大魔王とリリアル〜ジャク・ランタン メモリー編
お城にお使いが来ましたよ。
むかーし、むかしあるところに黒のお城がありました。お城は、美しいお花畑が広がる中にあります。ところどころに桃やりんごの木が植えられていて、とても綺麗な場所です。
大魔王 「ほーら、焼けたぁ、パンプキンパイ、アップルジャムもできた。少し潰そうか、そしてダージリンに入れて、ロシアンティーにしよう」
今日も今日とてお庭では、大魔王のお手製のスィーツを切り分けお皿によそうと、薔薇の花が描かれたティーポットポットから、紅茶を器に注ぎます。
リリアル「ジャム多めに入れてもいいですかぁ?あ!それとぉ、ジャック様から、お使いコウモリが来てます」
リリアルの頭の上にはちょこんと、小さなコウモリが止まっています。彼は、ハロウィン王国に仕える、伝書コウモリです。
コウモリ「コンニチワです。オウサマにはご機嫌麗しゅうです、今日はキングのお使いで来たのでアリマス、これをドウゾお受け取りくださいマセー」
大魔王 「やあ、いらっしゃい、今からお茶にするから、化けたら?そのほうが食べやすいでしょう?はい、親書だね、ありがとう、ここで読むからゆっくりしなさい」
気さくに彼に声をかける大魔王。ハイイ!イタダキマスウ!との声と共に、ボワンと黒髪、金目の男の子に変化したコウモリ。
リリアル「………、ショタか………幅を広げるべきか、ああ!悩むうぅ!」
コウモリ「はあ?リリアルさん、僕はこう見えても、結構なおじいちゃんデスよ、それに本体コウモリだし、ナニより愛する奥さんも息子も娘も、孫ひ孫もその先も、沢山イマス、ふぁぁ、美味しソウデスー」
リア充………シャー!どうして私には、春が来ないのおぉ!とコウモリに冷たく一蹴されたリリアルは、親書を読む主に泣きつきます。
大魔王 「あー、ハイハイ、気にしない気にしない、それよりも………ウ~ンどうしようかな、行きたいけどねぇ、お城から出ない方がいいかなぁ、ハァァー、お嫁さんほしいし………気をつけないと」
大魔王はリリアルに大きめに切り分けた、パイを差し出しました。そしてジャムをひとすくお茶にいれると、軽くかき混ぜてから、飲みます。そんな彼にお使いコウモリが話しかけます。
コウモリ「ハグハグ、おいひーです。来られないとキングが、カナヒミまふー」
ウ~ンでもねぇ………、と遠い瞳で人間時間の『昨年』、ここでのちょっと前を思い出しました。
大魔王 「えー、ジャック………人間界に行くの?空飛んで?」
ジャック「空?飛ばない飛ばない、大丈夫だよぉ、街の者たちといっしょに、鏡の穴抜けて行くから、さささ、遊びに行こう!ホラーナイトさぁ!ヒーヒヒヒ!あ、リリアルも人間に化けたら大ジョーブ、キーヒヒヒヒ!」
大魔王の背を友人が押します。彼が………このジャックこそが『恐怖の大魔王』と思っている、ハロウィン王国のキング『ジャック・ランタン』に。
そして、ジャックのお城にある魔法の鏡から、時空が違う人間界へと出向きました。そこは20XX年の東の島国『TOKYO』という街でした。
大魔王 「ふぁぁ!凄いねぇ、人間も妖精も悪魔も、アヤカシも天使も精霊も、幽霊もまぜこぜパーティーしてるよぉぉ!」
ジャック「ダロダロ!キーヒヒヒヒ、ハロウィンナイトカーニバルゥ!さあ!楽しまなくちゃな!皆!トリックアートダァ、イタズラしまくれ!キーヒヒヒヒ!」
大魔王 「ん?ジャック?空………君の城に使えている魔女達だよね………、あんなところで何をしているの?地上に降りても大丈夫だと思うよ、他の魔女も人間が、そんな感じの服着てるのも、沢山いるし」
ジャック「ン?我が飛行隊は、気にしなーい、気にしなーい!ほらほら、あ!リリアル!はぐれたらイケナイ!帰れなくなると、こちらで陰になり溶けちまうよ!」
大魔王 「あ!人間化してるんだった、ほら手を、魔法をかけておこう、私の手と繋がった………これではぐれないが、こちらでは空を飛ぶのは駄目だからね」
リリアル「はい!りょーかいです!ありがとうございますぅ、あ!美味しそうなモノいっぱいありますよー、何か食べたいです」
そうだね………でもお金どうしようか、と生真面目な事を話す大魔王に、ジャックはダイジヨーブ、小鬼に買いに行かせようと言いました。
大魔王 「お金こちらの今持ってないね、一度見たら出せるけど、てかどうして小鬼?」
ジャック「トリックアート、お菓子をくれなきゃイタズラするぞで、貰えるように術を仕込んでるのだ、ヒヒヒ!あー、中天に月が………見ろ!ここの月は美しい、ヒヒ!ひー!どうした魔女子ぉお!」
空を見上げたジャックは、芝居がかってあわてます。なぜなら一人の年若い魔女がフラフラとしたあと、空から落ちてきたのです。咄嗟に動いたリリアルと大魔王。
空からは彼らの行動をぼかす為に、魔女達が『目くらましの風』を空から地上に降ろします。落ちてきた魔女っ子を空中で優しく受け止めた大魔王。リリアルはドラコンの姿に戻ってます。
大魔王 「大丈夫ですか、お嬢ちゃん」
魔女っ子「はい!だいじょーぶです。ありがとうございます」
大魔王「ああ、やはり………空は、良い!行けリリアル!」
リリアル「えー!ダメです!」
魔女っ子「あ!リリアルさん、目の前に黄金のドラゴンが、目くらましの術を、主様が自らかけられますので、見えないでしょう?助けてくれたお礼に、今見せてあげます。えーい!」
魔女っ子が、手にした杖をひとふり、キラキラとした粉をリリアルの視線の先に振りまきました。すると見事な赤い髪の魔法使いが、これまた見事な黄金のドラゴンに乗って、悠々と空を飛ぶ姿が目に入りました。
リリアル「ふお!これはぁ!『赤の魔法使い、レキアス様』のイケドラゴン!『フレイ』様がここにぃ!ふぅれいすぁまぁぁぁ!タマゴ産みたいですぅぅ!ターマーゴぉぉぉ!」
空から異世界のハロウィンを楽しんでいた、赤の魔法使い、レキアスは、その咆哮に振り返り驚きました。もちろん、黄金のドラゴンのフレイは主に、逃げましょう、あれは『凶悪ドラゴンリリアル』と言っています。
そして始まる空中戦、それを満足そうに見上げるジャック・ランタン、ハロウィンキング、嬉々として皆に司令を飛ばします。
ジャック「キーヒヒヒヒ!魔女子ぉ!それに皆!ちゃんと地上に迷惑がかからない程度に、大魔王の魔法を『拡散』しろぉ!あとは地上部隊でフォローするぞぉ!皆のもの!落ちてくる恐怖のかけらを拾って、使え!小鬼、吸血鬼!魔法使いに、ゾンビー!人間共に恐怖を与えろぉ!さあ!ホラーナイトの始まりさぁ!ヒーヒヒヒ!」
………、ああ、やらかしちゃったのだよ。やっちゃったんだよな。リリアル、ん?お前も思い出しているのかい?
リリアル「ふ、ぐ、え、ふぇぇぇーん、フレイすぁまぁぁあ!す、ストーカードラゴンって言われたぁぁ」
コウモリ「そりゃあ、アレだけ異世界で、尻ヲ追いかけれはソーなりますっテ、しかし大魔王様も見事な『恐怖』を振りまいてイタダキ、サイコーのハロウィーンになりましたゾ!人間共の狂乱に拍車がかかり、キングは大満足でゴザイマシタ、アリガトウゴザイマす、ソウイエば、あれ以来魔女っ子ワ、大魔王様は『真の恐怖の大魔王様』だと今でもソレはもう怯えて、ウラヤマシイものでゴザイマス」
大魔王「ウラヤマシイ?…………、真の恐怖の大魔王………うっ、だからか、この前、ジャックの所に遊びに行ったら、魔女っ子達に怖がられちゃったのは、ふ、皆逃げてった………」
大魔王は、お茶をもう一杯入れました。甘いジャムを、ひとすくい、遠い目をしながら、くるくると銀のスプーンでかき混ぜます。
リリアル「ああーん!ストぉかぁー、いやーん、フスフス、しくしく」
大魔王「泣くな、リリアル、ほらもう一切れ食べなさい、そしてハロウィンだが、城にいよう、そうジャックに伝えといてくれないか」
お使いにそう話す大魔王。一方ハロウィンキングのお城では………
ジャック「ヤツがいないと始まらなーい、恐怖のホラーナイト、ヒーヒヒヒ、断るだろうから、作戦を練ったぞ!皆のもの集まれー!キーヒヒヒヒ!」
ハロウィンに向けての作戦会議が、国民全員集合で執り行われていましたとさ。
終。