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のんびり時々復讐を。  作者: カロ
第一章 轟かす神の寵愛者
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第四話 契約



 一体、何日が過ぎただろうか。一週間? 一か月? それとも一年? 分からない、何も分からない。


 段々自分がおかしくなっていくのが分かることが怖い。この部屋の吐き気のする匂いが好きになっていっている。次第に、行為が気持ち良いと感じるようになっていっている。


 あぁ、誰か。誰か僕を……()()()()()()()()()()()()


「飯だ。食い終わったら呼べ。戦果を挙げてる奴はまだまだ沢山いるからなるべく急げよ? じゃなきゃ1日飯抜きだ」


「……はい」


今の僕は隷従の首輪というものがつけられており、主人である国王の命令には背けなくなっている。そして国王から出されている命令は大きく2つ。


『他者の言動に逆らわないこと』


『他人、または自分に危害を加えないこと』


 加えて、女神により精神耐性が平均より十数倍高くされているようで、壊れることもできないため今までずっと初日の嫌悪感が続いている感じだ。


 からからに乾いたパンを唾液で湿らせて無理やり飲み込むと、見張りの人に食べ終えたことを伝え、お皿を返す。毎回このパン一つしか食べられず、水分はあいつらの尿を飲んでどうにかしている。

 ……当然あんな汚いものを飲むのは吐き気がする。しかし飲まないと死んでしまうのだ。これは命令の後者に当てはまってしまい、飲むのを自分の意志で拒否し続ければ一時間の死ぬより辛い痛みが走るようになっているのだ。


 くぎゅるるる、と情けないお腹の音がなるがどうしようもできない。恐らく、そろそろ数人がこの牢屋にやってくるだろう。その前にトイレを澄ましておくことにしよう。そうすれば、要求されても出ないで済ませることができるし幾分かは楽になるだろう。


 やがてコツコツと複数の足音が聞こえてくる。……数は三人? この人数なら数十分で終わるだろうか。早く終わらせて寝てしまおう。ゆっくりと侵食され、おかしくなっていく自分をもう見たくないんだ。


「よう、渚。二日ぶりか? きょうも頼むぞ?」


「……蓮」


 聞きなれた声が聞こえ、一瞬吐き気がこみ上げ、口の中に苦い味が広がる。


 こいつの声を聞く度に、何度も何度も吐きそうになる。いや、一度だけ本当に吐いたことがあったか。その時は気持ち悪いと暴力を振るわれ、休む暇もなく殴られけられ続けた。


 実際、蓮だけでなく暴力を目的にやってくるものもいる。原型がなくなるまで顔をなぐられたり、爪を剥がされたり、指を一本ずつ折ってきたりと。その都度、凄腕の回復術士とやらに、元通りにされてしまうのだ。


「……用は何?」


「おぉ、俺からやらせてもらえるってか? んー、そうだな。じゃあ今日はお前から腰を振ってもらうわ。いいな?」


「――っ! ……分かった」


 蓮が他の二人を差し押さえて前に出ると、服を脱いで床に仰向けになる。


 今すぐに舌を噛み切りたい。……本当にこいつに自分からしなければならないのか。

 躊躇していると、命令に背いていると首輪が判断したのか、ピリピリと軽い刺激が体中に走る。


 仕方がない。やるしかないんだ。やるしか――


『力が欲しいか?』


 突如、聞こえてきた声に思わず動きを止める。あの女神のように透き通った綺麗な声、だが、あの女神のような大人びた声ではなく、どこかまだ幼さの残っているかわいらしい声でもあった。


 慌てて辺りを見渡すも、それらしき人影はない。そして、驚くことに他の三人にはこの声が聞こえていないようだった。

 一体今のは、そう考えている間にも刺激はどんどん強くなっていく。


『むぅ、すまん。一度だけ言ってみたかったのだ。……コホン、改めて問おう。もし、勇者たちや騎士たち、国王、そして、望み往く神〈エルピダ〉に復讐できるほどの力が手に入るのなら、お主は、それを望むか?』


 再び声が聞こえてくる。これも同様三人には聞こえていないようだった。蓮には、僕が一向に動かないからなのかイラつきの表情が浮かんでいる。


 何なんだよ、これは。力なら欲しいに決まっている。でも、そんな都合の良い話なんかあるわけない。……幻聴なのか? ついに聞こえるようになるまで壊れてしまったのだろうか。


『ほれ、早くせんか。でなきゃ、その首輪が発動して、酷い目にあうぞ? あぁ、それとも信用ができないのか? ほれほれ、制限時間はもうすぐだぞ~?』


 きりきりと体が痛み始め足がプルプルと震えてくる。呼吸も荒くなり、汗があふれ出る。

 

 あぁ、もう。……誰だか知らないけど、今はお前に頼ってやる。裏切られると知ってれば大丈夫だ。決して、お前を信用しない。でも、力が手に入るなら、復讐ができるなら、ここから抜け出せるなら……僕は……


「ちっ、いい加減さっさとやれよ。辛い思いすんのはお前なん――」


「欲しい、欲しいに決まってるじゃないかっ! だから早く僕に力を……っ!!」


 蓮の言葉を遮り、声を荒らげて、そう宣言する。

 どこからか、ふっ、と笑い声が聞こえたかと思うと、再びあの声が聞こえてきた。


『よかろう。ならばこう叫ぶがいい。【虚ろなる神〈ラディアズマ〉を我が主とすることをここに宣言する。支配契約(カノナス・シンボレオ)】とな』


 不思議と、今に言葉が一語一句間違わずに頭の中でリピートされる。

 大きく息を吸い、蓮に聞かせるようにして声を上げる。


「【虚ろなる神〈ラディアズマ〉を我が主とすることをここに宣言する。支配契約(カノナス・シンボレオ)】!!」


 そう叫んだ瞬間、パリンと首輪が砕け散り、今までの痛みが嘘だったかのように消えて無くなった。

 三人とも、あり得ない、と驚いた表情で固まっており、少しも動かない。


 どうやら、あの少女、恐らくラディアズマが言っていたことは本当だったのだろう。これで漸く自由に身だ。……まずは目の前にいる蓮を殺し、今までさんざん好き勝手してくれたクラスメイト達と騎士達、そして騎士団長と国王を殺し、最後に女神……いや、エルピダを殺して終わりだ。後はゆっくりとこの異世界生活を満喫して――


『まぁ、待ちたまえ。今のお主じゃ、まるで力が足りん。このままでは呆気なく殺されて終わりだ。とりあえず妾が遠くの地に飛ばし、そこで色々と説明をしてやろう。ほれ、目を瞑っているがよい』


「むぅ……。分かった、今はラディの言うことを聞いといてやろう。一応命の恩人だし」


『ら、ラディだと!?……いや、それも中々悪くないな。それに愛称とやらをつけられたのは初めてだ。こうも気分が良いものなのだな』


「いいから、早くしてくれない?このままだとホントに殺されそうなんだけど……」


 漸く状況に気付いた蓮や二人の男が、立ち上がってこちらに近づいてくる。

 それが見えているのかは分からないが、ラディが、渋々分かったと返事を返してくるのを確認し、目を瞑る。瞬間、この前と同様、瞼の上からでも眩しいほどの光に包まれた。


 やがて数秒が経ち、光が収まった。薄く目を開き、問題ないことを確認すると、しっかりと目を開いて、辺りを見回す。

 そこで見つけたのは……何故か、和室でお茶を片手に正座している、ゴスロリ衣装を着た少女だった。


「え、えっと……」


「うむ、さっきぶりだな、ナギサ。妾がラディアズマ改めラディだ。よろしく頼む」


 あぁ、ラディって……面倒臭いやつだ。

 

 そう、心の中で強く思った。

 

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