節分。【1000文字作品】
節分の夜。豆を用意しようと思い立つ。食べる為に……。案の定、そんな買い置きは無い。ビールのそれはきれなくあるけれど……。
コンビニ迄歩く2月2日の節分の夜。ぷらぷらと歩く。街のからっ風、コンクリートの上をカラカラ動く。
故郷は今頃、きっと雪の中だろう。田の畦に植えられている梅の木には、小さな丸い蕾がキュッと固くつぶつぶと赤茶色にあるだろう。
橋のたもとの桜の木には、ツンと尖ったソレが、陰鬱に雪雲が垂れ込める空を見上げているだろう。
どこもかしこも白、白、白。晴れれば目に刺さり痛い白。空気を凍らし何もかも静まれ眠れという白。世界がジリリとしか動かない。
足早に歩く人々。私も足早に歩いている。今年はイルミネーションを纏う事無く眠っている街路樹。のびのびと天に枝を伸ばしている。
コンビニにあった、鬼のイラストが書いてある、炒り豆の袋。それをひとつ。恵方巻きとかで、ハーフサイズの巻き寿司も売っている。何時から流行ったっけ……、私の幼稚園時代には無かった。
チェーン店の寿司屋があちこちに姿を見せた、小学生高学年の頃に、節分には巻き寿司が出る様になった。実家の母親は節分の夜に大晦日の様に、ひとり起きて過ごしていた。
マジナイをするからと、買い求めた豆を半紙に家族の年の数だけそれぞれに包み、おひねりみたいにしていた。
それを夜中に四辻に落としに行く。災いを持って行ってもらう為に。帰り道は振り返ってはいけない、そう云われがあると教えて貰っている。
帰り道、小さな交差点を渡る。この、四つ角だな。ふと気がついた。夜中に年の数、数え年だから一粒余分だな。それを半紙無いから、コピー用紙にでも包んで、ここに落としに来ような。
ビール飲みながら、豆数えてさ、今背負ってる厄、落としに来ようかな。
カサリとコンビニの袋。エコバッグ持ってくのを忘れたから仕方ない。
中には豆と甘い物が欲しくて見つけたロールケーキ、これまた恵方巻きとか書いてある。それを丸かじりするのか?多分するだろうな。
せめてお茶でも淹れて、囓ろうか。そして豆を摘みながら飲んで数えて、節分の夜をしよう。寝る前に覚えていたら、豆を落としに来てさ。
マスク越しでは吐く息も、そう白く外に出てこない。歩いて帰る街の道。足元はスニーカー。
雪降る街では。
長靴を履いてたな。それも丈が長いの。季節により履物も、時に応じて出し入れしていた。
雪国の暮らしをふと思い出した、節分の夜。