ネズミのおはなし
ネズミさんが何か語りたいそうです〜。
男と女がいたでチュ、何やら話しておる、ちょいと聞いてみるでチュウ、市中から外れた家に、住んでる、家ネズミなり、チュウ。
男 「あっちもこっちも、世の中なってないない、何じゃこの『瓦版』は、嘘八百もいいところ、ワシャ、悲しゅうなる」
女 「市中で、拾ったのです。でも、まっとうに批判してますね………今日も明日もご飯はあります、生きていれば先が、ありますよ」
男 「ちょっとした先なんて、しれとる、その先を見なくちゃならん、こんな嘘にだまされて、どうなるのかの、先の時は」
女 「いつの先何かより、私は今が大事」
男 「ワシャのぉ、先のことを考えると死んでしまいたくなる。そうかと言って、お偉い様には、なぁなんにもいえん、卑怯者じゃぁ、じゃが離れた土地が、戦に焼かれるのを知ると、悲しゅうなる」
女「(まーた、始まったわ)そんなに、この国の事をお考えならば、雑兵になり刀を手に取りなされ、私はここで待ってますから」
男 「(ぶるぶる震える)ひ!人殺しなど、そんな事をしたら、皆に何を言われるか!戦でも人殺しは、人殺しだ」
女 「(うっとおしいわね)お国の安定のためならば、よろしいかと、それか、貴方は文字が達者ですわ、この様に、今を批判するものをお書きになるとか」
男 「(ガタガタ震える)そ、そんな事をしたら、ここには、おられんようになる、上つ方を否する事など、おそろしい、おおっぴらに書けぬ」
女 「(はあ?いい加減にしろや)書いてるお方もいらっしゃいますけど、そう、旅巡りもいいかと、この地には未練などありませんし、私にあれこれ言っている事を、書けばいいだけ、道中に版木屋にでも売りましょう、お足になるわ」
男 「(メソメソする)こ、ここを離れて、離れても見えるものには蓋は出来ん、そはいっても、書くことも戦うことも出来ん、ワシャの悩みは尽きぬ」
女 「(あー、苛々する)ならば世捨て人になりましょう、全部売り払い、お寺に寄進して、私は尼寺、貴方は仏門」
男 「(下をうつむく)人の心が荒んどる、お前もそうなのか………」
女 「(お前のせいで、荒むんだよ)ですから、お互い仏様に極楽浄土がこの地に来るように、念仏唱える生活を、送ろうではありませんか?」
男 「(しょんぼりする)お前は、ワシャの事が嫌いなのか?そりゃ、ワシャなんにもできない、仕方のないニンゲンじゃが、誰よりも深く、国の行く末は案じておるのじゃ」
女 「(うっさいわね)嫌いも何も、腐れ縁の夫婦です。いちいち惚れた腫れたを言うのですか?貴方様の、遥か彼方まで案じる先見の明は、ご立派だと思っております」
男 「(少し嬉そう)そ、そうか、お前に何時も、ワシャの夢物語を聞いてもらっておる。すまない、迷惑だな、でもおまえが賢い女だから言えるのじゃ」
女 「(来たわ、キタキタ!)かいかぶりですわ、ほんの少し、貴方に読み書きを習っただけですもの」
男 「(ニコニコしている)いやいや、なかなかの達筆じゃ、何時も熱心に手習いをしておる。おお、そうじゃ、ワシャの夢物語を書いてくれんかの、人目に触れずとも、形にしておきたい」
女 「(はあ?何ほざいてんだよ)ご自分でお書きになれば?」
男 「(顔をしかめる)も、ももし、誰かに見つかったら面倒じゃ、お縄になるかもしれん(ガクガク震える)」
女 「……………!わかりました。今宵より早速書きますわ」
チュウ?いつもと違う展開になってきた?何時もなら、ご冗談を、旦那様。で終わるでチュ、どうしたでチュウ。
それから女はせっせと、忙しい家事の合間に、書いてかいて書きまくったでチュウ。男が上屋敷の仕事に出かけると、女も内職の縫い物の品物を収めに出かけたでチュ、どっかによってきたらしいでチュ。
女 「神様、上手くいきますように」
ニコニコしながら帰ると、パンパン神棚に手を合わせていたでチュ、お供えのお餅は、美味しくいただいたでチュウ。
そしてある日、知らないお客が饅頭手にして来たでチュ、上がりかまちで、女が書いたのを次々に、読んでたでチュ。
客 「面白いよ、姐さん、どうだい?ワッチらの仲間にならないか?『書き手』を探してんだよ」
女 「売上のいくら貰えるかによって、決めるわ、それと、約定を守らない場合は、どうなるかはわかっているでしょうね、私は拐かされ、脅されて手伝わされた、そう言って元をもって、お上に駆け込むから、女がまさか、ご時世批判のネタを書くとは思わない、写し手と思われる、私の罪は市中追放ね、ならば上方にでも行こうかしら?そこでまた書けば良いこと」
客 「ほお!大した玉だね、ワッチらを舐めてもらっちゃ困る。お上に捕まるようなヘマはしねぇ。気に入った!わかった、約束は守る、仕事をしてくれるかい?金になるよ、あんたの世界」
女 「(上手くいった、ありがとう旦那様)ええ、もちろん、市中イチのご禁制の書き手になってやるわ、お互い儲けに儲けましょうね」
客 「じゃぁ。姐さん、一本シメでい、よ〜お!」
パン!二人は手を同時に鳴らしたでチュ、チュウ、それから饅頭を一つ、竹包から取り出すと懐紙の上にのせて、床に置おいてくれたでチュ。
そして女は頭から『櫛』を抜くと、座敷に向かって、えいやぁと、放り投げたでチュ。
客 「おお!やるねぇ、三行半!」
ぱちぱち手を叩いてるでチュ、ふふん、と笑って用意していた、大きな風呂敷包を抱えると、そのままお客についてったでチュウ。
そのまま帰って来なかったでチュウ。
おしまいでチュ。