表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のんびり時々復讐を。  作者: カロ
第一章 轟かす神の寵愛者
10/29

第九話 テンプレ冒険者




「なんだかよく分からないけど……。今のは異能なのかしら?」


「あぁ、はい。じゃあ念のため、このことも他言無用ということにしましょうか。それじゃあ、色々と説明しますね?」


 【契約】のことも、流石に知れ渡るとめんどそうなので、一応他言無用の範囲に入れることにする。


 さて、問題は、どこからどこまでを伝えるかだけど、異世界人やリベルティア王国の話は黙っておくことにしよう。闇の寵愛者であること、【契約】という異能があること。吸血鬼であること。記憶は実際にないことにしておく。恐らく、嘘をつかなければ契約内容に触れないはずだ。嘘をつかずに、伝えることは伝える。まさに完璧の技だ。


 やがて、何とか記憶がない的な感じで誤解するように、一通り話し終え、今度は僕がこの世界でどのような立ち位置なのか、どういう動き方がベストなのかを聞いてみたところ、返ってきたのは以下のような感じだった。




 ・寵愛者は聖を除いて、確認されているのは計六人で、僕を入れて七人になる。また、神の使いともいわれるため、国によっては貴族以上王族未満の扱いになる。


 ・【契約】は、国が知ったら確実に政治利用されるため、使う際は確実に他言無用の条件を付けるべき。


 ・吸血鬼は、ディザイリア王国の種族間差別撤廃法という、平等な扱いをすること的なことが示された法に含まれているが、人によっては忌み嫌う者もいるため、無暗にばらすのは危険。また、認められているのはこの国と僅かな集落くらいで、寧ろ魔物扱いにしている国もあり、吸血鬼討伐を仕事とする、ダンピールという種族もいるから、気を付けたほうがいい。




 こんな感じだ。あ、あと、闇だから悪という概念は一切ないようで、それに関する差別は気にする必要はないとのこと。……リベルティア王国は聖しか許してないらしいけど。


 また、こうして色々な話を聞いてみると、リベルティア王国はかなり腐った国らしく、例を挙げるときりがないらしいが、聞いたところによると、世界全体で定められている法では国家間での争いは宣戦布告をしなきゃいけないのだが、それを一切せず、国民が寝静まったころに襲撃してきたり、何度も様々な国に軍を派遣して、無条件で傘下に加わることを提示し、断られるとそのまま襲ってきたり、国家無干渉地域という、国が保有してはならない地を勝手に占領したり、他国の保有する森や鉱山を荒らしたり……とにかくヤバい国らしい。


 ただ、まるで洗脳されているかのように、リベルティア王国民は国王に絶対の忠誠を誓っていて、攻めようにも悪さをしていない人を傷つけることはできず、攻められないのだとか。


「……リベルティア王国。最低ですね」


「……えぇ、そうね。私も実際……。あ、いえ。さて、話はこんなものね。それにしても、ナギサが寵愛者で吸血鬼とは。これから先大変よ~?これが知られたら上層部は、引き入れようとあれよこれよと近づいてくるだろうねぇ。ただでさえ、吸血鬼は強いってのに寵愛者の力まであれば流石にねぇ……」


 ですよねぇ。面倒くさいことには巻き込まれたくないし、とりあえず、のんびり適当に過ごしていれば平凡な生活を……。


 ……あぁ、やっぱりだ。何でまた、復讐することを忘れてるんだろう。どうしても他人事にしか思えない。次にラディに会ったときに聞いてみたほうがいいかもな。確実におかしいもん、こんなの。


 まぁ、いつ会えるか分からないし、結局はのんびり適当に過ごす方向でいいよね。

 異世界といえば、冒険者になったり、ケモ耳モフったり、エルフ耳も触りたい。あとは、超カッコいいペット手に入れたり、妖精と戯れたり! 兎に角たくさんあるのだ。そして、最終的にはアニメ好きなら誰しも夢を見る男のロマン、ハーレムを作って、甘やかしてもらいたいっ!


「急にニヤついてどうしたのよ。ま、まさか私の体でエッチな想像を……。うぅ、ナギサがそこまでしたいなら、別に私は……。ぶつぶつ」


「あ、いえ。確かにリトさんは綺麗ですし、十分魅力的だと思いますけど、残念ながら僕はカワイイ派なので」


「……へ、へぇ。そう。さ、さて! それならまずは冒険者に登録しに行きましょうか!」


 何やら、肩をプルプル震わせながら、引き攣った笑みでこちらに向かって告げてきた。


 しかし今は、そちらに気を取られている場合じゃない。リトさんは今、聞き逃せない言葉を言ったのだ。そう。冒険者の登録、と。

 早速、たくさんある、異世界に来たらやりたいことの一つがこんなにもあっさりとかなってしまい、思わず歓喜に打ち震える。


「ぼ、冒険者……。あっ! リトさん、今って何時ごろですか!?」


「今? 今はそうねぇ。ナギサが起きたのが昼の十四時頃だったから、十六時ちょっと前くらいじゃないかしら」


「……え? あ、あぁ、ありがとうございます」


 何時とかの概念、この世界にもあるんだ……。てっきり日の位置とか、あとは別の表し方かと思ったけど、はっきりと何時っていうのがあるのは、ちょっと意外だなぁ。異世界感が薄れて残念だけど、分かりやすくてありがたい気もする。


 にしても、まだ日がギリギリ出てる状態かぁ。別に今は怠くないけど、日に当たったら怠くなりそうだよねぇ。……んー、でもやっぱり慣れとかなきゃ不味いかな。よし、なら特訓がてらに外に出てみるか! 早く冒険者にもなりたいし。


「なら、早速行きましょ!」


「そうね、暗くなる前に……って、吸血鬼だったわよね? 大丈夫なの?」


「ラディ……じゃなくてラディアズマ様のおかげである程度は大丈夫っぽいんですよ。ほら、実際僕を助けたのも日が出てる時でしたでしょ?」


「ん、そういえばそうね。でも、あまり無理しないでよ?」


「はい! もちろんです! ほら、早く行きましょ!」


 リトさんの腰を無理やり押し、扉の方へと連れていく。触った瞬間変な声を出されたが、そこは聞かなかった振りをしよう。……うん、十分に可愛らしい声でした。大人な女性の魅力に堕とされそうでした。


 五歩分くらい押したところで、自分から歩き出すようになり、手を放す。ここでは、少し大人びた、名残り惜しそうな声を出したが、今度は揺さぶられなかった。……大丈夫、僕はカワイイにしか興味がないようだ。












 長い長い廊下を進み、漸く玄関にたどり着く。屋敷内には本当に人気が一つもなくだれも住んでいないようだった。にも関わらず、廊下には埃がほとんど落ちてなく、こんな広い屋敷を一人で掃除しているのかと尋ねたところ、どうやら雷魔法の超応用で、静電気を作りパパっと埃を集めているらしい。

 ……確かにすごいけど、良いのかそれで。まぁ、苦笑いをして流したけど。


「はい、靴はこんなのしかなかったけど大丈夫かしら?」


「く、靴まで……。ホントにありがとうございます……」


 差し出された靴を履き、いよいよドアを開ける。瞬間光が玄関に差し込む。一瞬クラっと来るが、これなら耐えられそうだ。どうやら、あの時の疲労は、空腹やら久しぶりの外やらで別の疲労が重なっていただけのようだ。


 ……それでもやっぱり、これは怠いな。今すぐあのベッドまで戻りあと一週間は寝たいと思うくらい怠い。しかし、冒険者になるためだ。ここで諦めるわけにはいかない。勝手に体が引き返さないように、申し訳ないけどリトさんの服を握らせてもらおう。


「い、行きましょう。リトさん」


「ふふっ、そうね。パパっと行っちゃおうか」


 頑張れ、頑張るんだ僕。ここで挫けちゃ柏木家の、そしてヴァンノワール家の名折れだ。怠いと考えず、冒険者になることを考えろ。


 冒険者になったら、まずはあれだ。かわいくて天然な受付の女の子とお話して、そしたら急に可愛らしい女の子がギルドに飛び込んできて、その子が実はえらい貴族で、重要な依頼を頼まれて、引き受けようとしたら、ギルドの奥からまたまた可愛らしい女の子が出てきて、その子がギルマスさんで、二人から、ぜひ君に頼むよって手を握られながら言われて、僕はかっこよく、任せな、お嬢さん方って言うんだ。それからそれから……。





「……サ~、ナギサ~。ギルドについたわよ~」


「うぇっ!? ……あ、う、は、はい。って、え? ギルドってこんなに開放的なんですか? めちゃくちゃ光が差し込んでるじゃないですか……。うへぇ」


「まぁ、そこは我慢するしかないわね。ほら、登録するからついてきて」


 全開に空いた扉から見えるギルドを見てボーっと立ち尽くす僕を置いて、そそくさと中に入っていってしまう。


 どうにかして影になっているところだけを進もうか……。いや、それにしても日陰が少なさすぎる。ここまでは、実現し得る妄想をしてたからいつの間にか辿り着いたけど、目標が目の前となると、ここを突破すること以外考えられなくなる。


 ……はぁ、怠い。何で、こんな設計にしたんだよ。責任者を呼んで来い、ぼっこぼこにしてや――


「おい、ガキ。邪魔なんだよ。ここはお遊びにくるところじゃねぇからさっさと帰りな」


「……誰ですか、あなた。僕は今、とてもとても大事な局面に立たされているんです。そっとしておいてください」


「……あ? 折角人様が丁寧に教えてやってるのにその態度か? これだからガキはよぉっ!」


「ふべっ!?」


 突如、怒り狂った男に腹を殴られて大きく吹き飛ばされる。そのまま壁にぶつかって、体がめり込んでしまう。


 瞬間的に察した。これはテンプレのやつだ、と。


















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ