第十一話 ロリコン
リトの、ルウァン(ギルマス)に対する口調を変更。
受付の人に案内され、支部長室へと入室する。中は特に変わったものはなく、周りに並んである本棚にびっしりと本(恐らく資料)が敷き詰められていて、真ん中に、対面する二つのソファと間にある机、奥に高級そうな作業机があるだけだ。
……あと、その作業机の後ろに窓がついていて、ソファと机を日の光がぎらぎらと照らしていた。
「適当に座ってくれ」
「……ぶぅ」
リトさんがソファに座ってしまったため、しょうがなくその隣に座る。
すぐさま、疲労と眠さ、脱力感が訪れ背もたれにぐだー、っともたれかかる。リトさんに頭を小突かれるがそんなのは関係ない。注意するならこのギルマスにしてくれ。
「……まぁ、いい。フレネ、紫電と少女に結果を渡してやってくれ」
「は、はいっ!」
フレネと呼ばれた、あの受付の人は僕とリトさんに紙を一枚ずつ渡すと、そそくさと壁際まで下がっていった。
少女は僕のことだとして、紫電ってリトさんのことかな? 二つ名は憧れるけど、これはけっこう恥ずいぞ。実際、リトさんもこっちをチラチラ見て顔色うかがってきてるし。
それは置いといて、紙の内容を読んでみる。書かれていたのはこんな感じだ。
段位能力値
筋力 SSS 火 S 雷 S
体力 SS 水 S 氷 SS
魔力 SSS 風 S 霊 S
土 S 強化 S
闇 SSS 精霊 F
聖 F
う、うわー、なんか強そー(棒)
ま、まぁ、ラディから力もらっていたからおかしくはないことなんだけど、呼び出されたくらいだし、やっぱ異常? てか、何故か精霊と聖だけ最低ランクなんですけど……。あれか、闇を生きとし生ける者だからか。闇に好かれ過ぎた者だからか。くぅぅ、ダーク主人公ないすぅっ!
「あ、あはは、すごいんだろうなぁとは思ってたけどやっぱりよねぇ……」
「……。紫電は何か知っているようだな」
「強迫使っても無駄よ? 私からは一切言う事ができないから」
む、何か二人がバチバチしてるぞ。これは関わっちゃいけないパターンだ。
……しかし、僕は言わなければいけないことがあるのだ。勇気を振り絞って、いざっ!!
「あ、あのぅ……。うひぃっ!?」
手を挙げて、前かがみになる。すると、ギルマスがぎろりとこちらを睨んできた。
何、この人。怖すぎでしょ。なんか魔法でも使ってるんじゃないかってくらい次元を飛び越えた怖さだ。お陰で少しちびっちゃったじゃないか。
だがっ!ここで引くわけにはいかないっ! 引いたら負けなのだっ!!
「ひ、日差しで、ね、ねね、寝ちゃいそうなのでカーテンを閉めていただきたいのですが――っ!! ……ひぅぅ、ごめんなさい。何でもないですぅ。ただこのままじゃ本当に寝ちゃいそうと思っただけで、決して悪意はなく、寧ろ失礼なことになってしまうから気遣った上での発言でして、その……」
「……はぁ。フレネ、カーテンを閉めてやれ。あとコーヒーを無糖で彼女らに」
「うぅ、ありがどうございまず、ギルマスぅ! 危うく果てるところでじだぁ」
涙を流しながら感謝を伝えると、ギルマスはこめかみを押さえながらため息をついた。
こ、怖いけど、後悔はしてないぞっ! 寧ろあそこで自らの欲望に負けて寝てしまったらギルマスに挽肉にされる恐れがあったのだ。これくらいで済んで助かったんだよ!
カーテンが閉められ日差しが遮られたことにより、少しは怠さがなくなり、頬を強く捻って、完璧に意識を覚醒させる。
「あら、随分丸くなったのね、ルウァン。いつもならそんなことは無視して、さっさと強迫で話を済ませていたのに」
「……流石にこんな化け物にはできん。それにさっき使ってもお前は無効化したじゃねぇかよ」
「何の話です?」
何かさっきまでのリトさんの雰囲気と違って、だいぶ大人びてるなぁ。今までは十代後半の雰囲気だったけど、今は見た目相応の二十代前半の感じ。お偉いさんの前だからかな? それとも僕に対する相手だったから?
僕が会話に入り込んだことで2人の視線がこちらを向く。……おぉ、こわ。
「この人はねぇ、強迫っていう異能を持っていて、これを使いながら話しかけることで相手に恐怖を植え付けるのよ。それで知りたいことを洗いざらい聞き出すって荒業をするの」
「……うわぁ、お偉いさんがそんなことしていいんですね……」
「うっ、正面から言われると流石に応えるな。許してくれ、これも仕事なんだ」
「あれ、もしかして化け物云々じゃなくて子供に弱いだけなんじゃないのかしら? プークスクス」
「……随分といい性格をしているな、紫電。そんなに殴られたいか?」
「ふふ、ねぇ、ナギサ。ちょっと耳を貸してくれる?」
言われた通り耳を近づけると、あまりにもおぞましい言葉を、リトさんから告げられる。流石に断ろうと思ったが、報酬に好きなものを食べさせてあげると言われたら断ることなんて不可能だ。異世界の食べ物は頬がとろける物が多いに決まっているっ! 待っていろ、何とかの宝石箱よ!
早速、ソファから立ち上がりギルマスのもとへと走り寄る。
「お、おにぃさん……。ナギサ、抱っこしてもらいたいなぁ。ダメ……かなぁ?」
「うぐっ、そ、それはだな、あの、いや、別に嫌というわけじゃないんだが……」
「……ダメ?」
「わ、分かった! 分かったからそんな目で見ないでくれ! 抱っこなら、ほら、いくらでもしてやるっ!」
上目遣い、人差し指を唇に、もじもじしながら、そして涙目という最高のコンボが炸裂し、ギルマスはついに堕ちてしまう。
持ち上げられた瞬間、男特有のむさ苦しい匂いがして一瞬眩暈がする。
くぅ、男に抱っこはされたくなかったが、異世界料理が待っているのだ。我慢我慢。
しかし、この人何歳だ? 顔だけ見ると三十後半あたりだろうか。ただ、この初心な反応を見るともっと若く感じる。一体どれくら――
「失礼します。コーヒーをお持ち――っ!? あ、いえ、そうですよね! ギルマスだって男性ですものね! た、ただもうちょっと年齢にあった女性を……い、いえ! 決してそういう趣味を否定するつもりはないんですよ!? そ、それではコーヒーを置いときますね。失礼しましたぁっ!!」
嵐のように現れ、嵐のように帰っていく受付の人。
ありゃりゃ、これは完全に死にましたね。ギルマス。リトさんなんか、めちゃくちゃ笑い堪えてるし。てか、ギルマスの顔を見るのが怖い。絶望の顔? 悲しみの顔? 怒りの顔? 何かどれもあり得そうで怖いわぁ。
「ギルマス、ご愁傷さまですよ。大丈夫です、分かってくれる人もいますから」
恐る恐る、振り返ると、そこには完全に表情を失くした男性の顔があった。そっと、抱きかかえる手から抜け出し、ソファに座る。リトさんは、綺麗なサムズアップを向けてきた。ドンマイです、ギルマス。
「さ、さて、それでは本題に入らせてもらうぞ」
ギルマスには顔を合わせないように、コクリと頷く。
結局あの後、念のためにと砂糖とミルクを持ってきたあの受付の人にリトさんが笑いをこらえながら事情を話したところ、全力でギルマスに謝り、事は済んだ。
とはいっても、室内がピリピリムードに包まれているが。
「単刀直入に聞く。あんたは、吸血鬼で、そして、闇の寵愛者か?」
ちらりとリトさんを見ると、コクリと頷かれた。信頼しても大丈夫という事だろうか。
しかし、そんなことで話すほど、僕は人を信じない。
「そうですねぇ。では……契約をしましょうか」