大魔王とリリアル〜青鼻のトナカイ編〜
むかーし、むかしあるところに黒のお城がありました。お城は、美しいお花畑が広がる中にあります。ところどころに桃やりんごの木が植えられていて、とても綺麗な場所です。
大魔王 「ほら、ブッシュ・ド・ノエル、君も食べなさい」
今日もきょうとて、甘い香りが漂う城内、大きく切ったひと切れを嬉しそうに頬張るリリアル、ふんふんとケーキの匂いを嗅いでいる、赤鼻のトナカイがお客人です。
リリアル「おいひー、で、その青鼻のトナカイちゃん、なんで逃げたの、サンタのじいちゃん怖いじゃん」
赤鼻君 「彼女とデートしたいのに、クリスマスイブに仕事するのは嫌だって、青鼻君は今年選抜された新人なんだ、だから知らないの。モヒモヒ、おいひい!」
大魔王 「トナカイ隊に選ばれるのって凄い事なのにねぇ、若い者の考えはわからないな、で君が探しに来たの」
赤鼻君 「はひ、そーです、ゴクン。美味しかったですぅ、サンタクロース様はこちらに寄るから、それまでに捕まえなさいって、あれ?首輪の香りがする」
カタカタと地面に置かれた銀の皿を舐めた後、鼻をヒクヒクさせる赤鼻君、その時空から声とチリンというベルの音がしました。皆が見上げればそこには若いトナカイの姿。
青鼻君 「あ!ダッサい先輩!いーなー美味しそーなの食べてるー」
赤鼻君 「青鼻君!降りてきなよ、心配したんだよ、サンタ様に迎えに行くよう頼まれて、まだ怒っておられないから、大丈夫だよ」
青鼻君 「へ?サンタ爺さんなんか怒っても屁じゃねーよ!怖くねーモン!」
リリアル「まー!口の悪いコねえ、主様をそんなふうに言っちゃだめでしょ!」
リリアルが上を見上げてそう言います。すると……、
青鼻君 「へ!今はブルーライトの時代だぜ!レッドの光なんてダッセー!あー!オバハン知ってしー!『嫁かず後家のドラゴン』だろ」
嫁かず後家……、オバハン……、ぴき!リリアルが固まりました。その様子を見た大魔王が優しく諭します。
大魔王 「これこれ、降りて来て誤りなさい、女のコに失礼だろう、それに先輩をそんなふうに言ってはいけないよ」
青鼻君 「けっ、ホントの事っしー!大魔王様も知ってしー『暴走族!ボッチ大魔王』様」
暴走族、ボッチ……、びき!大魔王が固まりました。上からキシシシシ、我ながらいい事言ったと青鼻君が満足しています。はらはらと地上の二人と上を見交す赤鼻君。
大魔王 「キシシシ……、か、謝るどころか笑うとは、己許せん!リリアル!」
リリアル「はい!とっ捕まえてやりましょう!」
赤鼻君 「あわわわ!青鼻君!早く降りるか逃げるかしてぇ!あ!いいですよ!僕が捕まえに行きますから、ああー!行っちゃった……」
ボワン!リリアルがドラゴンの姿に戻ります。ヒラリと背に乗る大魔王!さぁショーの始まりです!
青鼻君 「捕まえられるもんなら捕まえ………ヒー!や、ヤバい!逃げろぉぉ!」
大魔王 「己若造!よくも気にしていることを!」
リリアル「大魔王様!一発放っちゃって下さいな!このクソガキ!嫁かず後家、いかず後家!オバハン!キィぃぃ!シヤァァァァ!」
空を縦横無尽に駆け回る青鼻のトナカイを追いかける大魔王達、はらはらしながら眺める赤鼻のトナカイ、そこに、シャンシャンと鈴の音鳴らし、サンタクロース御一行様到着。
サンタ 「やれやれ、おや?何やら賑やかになってるねえ、赤鼻の迎えに来たよ」
赤鼻君 「あ!サンタクロース様!青鼻君は上ですが、どうします?捕まえて連れてき来ますか?それとも後で迎えに来ますか?」
サンタ 「そうだね、とりあえず君はリーダーなのだから、皆の先頭に立ちなさい、上でなんとかなったら連れて行こう、ならなかったらあの二人にお任せして、後で迎えに来るよ、子供たちが待ってる急がねば」
生真面目に答えたサンタクロース、子供たち……、赤鼻君は呟くと言われた通りにします。
サンタ 「では!行くぞ!ホホーイ」
シャンシャン!鈴が音立てトナカイ達が駆け出します。ふわりと宙に浮く橇、サンタクロースは、御者台に座っています。それはまさしくお伽噺のワンシーン。
シャンシャンと鳴る鈴、サンタはブツブツと何やら小言を言っています。
サンタ 「そう、子供たちが待ってる、待ってる、ヤドリギも飾らず、家族も集まらず、ミサにも行かずノエルも歌わず、クリスマス、クリスマス、イブしか盛り上がらんとは、何たること!祭りにした先に、今から行くのかぁぁ!ぎゃおおおっス!」
今年はジャパニーズトーキョーから配達することになっていたサンタは、あれこれ思い出し吠えました。
サンタ 「くそぉおお!大人ガキが、ろくでもない事しやがってんだよ!はあ?お前ら成人だろうが!人様のめーわくての考えろ!てか!あの青鼻の!あやつも成人してたな!ここはお仕置きを!」
赤鼻君 「あの、サンタ様……、まさかのアレでございますか……?あーあ、出しちゃったよ、どうしてライフル準備してんのかなあ、あーあ、ブチ切れてるし、どうしてサンタ様も大魔王様と変わんないんだよおぉ、やんなっちゃう」
後ろをチラチラ見ながら赤鼻君は、ため息をつきます。仲間のトナカイ達は、サンタクロースから放たれる異様な気迫にビビっています。
サンタ 「青鼻のぉぉ!これでも喰らえ!」
御者台に仁王立ちになる赤い服着たサンタクロース、手にはスナイパーライフルが、そこから発射されるのは、『当たればプチ不幸に見舞われるマジカルBB弾』
新しい靴でわんこのう○Pを踏んだり、浮気中に今かのとであったり、トイレに入り、出るときに携帯をドボンとか、命に危険は無いが、確実に不幸になる事が必須の魔法の弾丸。
青鼻君 「ひえ!今なにかシュッって………ひぉぉぉぉ!コココ、怖!ジジイ!おおおお、鬼ぃぃ!ぴー!」
青鼻君をかすめて過ぎるマジカルBB弾!それに気がついた彼が振り返ると、そこには赤い服着たサンタクロースの姿が。まるで赤鬼の如く憤怒の形相。
赤鼻君 「青鼻君!サンタクロース様怖いって、教えたでしょう!おとなしく捕まりなさい」
恐怖のあまり脱兎のごとく空を駆ける青鼻のトナカイに、赤鼻のトナカイはのんびりと声をかけます。
青鼻君 「ピィィィー!こ、怖いよぉぉ!おかあさぁーん!ピェーン!」
青鼻のトナカイの情けない声が上がります。それを聞くチームトナカイの雌達。
雌達 「やだぁ!おかーさーん、だって!きゃー!キショ!マザコンよぉ!いやぁあん!」
赤鼻君 「あーあ、タマ当たんなくても青鼻君、なんかフコーになりそう……」
シャンシャン!シャンシャン!鈴がなります。空を飛ぶ橇の上には、ライフルを構えたサンタクロース、彼は悪い大人ガキには、サンタお手製マジカルBB弾をプレゼントするのが、ここ数年の決まり……。
サンタ 「そこになおれい!青鼻のぉお!」
大魔王 「このクソガキ!一発お見舞いしてやろうぞ」
リリアル「いかず後家!嫁かず後家!オバハン!キシァァァ!」
シャンシャン、シャンシャン、空を飛ぶ橇、それを先立ち引くのは赤鼻のトナカイ。彼はため息をつきます。
赤鼻君 「はぁぁ、聖夜なのに、どうしてこうなる。メリークリスマスはどこに行ったのぉ、どこに行ったのかなぁ」
お、わ、り☆