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のんびり時々復讐を。  作者: カロ
第一章 轟かす神の寵愛者
3/29

第二話 期待外れの女神

6/5 エルピダのセリフを一部変更。


 『それでは、簡潔にお話をさせていただきます』


 自称女神の言葉によって、しんと静まり返っていた場が急に騒がしくなり始めた。

 それもそうだろう。寧ろそうならないほうがおかしい。当然のことながら先ほど困惑の表情を浮かべていたクラスメイト達が声を荒らげる。


「お、おい、どういうことだよっ!?」


「意味分かんない! 早く戻して!」


「何これ……。ゆ、夢なの?」


「俺tueeeが……ハーレムが……」


 休みなく続けられる騒ぎ声に思わず顔をしかめ、耳をふさぐ。


 混乱するのも分かるけどさ、まずは女神の話を聞きたいんだけど……


『それでは、簡潔にお話させていただきます』


 定期文を繰り返すNPCのように、再び同じセリフを口にする。

 流石にそれに気が付いたのか、場が瞬時にして静かになった。


『現在、私の管理する世界《ユグドル》……まぁ、名前は覚えなくても構わないのですが、この地は邪悪なる存在である魔王によって危機に瀕しています。恐らくあと数年後には……。そこで異国から選ばれし皆様方の出番というわけです』


 女神の声を食い入るように皆が聞いている。

 ゴクリという、唾を飲み込む音さえもこの場では大きく聞こえるほどだ。


 しかし、やっぱりこの召喚は魔王討伐という胡散臭さ全開の召喚のようだ。……いや、確かにさ蓮みたいなテンプレ主人公もいるし、鈴花みたいな清楚系(笑)ヒロインもいる。ましてや、さっき紹介してなかったけど、真面目でクールな委員長に怖そうなヤンキーもいる。そして、いじめられっこの存在は僕を含めて何人かいる。

 そう、完全に場がそろっていたのだ。……あとはだれが復讐者になるかだけど。うん、まぁぼくはなりたくないかな。別に衣食住があればずっと寝ていられるし、というか裏切られるのはもう勘弁だ。


『異国から来た者には皆例外なく強い力をもっています。鍛えれば世界最強になれるほどの……』


「ま、待ってください!俺たちは戦争のない――」


『安心してください。皆様は身体補正という、私の管理する世界の人間たちよりもずば抜けて良い身体能力や魔力が与えられます。そしてもう一つ、皆様には一人ひとりに合った能力、所謂異能という存在が与えられます。例えば、正義感が強いものには英雄系の能力が、賢いものには知力系又は魔法系の能力がといった感じです』


 蓮の質問を遮るようにして、女神が質問に答える。その声には多少面倒臭さが混じっており、恐らく何度も同じ質問をされたのだろう。……女神よ、これはテンプレで必要な言葉なんだ。ゆるしてやってくれ。


 しかし、成程。異能があるのか。僕のだと何なのだろうか。……やっぱり、ゲーム関連かな? それとも寝てても強くなる的な? うぅ、一体どんなのになるんだろ。楽しみぃ。


『皆様を召喚したのは私が直接治めている国、リベルティア王国の国王です。今からそちらへとお送りしますので、なるべく粗相がないようにしてください。……それでは、時間があまりないので早速送らせていただきます。強い光による失明の恐れがあるのでしっかりと目を瞑っていてください』


 その声を最後に、段々とあたりの白が明るくなり始め、まぶしいと感じるほどになっていく。

 女神の先ほどの言葉を思い出し慌てて目を瞑ると、更に光が強くなっていき瞼の上からでも眩しいと感じるようになる。


 突然、ふっと光が収まり恐る恐る目を開ける。


「……え?」


 その先にあったのは、最初に思わず目を瞑った後に見た光景と全く同じ光景だった。

 つまりは……あの白い空間ということ。


 どういうことだ? このまま異世界へと召喚されるんじゃなかったのか? 

 蓮に状況を聞こうと辺りを見回し蓮を探すが……どこにもいない。いや、そもそもここには僕以外いなかった。


『あなたが柏木渚さんですね……あぁ、もういいや。どうせこいつしかいないし普通でいいよね。んで、君が柏木渚なんだよね?』


「え、え……? あ、まぁ、はい。そうですけど……」


『えっとね、時間がないからぱぱっと言うけど。異世界人はほぼ例外なく平和ボケしてて、なかなか強くなろうと努力しないのよ。大抵の人が、殺すことを恐れたり、自己陶酔しちゃう。だからこそ、強制的に強くさせなきゃいけないのよ。その方法はいくつもあるのね。例えば危機的状況。所謂火事場の馬鹿力ってやつだね。でもまぁ、これは論外。普通に死ぬやつもいるし』


 ど、どういうこと? 全然状況が掴めないんだけど……。

 皆に置いてけぼりにされたかと思ったら、女神が急変して、挙句その内容は強くなる方法って……いや、本当に意味が分からない。


『そこで、私ってば天才的な考えを思いついたのよ。それが、犠牲と褒美。まず、犠牲者がいればその人のためにと嫌でも鍛えることになる。例えばそう、好きな人とか大事な人が誰かに捕まったとかね。そしてもう一つが、鍛えればその褒美に君の望む物をやろうってやつ。例えば、好きな人を自由にする権利とか』


 ……何が言いたいんだ、この女神は。

 犠牲? 褒美? 確かにこれがあれば努力するだろうけど、それを僕にだけ教えて、一体どうしたいんだろう。別に、僕には好きな人なんていないし……いや、でも大事な人はいる。なら前者は僕にとって有用な方法……まさか、蓮と鈴花を!?


「ま、待って! 蓮と鈴花だけはやめて! 僕の大切な親ゆ――」


『何か勘違いしてると思うけど。……ねぇ知ってるかな? 御影鈴花って人と五十嵐蓮って人、君のことを恋愛的な意味で愛してるんだって。それとそれと、君は知らなかっただろうけど、このクラスの人たちね、君のことを恋愛対象に見てる人多いんだよ? 男女関係なくね』


「な、何を言って……」


『つまりね、私のシナリオはこう。……あれ? 僕の体が何故か女の子に。異能が戦闘向けじゃなくて役立たず、国王に雑魚認定されて捕まっちゃった! 何やら、女子には魔王に捕まったって説明されてるらしいけど、男子には戦果を挙げれば僕を自由にしていい権利が与えられちゃったらしい。……僕は毎日犯されるし、魔王の所に僕はいないから討伐されても救われない。助けて~! ……どう? よくない?』


 女神のふざけた棒読みの演技に、思わず足が震えてしまう。

 ……これでもこいつは神様なのだ。シナリオ通りにできたっておかしくない。

 い、いや、でもそんなこと起きるはずがない。蓮は僕の大親友だ。きっとすぐに助けだしてくれるだろうし、鈴花だって僕が捕まっていることを知って助けてくれるかもしれない。そもそも、僕が捕まらなければいいだけの話だ。あっちについたらすぐに2人に説明してどうにかくぐり抜ければ……


『私ね、神様だからある程度の記憶は見れるのよ。……まさか、忘れたわけじゃないでしょう? 信じることは馬鹿げてることだって』


「……う、うるさい! 蓮と鈴花は絶対に裏切らないんだっ!そんなことになるわけ――」


『まぁいいわ。苦しい思いをするのは君なんだし。あ、そうそう、簡単に堕ちないように精神耐性は馬鹿強くしてあげたから。すっご~い辛いと思うけど頑張りなさいね? あはっ、楽しみだわ……それじゃあ、またね~』


 再びあの光が訪れ、目を瞑る。が、今度は何故か、ずんずんと頭に響くような刺激が加わっている。思わず体がふらつき、目を閉じたまま両手で頭を押さえ、地面に座り込む。


 何だこれ……頭が痛くて、ふらふらして、意識が……。


 そのまま耐えられることもできず、ふっと力が抜き、そして意識を落とした。

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