第十三話 初の魔物狩り
買ってきた牛肉のようなステーキとリトさん曰く甘い飲み物のアプルジュースを落とさないように慎重に持っていき、恐らくリトさんが威圧をかけたせいで誰も近寄ろうとせず空いたままの席に着く。
リトさんも座った後、手を合わせて、恐らくこれが夜ご飯になるであろう、ステーキを口に運ぶ。
「……んぐ、んじゅ、あむ。んくっ。……固いです」
「ギルド飯だからしょうがないねぇ。レストランならこれの数倍は柔らかいんだけど……」
「んなっ!? それ先に言ってくださいよぉっ!!」
「だってナギサが眠そうだったんだもん、あまり無理させたくないしね」
「う、それは……すみません、ありがとうございます」
痛いところを突かれ、渋々謝罪する。
それを言われたらどうしようもないじゃないかっ!! お金払ってもらってるし、面倒見てもらってるし、挙句の果て、超気遣われちゃってるし。……待って、これ僕が意見言う事永遠にできなくない!?
疲れている顎で何とか食べ続けるも、結局顎の疲れと小さくなった胃袋によりノックダウンしてしまい、食べかけはリトさんが食べることとなってしまった。一瞬、これは間接キスなのではっ!? と驚きはしたが、考えてみればこの行為は鈴花が良くやっていることだったため、すぐに冷静になれた。リトさんはめちゃくちゃ手が震えてたし、フォークを口に入れたあと、中々口から出さなかった。少し引きました。
気が付けば、漸く日が沈んだようで、それに気づいたころから、段々と本調子、いや、それ以上の力が溢れてきた。今なら、街中を走り回ってヒャッハーできそうだ。
「リトさんリトさん、ここら辺に魔物出るところありません!?」
「は、はぁ!? もうすぐ夜……って、そっか、ナギサは吸血鬼だったものね。うーん、まぁいいわ。ただし無茶はしないこと。いいわね?」
「は、はい!」
ついに夢にまで見た、異世界無双を見せるときが来たっ! 吸血鬼と寵愛者の最強パワー、待ってろ、世界最強よっ、すぐに地に落としてやるからな! 誰だか知らないけどっ!
リトさんに連れられ、数分歩いてやってきたのは、すでに暗くなった草原だった。ここは、門から出てすぐのところで、角の生えた兎、ホーンラビットや、最弱のスライム、ブルースライムが出るとのこと。
すると、どこにそんな容量があるのか、リトさんは普通のバッグから一本の鉄剣を取り出し、僕に手渡した。
「剣士って書いてたけど、これで大丈夫かしら?」
「え、あぁ。ありがとうございます。まぁ、扱い方とか一切分かりませんけどね……」
「……記憶ないんだっけ。って、じゃあ何で剣士って書いたのよ!?」
「そりゃまぁ、かっこいいですし、リトさんは後衛っぽかったんで」
はぁ、と大きくため息をつき、こちらにジト目を向ける。
甘いぞ、ジト目は幼女がやってこそのキュン死案件だ。リトさんがやると、普通に怖い……あ、いや、本来の目的はそっちなのか。
ま、まぁいい。早速狩りの時間だ。どんな竜でもかかってこい!
ふと、奥からたたたっと何かがこちらに走ってきた。ぴょんぴょんと飛びながら迫ってくる様は実に愛らしい。
「か、かわいい……。これがホーンラビット。リトさん、お持ち帰り……うわっぷっ!!」
話している途中にホーンラビットは僕の胸元に体当たりをしてきた。あまりの不意打ちだったため、軽くよろめくが、そのままホーンラビットを抱っこして頬ずりする。
伸びた爪で体を引っ掻いているのか手をバタバタとふっていて、その姿もまた可愛らしい。
「リトさん、お持ち帰り、お持ち帰り!」
「い、いや、めちゃくちゃ攻撃してるんだけど、それ……」
暴れるホーンラビットを落とさないように頑張って抑え込もうとするも、僕の体に対してホーンラビットは大きく、抱くだけでも精いっぱいだ。
「よ、よし、これから君の名前はラビだっ! ホーンラビットのラ――ふぐっ!?」
暴れていたラビの角が、運悪く気管部分に突き刺さり、思わずせき込む。
ケホケホと咳をしている間にラビは腕から抜け出し、着地した後すぐさま戦闘姿勢をとった。
……痛いし苦しい。
「……お仕置きですよ、ラビ。ご主人様には敬意を払わなければいけないことをしっかりと体に叩き込ませてあげます、てりゃぁっ!!」
少し痛い目に遭ってもらい、上下関係を分からせようと、ラビに加えた五%程度のげんこつは、しかし、ラビの頭を中心に発生した衝撃波による風が後ろのリトさんにも届き、悲鳴を上げる。一方のラビは軽く地面にめり込み、口から血を吐いて死んでいた。……死んでいた。
「ラ……ビ……。ラビぃぃぃぃぃっっ!!!」
埋まっている体を抱え上げ、開いたままの目を優しく手で閉じさせてあげる。
ひとしきり涙……は流してないけど、感傷に浸った後、抉れている地面を更に深く掘りその中に入れる。
「どうか安らかに。……【燃やせ、火球】」
ラビの体をしっかり燃やしてあげ、燃えるところが無くなったところで土を被せて手を合わせる。
一つ息を吐くと、立ち上がりリトさんに向けて言う。
「じゃあ、早速魔物を殺しに行きましょっか!」
剣を振り回しながら、スキップで草原を走っていく。
魔物~、魔物~、魔物は駆逐~♪
速攻で作った歌を口ずさみながら、見つけた魔物にたっと駆け寄り剣でどんどん倒していく。
「……今、ナギサの深い闇を見た気がするわ」
リトさんの呆れ声は、魔物狩りに夢中の僕の耳には届かなかった。
現在、僕とリトさんは街から数キロ離れた先にある山の頂上にいます。加えて、Sランク級魔物のコカトリス六体に囲まれている状態です。リトさんは僕のおふざけのせいで石化してしまい、大ピンチです。
「はぁ、絶対これ、リトさんに怒られるよねぇ」
リトさんの肩に足をかけて、肩車されている状態になりながらそうつぶやくと、闇の上位魔法を唱え始める。
「【絶望の闇に喰われろ、暗黒の手】」
途端、コカトリス達の足元から無数の黒い手が現れて目や口に侵入する。やがてコカトリス達は抵抗する間もなく体を倒して息絶えると、リトさんの頭をパンパンと叩く。
何回か叩いているうちに、体が白く光りだし、パリンと石が砕け散って、中からリトさんの本体が現れた。
「おぉ! リトさんおはようございます!」
「……ナギサ? 言っておくけど、石になっても聴覚と視覚は遮断されないからね? 言うべき言葉分かってるわよね?」
リトさんの言葉に、思わず体を固める。
そういえば、リトさんが石にされた後、面白くて顔やら胸やらをぺたぺたと触ってたんだった。
ごめんなさい、その言葉を口にする前に、リトさんの堪忍袋の緒が切れてしまった。
「だいだい何で私まで一緒に空を飛ばされるはめになるのよ、確かに吸血鬼だから飛べてもおかしくないんだろうけど、そこで私をつかむ必要はないでしょ!? しかも、それで飛んできた先がディズリオの森の奥の山!? Sランク級の魔物しか出ないのよ、ここは!! コカトリスが出た時なんか、あんた触ろうとしたじゃないの!? お陰で私が庇って石になって。緊急事態だってのに、私の体をペタペタペタペタ!! それに、あの詠唱は何よ!? 上位魔法だってのにめちゃくちゃ適当じゃない! そのくせなんであんなに安定した魔法を放てるのよ!?」
「あ、えと……。あ、あはは……」
とりあえず、苦笑いをし、リトさんを宥める。
何か、最後だけ褒めてなかったかな? 全く、素直じゃないんだから、リトさんは。さてはツンデレだな!? いや、まぁ、ツン要素多すぎて、ツンツンツンデレだったけどさ。
とりあえず、この件は僕が全力土下座をしたことにより一件落着となった。ただ、街に戻った後は、リトさんの家まで超強く手を握りしめられ離れないようにされた。……実際は力ずくで離れることもできたんだけど、流石に怖くてできなかった。
そのあと、無理やり一緒にお風呂に入れられたり、髪をいじられまくったり、同じベッドに寝かされ抱き枕にされたりと大変な目に遭ったが、こうして僕の楽しい異世界生活、一日目(本当は空腹で倒れてそのまま一日目が終わっていたらしいけど)は幕を閉じた。