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香る風吹く、貴方様に囚われる。

プロットなのです。この先は、少しばかり練り込んだら書こうかな♡、執筆中に置いて置くと埋もれるので、こちらに保管。

 沙羅双樹の甘やかな薫りが、風に揺らされ広がります。金銀花(スイカズラ)の芳しい薫香が、私の鼻孔をくすぐるのです。それは私の側近く歩かれる、貴方様の、美しく結い上げられた髪から流れているのです。


 翡翠、真珠(しらたま)瑪瑙、金銀の細工、花簪を差し、幾枚も重ねた絹織物。香后妃様のお色は与えられたお館が、南西の庭園、なので五行の習いにより、翠をお受けとりになられました。


 新緑の庭に、その色のお召し物をまとわれた、尊き貴方様がお歩きになられると、側近くお仕えしている私は、胸が高まり誇らしくなるのです。


 香后妃(こうこうき)、沙羅様。


 遙か遠い波斯(ペルシャ)のお血を引かれる、胡姫(こき)と呼ばれる女性(にょしょう)、抜けるような白い肌、翠の瞳、髪の色は黄金が降り注いだ様な、輝ける茶の色。初めてお目にかかった瞬間、宦官であるにも関わらず、奥深く押し込め隠した心に、危うい火が灯りました。


 それはまるで香炉の中にある火種ように、燃え盛ることもなく、消える事もなく、貴方様が纏われる香木を、しりしりと燻す様な、そんな静かな熱を絶えることなく放つので御座います。


 身体に放たれた熱は、私の魂を、チリチリと焼いていくのです。苦しくて切なくて、悶る様。


 離れようと考えた事もございました。しかし、日々(かんばせ)を拝する事が消え、こうしてお手を取ることも、お声をかけて頂く事も絶えてしまう苦しみとを、天秤にかけた私は……。


 焼かれる事に身を任せる方を選んだ次第。


 ちょろちょろと水が流れる音が聞こえています。こちらに吹く風に水気を感じます。ほつれた髪を、自らの指でお直しになられる高后妃(こうこうき)、沙羅様。見やる爪には、爪紅草の花の色。


 ああ……私は髪を解く様に絡まるこの風になりたい。


 やがて辿り着いた池の畔。水面に昼下がりの日差しを受け、キラキラと反射をしています。日除けの為の長柄の傘を持つ、同僚が少しばかり傾けてかざします。その白い柔らかな(かんばせ)を守る様に。


 さあおいで、貴方様は声を掛けます。細かく砕いた麩が入った銀の器を、宮女から差し出されると、爪を薄紅に染められた指先を、おいれになられました、親指、人差し指、中指でひとつまみなされます。


 ぱらぱら、水面にそれを落とされます。色とりどりの玉石が敷き詰められた池の底から、一斉に上がってくる、緋色した鮒達。それらを間近で見るために、しゃがみ込もうと、貴方様は私に御手を差し出されました。衣の裾を別の宮女が、汚さぬ様に手に取ります。


 池の畔にて、私達に介添えされつつ、ふうわりとしゃがまれる貴方様は、大きく、そして色鮮やかな、紅色の芍薬の花が咲いている様。国土から集められた、珍しい緋色の鮒と、少しばかりお戯れになる為に、その御身を水面に乗りだされます。


 ああ……何という、貴方様に集まり、ぱくぱくと口を開たり閉じたりしている、緋色の鮒、それを眺めつつ、餌を側近くに落とされます。水面からパッパパッパ、チャポチャポ………、と、水玉が跳ね上がります。


 冷たいわと、鈴を転がすような声。下がりそうになる袖が濡れぬ様に、それぞれに侍る宮女達が、上に引き上げます。


 日の光の下、顕になる白き手首に腕の柔らかさ。焚きしめられた、百華香が艶かしく、濃い色で立ち昇ります。


 ああ……私は燃やされ煙になり、貴方様の御身に染付く、お香になりたい。


 ぱくぱくと口を開たり閉じたりを繰り返す、集まる緋色の鮒、手ずから餌をお与えになられる貴方様は、童女の様に無邪気に、魚のそれに笑顔を向けておられます。


 ああ……私は水面で口をぱくぱくとさせている、緋色の鮒になりたい。その指先に、ツイ、と、触れる事が出来るやもしれないから……。


 ああ……その指で摘んだそれを私も。


 やがて立ち上がられ、館にお帰りになられた貴方様。途中、髪に飾られていた生花が、石畳みの上に落ちました。落とした物などに見向きはされません。側に侍る年若い女の童が、目敏くそれを見つけて拾い上げました。


 私は少しばかり歩みを遅くし、胸にそれを抱く彼女に声を掛けます。


鈴々(りんりん)、それを渡しなさい、後で庭師に言いつけ、新しいひと枝を手渡してやろう、天から落ち、地に触れた物は穢れとなる。こちらで処分をするから」


 はい、とそれを手渡す女の童。良い子だねと、褒める事は忘れません。それと小さな約束も。


 手の内に貴方様の、髪の香りが染み込んだ細い枝先の金銀花(スイカズラ)の花。懐から白絹を取り出すと、丁重に包んで懐へと戻したのです。


 歩を速めて再び元の位置に帰りました。美しく気高き貴方様の側へと。気まぐれな風が裳裾を揺らして、少しばかり強く吹きました。玉石で創られた、帯玉がぶつかり、涼やかな音を立てます。


 緑色濃い風の中、歩く貴方様から芳しき香りが、その場に柔らかく広がります。それは私の懐に入っている、それと重なる物。


 香后妃(こうこうき)、沙羅様。


 私の道を閉ざすかのように現れた、傾国の美女。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ほおう、切ない! ……と思ったら、↓の感想返信の 『変態宦官』 に吹きました……ww どのようなストーリーに仕上がるのか、楽しみです!
[一言] ふうむ。いろいろなストーリーが考えられます。 これは魅力的。
[一言] うおおお、世界観が美しいですね! これがプロットとは……! お見事です!
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