サラリーマンと唐揚げ弁当(奥様は大魔王その1)
ブラック企業で酷使されてるサラリーマンの彼には秘密があった。
そ、れ、は。
奥様は漆黒の大魔王なのです。
愛しの夫が帰ってくるのは、シンデレラも真っ青な時間。しかし妻の魔力はマックスポイント。
「はあ、疲れちゃったよ、ハニー」
「おかえりなさい、ご飯、お風呂、それともワ、タ、シ?」
「何その、コントみたいな。あれ?ブラウン管テレビだ。どうしたの?ってか!ボロアパートのこの部屋だけ高級マンション!」
「うふふ、魔法でチョイ。箱は拾ってきて魔力注いだから映るわ。これが持つ記憶の番組だけね」
「ふお、誰にも見られ無い様にしてね」
「大丈夫、ダーリン以外が、ドアノブ開けようとしたら地獄の窯に送るよう術かけてるから」
「地獄の窯、そこは閻魔大王の持ち場じゃ?」
「閻魔ちゃんは親友なの。さっ夕食召し上がれ、ちゃんとスーパー『安かろう悪かろう』で、特売半額を買ってきたの。ダーリンのお給料でやりくりしなくちゃ、私、妻ですもの♡」
「閻魔大王って女子だったのか。豆腐と牛乳とおにぎり。ホワイトだね」
「黒の大魔王が白い食事作るって、何かウケるぅ、アイタタって!ダーリンどうしたの?」
「筋肉痛なんだよ。社長にコンクリートブロックの倉庫を人力で潰せって言われて、ハンマー振るいっぱなし」
「まあ!私がこれからこっそり行って、鼻息ひとつで片して来ましょうか?」
「うーん、頼みたいけど僕のお仕事だから、ハニーに頼めないよ。お給料貰ってるからね、ありがとう」
かわいいハニー!素敵ダーリン!
白い食事の前でピンクに盛り上がる新婚夫婦。
アオーンと更けていく。
束の間の眠りに落ちる夫を眺めながら、妻はお弁当に力がつくものと考え、ドレッサーの鏡を使い灼熱の森の中へと出かけた。
翌日の昼。
「無理だよ、独りコンコンやっても潰れない」
サラリーマンの彼は嘆く。出来ないとクビと言われている彼。溜息をつきつつお弁当箱を開けた。
「唐揚げ!ハニーありがとう♡」
鳥のささ身らしい唐揚げがびっしり詰まっていた。パクつき完食をした。
そして。
「ただいま、ハニー!あの唐揚げ何!グーパンで倉庫、砂になっちゃったよ」
「おかえりなさい、ダーリン♡アレはレッドドラゴンのささ身、そのままだと人間には強すぎるから、ちゃんと閻魔ちゃんの窯を借りて、ボイルしてから調理したのよ」
「閻魔ちゃんの窯、ささ身」
「そうよ。魔界では翼あるモノの唐揚げは王道なの。お仕事ご苦労様。愛してるわダーリン♡」