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ある魔法使いのお話

るる子がお話してほしいと、お布団に入ってきました。

 おばあちゃん、寝る前にお話をしてえ、るる子が、布団に潜り込んで来ました。どれどれ?おばあちゃんのお話しでいいのかい?


 それでは、魔法使いのお話にしようかね。


 むかあし、昔、魔法使いがおりました。彼には使い魔の妖精がいました。二人は洞窟で暮らしてました。


 魔法使い「私の修行も、百年を迎えた。そろそろ山を降りてもいいだろう」


 妖精 「(やっと!働く気になったか)そうですよ、師匠の元で修行をして、普通ならすぐに世界に出るところを、その後すぐに山籠り、いかに私がゆーのーでも、もうお金がありません、けふん」


 魔法使いは、修行にしか興味がありませんでした。そして、清廉潔白な彼は、正当な方法で得た報酬で暮らすことを、彼の事を世話をする妖精に命じていたので、妖精はこの百年というもの、とんでもない目にあっていたのです。


 魔法使い「何と!私とお前が細々と、暮らして行くにも、金がいる時代なのか、何というご時世だ、これは私が、正さなければならない」


 妖精 「(さっさと正せや)人はパンだけでは、暮らしていけませんからね、旦那様は、木の実や草ばかりじゃ、力が出ないとかおっしゃるから、チーズやバターを買うために、私は人間の姿になり、町で働いていたんですよ!もう!ケッケ」 


 魔法使い「そうか、食べ物も着るものも、全てお前が整えてくれていた。それは使い魔としての仕事だろう、己の職務に忠実なのは当然の事。フ………魔法で作れない事もなかったが、私は自分や身の回りの事に、この魔力を使いたくないのだよ」


 妖精 「(はいいいい?ボケ!)高潔なのはよろしいですが、少しは周りの私の事も考えてください!使役される私は、主が放つ魔力のカケラが糧となるのです。そして、センニンソウ、これもろくに飲まずに来てるのですよ、羽がボロボロです、少しで良いので魔法を使ってください、契約により、ヒトの血が混じった私は、かつてのように天地に満ちる『気』は、ほんのちょっぴりとしか、取り込むことが出来ません、こほん」


 妖精はかつては大きく、透き通った美しい羽を、持っていました。それは妖精の魔力の塊。力を使えば使うほど、羽が傷んできます。それを防ぐのには、日々主が放つ魔力のカケラを取り込むことと、月の夜に、センニンソウの花の蜜を、一滴。


 この二つでいいのです。さすれば永久に主に仕える事が出来るのです。魔法使いと出会ったときは、彼は修行中でしたので魔法も日々使い、センニンソウも師匠の家にはありましたから、飲むことも出来ました。


 魔法使い「人は欲を出せば、はてがない、ほんの少しでも手に入るのなら、それを最大限活かせばよい、私を見てみなさい、日々の糧は少しで良い、着る物も贅沢はしていない、何も不服を言っていないだろう、努力が足りないのだ、愚かなお前に血の契約をしたものだ。師匠から言われて仕方なしだったが、センニンソウくらいあとで取りにいってやる」


 香りの良い白い花、センニンソウ。高い北の山奥深く咲く花です。街に行けば魔法道具屋で、売っている代物です。それを集めて店におろす、魔法使いもいるのです。


 妖精 「一滴でいいのです、買ってくださいな。でも、ご相談すると、とってきてやるからまちなさいとか、人が集めて売ったものは汚れてるとか、困ってしまいますよ、いいですか?羽が消えると、私も消えるのですよ、『時を渡る使い魔』が消える、これの意味することは……?旦那様!聞いておられるのですか!ゲフ」


 魔法使い「人間に混ざると、妖精も汚れるのか、なげかわしい、下世話な話はしないでくれ、私の魔力が、汚れてしまう、ところで今………金はいくらあるのかね?私は、今のそれは見た事か無いから、見せておくれ」


 魔法使いと妖精は、山道を降りながら話をしています。空を飛ぶなど、人の為ならばそうするが、今は歩けばよいと主が言うのです。なので石ころが転がっている険しい道を、ぬかるんだ谷を、茨の藪を歩く魔法使い。


 妖精は破れた羽でヒョロヒョロと、彼の後ろを飛びます。彼が空を飛べば、まとう魔力の中に入り込み、運んで貰う事が出来ます、糧を得ることも、でもそれは、高潔な彼にすると、間違った力の使い方。


 妖精は金貨が入った革袋を、魔法の呪文とともに出し、彼に手渡しました。忌々しく思っていても、逆らう事ができないのです。


 魔法使い「変わった形だな……、金貨が五枚、なんと!これしか無いのか、それに今のは、あれ程言っているだろう、自分の為に魔法は、使ってはならない、だから羽がそのように朽ちるのだ。これは私が運ぼう」


 ああ、何という哀れな妖精なのでしょうか、かつては透き通った美しい羽を持っていたのですが、今は見る影もありません。


 妖精を哀れに思った、風に太陽、月や水の精霊達が、力を取り込める様に心を尽くしますが、殻が出来上がっている、妖精には、ほんのひとなめしか、力は届きません。


 妖精は飢えていました。魔法使いは満ちていました。



 魔法使いと妖精は街にやってきました。大きなお城がある賑やかな所です。大通りで、美しい妖精を連れた魔法使いが、優雅にローブを翻して歩いています。


 妖精 「旦那様、街の中は夜は飛んでもいいですが、昼間はだめなのですよ。それとお城には、歩きじゃないと近づけません、結界魔法がかけられてます、こほこほ」


 魔法使い「ふ………結界魔法など私の前では無力、ん、目立ってはいけないから、心得よう、ほら、見てご覧哀れな者たちの姿を、家もなく路床が住処とは、それに比べ貴族か?金持ちは裕福だな、戦でもしておるのか?火薬の匂いがしておる」


 妖精 「ああ、隣国が攻めてきたので、守る為と聞いていますよ、げふん、ゲフン」


 魔法使い「なんと!ならば我が出向き、慈悲の雫、慈愛の涙の呪文で、終わらそう」


 妖精 「それはで、きませんよ、けほけほ、今の時代は魔力の介入は禁じられてます、こほこほ、それに私達も宿を取らねば、路床が寝床です、あ、私が働いていた、宿に行きますか?タダですよ、ゲホゲホ」


 魔法使い「そうか、それは残念だ………、宿か、ふん!金は払う、私は落ちぶれてはいない、それにしても埃っぽいな、ああ、清らかな山が懐かしい、外界はどうして煩雑で、汚れた世界なのだろう」


 二人はひときわ賑やかな一画に来ました。ウリカイ横丁です。通りの両脇には様々な店が並んでいました。そこにも哀れな物乞い達がいました。



 それに慈悲の瞳を送る魔法使い。そんな彼の後ろを、咳き込みながらヒョロヒョロと力なく浮かぶ妖精。その姿を哀れに見る、美しい妖精を連れた魔法使い達。あの男は魔力が尽きているのか、とヒソヒソささやき合います。


 まさか自分の事を、言われているとは思わない魔法使いは、飛ぶのがおぼつかない自分の使い魔の事に、気づきません。


 ある店の前に来ました。そこは魔法道具屋。


 色々な書物が積み上げられてます。樽にはキラキラ蠢く目玉、薬草、チュルチュルと動きながら瓶の中で絡み合う糸の塊が、コエを上げています。店先の古ぼけた一冊に手を伸ばし、読む魔法使い、


 僅かに魔力を使って読んでいます。そうでなければ読めないのです。しかし魔法使いは、その事に気が付いていません。


 でも、その力の放出に気がついた妖精は、主のローブの中に素早く入り込みました、そして糧を取り込みました。ああ、どうしてこの時、妖精は主に頼まなかったのでしょうか、


 どうしてローブの中にはいったのか、この店にはセンニンソウが、売っているというのに、その事さえ気が付かないほどに、切羽詰まっていたのです。



 店主 「お客さん、その文字が読めるかね、魔力を流し込まねば読めない、古代魔法の呪文書さ、どうだ?金貨五枚、安いだろう?それと、センニンソウはどうかね?良いものが、届いたところさ、金貨一枚、お客様の妖精が飲めば、美しさが倍増すること間違いなし」


 …………センニンソウか、金貨一枚だと?勿体ないな、私が飛んで取りに行けばタダですむ、金が無いのだからそんなものに払えるか、魔法使いは懐の五枚の使い道を考えます。


 宿、今の身なりも整えたい、どう見ても周りの魔法使い達より見劣っている、新しい書物もほしい、もう少し安ければこれを買うのに、古代魔法の書物は師匠から一冊もらい、読んだが諳んじてしまった。新しいのがほしい。だからムダ金は、使えんな。


 魔法使い「………、ふっ、くだらないな、これ位魔力を使わずとも私は読める、もっといいものかと思ったが、要らないね、私には必要ない、それに、センニンソウも飲ましたところでね、もちろん!私が手ずから与えている、摘んでその場でね、新鮮なのが一番さ、時間がたった物など、私のアノコに飲ませないでおくれ、汚れていまう」


 そう話をしながらパタンと本を閉じ、横柄に店主にそれを、突きつけるように手渡しました。呆れたような店主


 店主 「そうですか、私の店は良い品しか置いてないのだが、ふん!冷やかしか、何処の田舎から出てきたのか知らないが、もっとまともな身なりをしてきな!」


 腹が立った店主は、離れる魔法使いの背中に向けて、そう声をかけました。そしてブツブツ文句を言いながら、店の中に戻りました。


 魔法使い「くだらない、人心が乱れておる、荒んでおる!やはり私の力を持って何かを成し得なくては、ん!おい、何処だ?」


 店主の姿が見えなくなったのを、確認した魔法使いは、先ずは身なりを整えるか、店は?と妖精に聞きました。


 返事がありません。


 あたりをキョロキョロ見渡した魔法使い、そして、ローブの中に引っかかっている、妖精に気が付きました。何をしているのだと、忌々しく思い、バサっと振り落とすように払います。


 キラキラキラ………緑の光の粉が、あたりに舞いました。


 哀れな妖精は、時が終わってしまったのです。


 ザザザザア…………黒い砂が、あたりに広がりました。


 魔法使いは、びっくりとして、立ち尽くしたまま、呪文の一つも詠唱せずに、黒い砂に変わってしまいました。


 チャリン、チャリン、チャリーン、チャリ、チャリーン!


 五枚の金貨が、飛び跳ね転がります。わっと物乞い達が集まりました。


 砂は、かきちらされ金貨は拾われました。緑の光は精霊達がふうわり集めました。それを大切に胸に抱いて、空へと消えました。


 この世を己の力で変えること、何かを成し得る事を望んだ魔法使いは、とりあえず五人の物乞いに、数日間の糧を与えることをやり遂げました。


 そして彼は、自分自身以外の者達に、魔法を使うことなく、時を終えましたとさ。



 終。



挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
[良い点] わたくしも、他人ごとではないので、面白くも怖かったです。 あ…わたくしは魔法も使えないや (;'∀') [一言] お邪魔しました <(_ _)>
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