時もの牽制。明日には猫に戻っているやもしれない、たまこの躰。ここは気をつけないといけない。
「ちょうだい」
ふぐぅ! 肩に顔をすりすりしてくる。こそばゆい髪の毛の感覚。いかん、スリスリ攻撃もこの姿で受けると、よく云う『一線を越える』の『一線』が脳内に、ビシッと極太ラインで形が視える。その向こう側には、ピンク系のネオンカラーがチカチカ。
ようこそR18へ。的なワールドが広がっている。いけない、そっちに行ってはいけない、理性のネジをギリギリ締める。
「しょうがないな、ちょっとだけな」
平静を取り戻し、何時ものサイズに、何時もの磯辺揚げぽっちり千切ると。
はて。どうやって食べさすのか?手が止まる。
いかん。心臓の音がマックスまで大きくなってきた。
ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ
ま、まさかの映画やドラマしか見たことがない『あ~ん』になるのか?一線が薄っすらと曖昧になっていく。
「あ~ん」
ぐほぉ。なった!
『あ~ん』をしてきた。クソぉぉ。せめて隣に座るとかしてくれたらいいのにぃと、俺の両目が喚いている。代わりに柔らかさを、一点集中の背中と、吐息を感じる耳は大喜びである。
首を捻り口元を確認すると、千切った竹輪の欠片を、たまこの唇に運ぶ。
ぱくん。モゴモゴ、ごくん。ぺろぺろぺろぺろ。
あぁぁぁぁ! 何という事だ。何時もと違うザリザリ感ではない、舌触りを感じる指先。いかん、しっかりしろ! 顎置く彼女は。
たまこたまこたまこたまこ、猫猫猫猫猫(=^・^=)猫。
異種族恋愛は読むのに限る。実体験してはいけない。なにか、何かないのか! そ!そうだ!
「風呂、入れてこよう」
その言葉にビクッと反応。パッと離れた、たまこ。少々惜しい気もするが、いや、大いに惜しい気がするのだが、とりあえず、人類初のなんちゃらになることを防ぐ事が出来た。
ฅ^•ﻌ•^ฅ
テレビを見ながらさっさと食べ終わり、ビールを飲んでいると。
「あそぼう」
はい? 何をどうやって? たまこが何時ものおもちゃを持ってきた。これを投げたら脱兎で追いかける、猫たまこなのだが……。
「う、うん。投げるよ、ほーら!」
ポーンと投げた。リンリンと鈴の音。ペタンと座るたまこはそれを目で追いニコニコとしている。
「? 行かないの? 仕方ないなぁ」
よっこいしょ。立ち上がり拾いに行く。
「ほら」
リンリン。たまこの目の前に落とす。座りビールをのんでテレビを見てると。
「あそぼ、ポーンして」
小首をかしげて投げるよう言うたまこ。可愛いなぁ。
「ポーンするの? いいよ、ほーら」
投げる僕。リンリンと鈴の音。
「行かないの? 仕方ないなぁ」
よっこいしょ、立ち上がり拾いに行く。
「ほら」
リンリンと鈴の音。ニコニコ笑うたまこの前に落とす。それを繰り返し、いい加減僕が疲れてきた頃、飽きたのか定位置に戻った、たまこ。それで気がついた。
飼い主が投げる、立ち上がる、拾いに行く、戻る。もしかして、これを見るのが遊びだったらしい。
ฅ^•ﻌ•^ฅ
ふう。湯船につかる。ものすごく疲れている気がするのは、気の所為だろうか。ブクブクと湯に鼻下まで沈む。
夢なのだろうか。飼い猫が女のコになっている現実は。スーパー猫の日、ゾロ目の魔女。まぁ、明日になれば元に戻っているだろう、そんな気がする。楽観的に考えると、風呂から上がる。
寝る前はタブレット端末で読んだり動画を見たり、ソファーベッドの上でゴロゴロ過ごす。過ごすのだが、ちょっと待て、たまこは風呂上がりの僕に、ぴっとりとひっついて来るんだよ、な?
ふぐぅぅぅ! 風呂に入るんじゃぁ無かった!
いや。大丈夫だ。気合いを入れればどうって事はない。相手は。
たまこたまこたまこたまこ、猫猫猫猫猫(=^・^=)猫。
なのだから。それに忘れてはいけない、たまこには必殺技があることを。不意に驚かせたり、嫌なことをされたら即座に技を繰り出してくる。
右手と右足を同時に出しつつ、バスルームから出る。案の定、たまこはソファーベッドの上で過ごしていたのだが、降りると別の場所に向かった。
ホッとしつつ、ギクシャク、ギクシャクと歩きタブレット端末を手にする。何時もの様に、スプリングを軽くきしませつつ、ベッドに座った。
すると何という事でしょう。たまこ第2のくつろぎポイント、電気ストーブの前から何時もの様に、スタスタとこちらに近づき、何時もの様にソファーベッドの上にひょいと乗ると。
何時もなら膝の上にもそもそと入り込み、丸くなるのだが……。
ゲンザイ、ボクワ、ヒザマクラ ヲ シテイルノダ。
横向きならともかく、仰向けなのだか? たまこや。なんの試練を僕に与えているのだ?
ニャフフと笑っている場合ではない。金眼が柔らかに光り、胸の膨らみは桃? 肉まんか? 目視するにあたり、ジャストサイズ感なのだが。
足は軽く曲げたり伸ばしたり、片脚を、上に上げたり下ろしたり。
上げて下げてパタン、上げて下げてパタン。機嫌が良いときの尻尾の様に動かしている。
飼い主は、飼い主はぁぁ! 『越えてはいけない一線』とやらが、カッスカスになっている。
ようこそR18へ。
ようこそ、あーる じゅうはちへ
ようこそ……、
「たまこぉぉ!」
我慢の限界値突破! 高まった煩悩のままに行動、ガバァと抱き締めようと動いたのだから……。
「フシャァァァァ!」
驚いた、たまこの必殺技『猫パンチ』が右頬にヒット! しかも今、人間サイズなのだから。それは鉄拳、黄金の右拳でアッパーが突き上げられる様に、きっちりと入った!
「ふぐぉぉぉぉ!」
目の前が真っ暗になるということを、きっちりと体感をした……。
ฅ^•ﻌ•^ฅ
ザリザリ、ザリザリ。
ひどい夢を見ていた気がする。
ザリザリ、ザリザリ。
たまこか舐めてるな。朝ごはん、カリカリ入れなきゃ。ぼんやりと目を開くと、顔の直ぐ側に、猫たまこの姿。
「うにゃ~ん」
おすわりをし、ぺろぺろ顔を洗う金眼の黒猫。尻尾が動く。
上げて下げてパタン、上げて下げてパタン。足で無く尻尾が。僕はそれを眺めていると、胸がいっぱいになり、本能のままに行動してしまった!
「たまこぉぉぉ!」
腕の中に取り込もうと覆いかぶさった瞬間!
「フシャァァァァ!」
「はう! 痛ってぇ!」
ぼんやりと頭の中に残る怒った声と合わさり、たまこ必殺技、猫パンチを顔面にビシッと、食らった。ああ。
スーパー猫の日、万歳。
終わり ฅ^•ﻌ•^ฅ
寒いですねー。
大雪に見舞われております。
低体温だとそれはもう、大変なのですよ(ノД`)シクシク




