大魔王とリリアル〜蒼の勇者編
あるところに、大魔王とドラゴンがいました。
むかーし、むかしあるところに黒のお城がありました。お城は、美しいお花畑が広がる中にあります。ところどころに桃やりんごの木が植えられていて、とても綺麗な場所です。
花の香りに混ざり、甘い匂いが混ざってます。それはお城の台所から、流れています。そしてそのお城に住んでいるのは、その雄叫びを聞けば、大人も子供も、ちびってしまう咆哮を持っている凶悪ドラゴンと、一目姿を見れば泣く子も黙る、主である恐怖の大魔王でした。
大魔王「ほら、リリアル上手く焼けたよぉ。美味しそうだね」
リリアル「ふあ!ご主人様!美味しそうなチョコレートケーキ」
お城の中では、ちっちゃくなーる魔法を使っているドラゴンのリリアルは、人間の大人より、少しだけ背が高い姿をしています。
ふあふあのキルトのミトンを両手にはめている、主である大魔王に、キラキラとした紅色の瞳を向けます。
大魔王「お庭のテーブルで、ローズヒップティーに、あわせて食べよう」
リリアル「去年摘んだローズヒップですよね、今年もきれいにお花が咲いてますよ」
キャッキャッと楽しそうな、リリアルの声が響いてます。生クリームを添えようか、マーマレードもいいねぇ、と大魔王はニコニコしながら、お庭でお茶の準備をします。
リリアル「はぐはぐ、おいひーでふ…………、はう、そういやなんでワタシは『凶悪ドラゴン』て、呼ばれるのですかねぇ」
大魔王 「それを言うなら僕だって『恐怖の大魔王』だよ、ハァ………お嫁さん欲しいなぁ、毎日ケーキ焼くのになぁ、若く見えるけど彼女いない歴、トトリオン星が三回、その色変える時だよぉ、いいオッサンになってるし」
リリアル「はぐはぐ、変な通り名だけで、ドン引きされますからね、かく言うワタシモ彼氏いない歴、スカルプ星が三回色が変わった時ですよぉぉ、立派な干物ドラゴン………。卵!卵たまごぉぉ!産みたーい!イケドラゴンほしい」
大魔王 「おかしいよ、僕の趣味って、スィーツ作りにガーデニングなのに、獄炎の怒りなんて、使ったことないよ。なのに『恐怖の大魔王』だしぃ………」
リリアル「そうで御座いますね、悪魔のゾンビスライム一匹殺らないご主人様なのに、どーしてなのだか、ワタシも、地獄の咆哮なんて、上げたことないですよぉ、なのに『凶悪ドラゴン』」
はぁァァ、と主は薔薇のティーカップを手にしたままで、ドラゴンはケーキで口をいっぱいにして、ため息をつきました。
そんな主従は、ある日人間に化けて、人界の森へとやってきました。そしてお決まりの展開が、美しい亜麻色の髪の乙女に出会う大魔王。彼はたちまち恋に落ちました。
大魔王「かわいいお嬢様、お名前をお聞かせください」
乙女 「わたくしは、エアリアーデと申しますわ、黒衣のお方」
エアリアーデも、物腰柔らかな大魔王に心を惹かれました。そして何より乙女の心を射抜いたのは、銀色の髪をした、リリアルの姿。額に真紅の宝玉が埋め込まれている容姿は、正統なドラゴンの証。
とびっきりのお金持ちか、手柄立て放題の勇者しか手に入れられぬドラゴン、亜麻色の髪の乙女は即座に、自分の未来を計算しました。
ファンタジーあるある展開、惚れたからには即座にプロポーズ、そしてされた側の乙女も、にっこり笑顔で大魔王の手を取ります。いいのか、それで………。
大魔王 「美しい乙女よ、我の城へ行こう」
乙女 「はい、愛しきお方」
ボワン!とリリアルが本来の姿になります。銀の鱗が輝く、美しいドラゴン。大魔王は乙女と共に背に乗りました。
いざ、と声をかけると、ゆるゆると天空へと飛び立つ銀のリリアル、雄々しい姿の大魔王の腕に抱かれ、寄り添う亜麻色の髪の乙女。とろける様な笑みを彼に向けていました。
大魔王 「しっかりと私につかまってなさい」
乙女 「はい、愛しきお方」
大きな翼は、一つ羽ばたくと銀光をキラキラと辺りに撒き散らします。まあ、なんて美しいの、乙女の甘い声。
大魔王 「そう、美しさ、広い大空………空はいい、空は……く、くククク!飛べ!リリアル!速度をあげろぉぉ!邪魔をするものは排除しろぉぉ!」
手に握っている、黒の革に色とりどりの宝石を散らした手綱を握り、大魔王は空を見つめます。その目に浮かぶ、赤紫に燃える瞳、異種を感じさせるオーラが一気に放たれました。
大魔王は、手綱を握ると人格が急変するスピード狂でした。
乙女 「きやっ、な、なに?だ、誰か助けてー」
亜麻色の髪の乙女が叫びました。そのか細い叫び声にいち早く駆けつけるのは、翡翠の目の色を持つ金のドラゴンに乗る『蒼の勇者』ファンタジーあるある。
リリアル「はう!なんて素敵なイケドラゴン!美尻!」
リリアルの真紅が、目の前でクルリと回り態勢を整えた拍子に飛び込んできました。その美しく輝きながら空に舞う金の尾から、背中のラインにロックオン!彼女のハートを鷲掴み。
蒼の勇者「美しき乙女をこちらに寄越せ!我は蒼の勇者ランスロットなり!な!何を!名をなのれー!卑怯ものぉぉ!避けろ、サバイ!」
サバイ 「はい!ご主人様!」
リリアル「さ!サバイ様とおっしゃいますのぉぉぉ!卵!たーまごぉをををを!たーまあぅあごぉぉぉ!」
サバイ 「ぐぁ!ご主人様、超音波がぁぁー!こ、コレは『地獄の咆哮』、ソナタ噂に聞く『凶悪ドラゴンリリアル』くかぁぁ!頭が痛い!」
大魔王 「ひーひひひひ!リリアルよぉ!スピードをもっと出すのじゃぁぁ!なぬ!目の前にゴミが!我の進路を邪魔をするとは!コレでも喰らえ!」
大魔王の手から『獄炎の怒り』、黒い炎が放たれました。それを苦しむサバイに回復魔法をつかうと、フワリと見事な手綱さばきで避けるランスロット。
乙女 「まあ………ランスロット様ァァ、助けてぇぇ」
亜麻色の髪の乙女は、抱かれている腕から逃れようと、身をよじりました。サバイをモノにする為に猛スピードで、追いかけるリリアル、必死に逃げるサバイ。
獄炎の炎は、大地に落ちると、森を半分吹き飛ばしました。ゴウウゥ!と爆炎が渦を巻き空へと、あがってきました。それを目にした乙女が、激しく身をよじったその時、
リリアル「サバイすぁまぁぁぁ!たまごうぉぉぉ!美尻ぃぃ!尾っぽぉぉぉー!」
サバイ 「うぐわ!く、来るなぁぁ!痴ドラゴン!」
リリアルがサバイに突進していきました。サバイは、よからぬ好意を感知して、リリアルに痛烈な一言。ち、チチチチ!最後の一言に、ショックを受けた彼女は、キュッとブレーキをかけました。
乙女 「あ~れー」
バランスを大きく崩した計算高い人間の彼女は、轟々と黒い炎が燃え盛る大地に真っ逆さまに落ちていきます。そしてお約束の展開が。蒼の勇者が一足先に駆けつけ、亜麻色の髪の乙女をしっかりと受け止めたのです。
蒼の勇者「美しき乙女よ、我が来たからもう大丈夫」
乙女 「愛しい勇者様、ありがとうございます」
☆★☆★☆☆
大魔王 「またやってしまった様だ………大地創生の魔法を使うか………」
二人が仲良く飛び去るのを目にした大魔王は、はっと正気に戻りました。眼下には轟々と燃え盛る大地、はぁぁとため息をつくと、手をひとふり、
涼やかな緑の風が吹き下りました。炎は消え、草の芽が萌え立ち、木々が産まれ伸びていき、豊かな森が復活しました。
リリアル「フグフグふぐぐ〜、ひ、酷いです、こー見えてもワタシは未経験なのですよ!乙女なのにぃぃ、チチチチ痴どらごぉんー!ふええーん………」
大魔王 「なくな、リリアル、帰ろう城に………、そうだな、焼き立てアップルパイにアイスクリーム、チョコレートソースを添えて、ベルガモットでお茶にしよう」
リリアル「ふえーん、ご主人さまぁぁ、チョコレートソース、メイプルシロップも捨てがたいですぅぅ」
終。




