第16式
はーい、皆さんこんにちは!
シェリティアちゃ、……シエルだよ〜!久しぶりにわっくわくが止まらなくて思考が暴走気味のシエルだよ〜!
今日はね〜、レイヴィスさんと例の助手のお姉さんを連れて、また召喚術発祥の領地に行くんだ〜。……あれ?前にもこんな感じで始まったことあったっけ?まあいいさ!基本的に私のテンションはマックスさ!!
午前の授業も終わって、嬉々として私は待ち合わせ場所に指定しておいた研究室で、助手の名目で派遣された彼女を待ってる。……待ってるんだけど。
「目の届かないところで暴れられるくらいなら、目の届くところで暴れられる方がまだマシなんだが?」
「クラウス、可愛い子には旅をさせよって言葉知ってる?」
「お前は別に可愛くはない」
「うわ失礼っ!そこは冗談でも可愛いって言ってよ!私は一応女の子だよ⁉︎」
「可愛い女性は一応女の子だなんて自己申告はしない……」
「それはごもっとも。まあ茶番はこの辺にして……。どうしているの?」
私、今日の専門科の時間サボるなんて言っておいたっけ?
午前中の授業も終わり、昼食時間を過ごし、何事もなく研究室に着いてクラウスが居ることに気付いた。
クラウスは溜息をついてから、呆れたような視線を私に向けた。
「午前中のシエルはいつもより大人し過ぎたから、何か企んでると思ってな。専門科については俺は出る必要も無いし、溜まっている仕事もないから、お前に付きっ切りでも問題ないとクロイツに言われた」
「……いつもクラウスに心配かけてるから、たまにはと思って私が大人しくしてたとか考えないの?」
「そうだったのか?」
意外、と言いたげ。物凄く。ほんとに、クラウスは私の事なんだと思ってるんだ。
本当だよ!昨日決めた事だからね!助手のお姉さんが来たら直ぐ出かける気では居たけどそれまでは大人しく過ごしてたよ!!
「……そうか。けど俺に何も言わずに出かける気だったろ」
「うん」(即答)
置き手紙は書いてミティに後で渡してもらおうと思って、用意してたよって言えば、直接言えと間髪入れずに返ってきた。手紙、と短く言って手を伸ばしてきた。なんだ。いるのか。手紙とは名ばかりのメモ用紙をクラウスに渡すと、大きな溜息をついた。
「次、メモを残す時には、目的地、出発時間、帰宅時間、往復経路も記載すること」
「……はーい」
往復経路は転移魔法陣って書けばいいのかな?
まあ、そんなことはどうでもいい。
「クラウスどうするの?行く?」
「ああ。レイヴィスは帰らせたからな」
「へ」
「俺を護衛役として連れて行くのと、レイヴィスを連れて行くの、どちらがいいと聞いたらどうせお前は俺の方を選ぶだろ」
だから昼になる前に帰らせた。と、何の悪びれもなくクラウスが言う。まあその通りだから、別にいいけどさ。人は少ない方が行動しやすいから、助手以外には1人しか連れて行く気はなかった。だから昨日置いていかれてショックを受けていたレイヴィスさんを連れて行こうと思ってたんだけど、それがなければクラウスだったよ。多分特殊な事情がなければ、どの場合であっても連れていくならクラウス1択。 何故ならクラウスの方が危なくないから。ん?貞操がどうとか思った人、煩悩捨てて出直してくれ。正直に言うと、レイヴィスさんてとても危ないんだよ。彼は私について、何か特別なもの、他と一線を画すような神聖なもののような捉え方をしてる部分がある。私という対象を、自らの中で神格化するというか、決して汚してはならない尊い存在のように考えているフシがある。出会った当初は出会い頭の童女に求婚する危ない大人という意味で危険だと思っていたけど、現在は狂信者的というか、私が彼の持つ私のイメージをぶち壊した時にどうなるかわからないという危険人物になっていると思うの。結局危険である事には変わりないね。
まあ、違うならそれはそれでごめんねって感じなんだけど。そんな訳で、なるべく連れ回したくないんだよ。私は私の身が可愛いんです。
「ついでに、そんな風に簡単に人を信用しないお前が、何であの生徒には懐いていたのか聞きたくてな」
「懐くって……そこはすぐに仲良くなったって言ってよ」
「どっちでも同じだろ。リーデリット商会の息子と知り合いだったのか?」
「ううん。初対面」
「懐いた理由は?」
「長年一緒に暮らしてきた家族がいたとするよね?けど、ある日突然生まれた場所も歳も性別も境遇も、何もかも違うのに、何故か妙に落ち着く相手に会える事ってあるよね?」
「……それが彼だと?」
「うーん、言語化が難しいなぁ。とにかく明確な理由はないね。フィーリング。そんで私の勘は外れない。彼は私の利益にはなっても、私の不利益には基本的にはならない」
勿論クラウス達に前世だの会社だの、説明しようがないから言わないけど、私の後輩だもの。その時点で既に無条件で身内だ。甘い?可愛い後輩なんだ。仕方ないと割り切ろう。この間の様子を見る限り、彼女(今は彼と言うべきなのだろうか?)が唯一許せないであろう事すらしなければ、私の役に立ってくれる。確証は無いだろと言われたらそれまでだけど、前世も今世も含めて、私を私としてちゃんと見てくれている人を信じないのは最早人としてどうかと思うんだ。……クラウスとか、おじいちゃんとかはまた別の話ね。ほとんど信じてるよ。信じてるけど、特にクラウスは、国としての総意であれば、私を殺す人間だと思う。迷って迷って迷って、殺す決断をできる人間だと思う。王子という生き物だからね。それを悪いとは思わないし、それが当然だろう。寧ろ私の味方したら色々この国の状況を心配しちゃうね。
「まあそんな話は置いといて、早く行こうよ。そろそろ出ないと夕食に間に合わなくなっちゃう」
「……午後から行って夕方までに用事を終えて帰れる人間は多くないんだからな?」
「わかってるよぉ。だから転移魔法は、人前で使わないようにしてるよ」
人前ではね。と、口で言いつつドアを開く。ずーっと気配が動かないからさぁ。
「お姉さんもいい加減入っておいでよー」
「息を殺してタイミングを計ってたんだろ。さっさと入ってきてくれて良かったんだが」
開けた先にいるのは案の定お姉さん。……おお。今日はローブをつけてない。良いところのお嬢さんだと分かる格好だ。お姉さんは何故か緊張している。
「おねーさーん?だいじょーぶ?」
「えっ、あっ、……はい!」
「重症だ。どうしようクラウス。お姉さんを和ませてあげられるような小粋なジョークは得意?私と初めて会った時みたいなやり方以外で」
「……あれは、お前からすると小粋なジョークの部類になるのか?」
「小粋というよりは冗談抜きで不愉快な気色の悪い勧誘だった」
「…………俺が悪かった」
反省してるならいいんだよ、クラウス。あの時とは違って、無駄に服を着崩して色気を振りまくことも、不特定多数の女性と火遊びもしない今のクラウスの事を私は間違っても色情魔だなんて呼んだりしないよ。
地味にショックを受けてる彼には後でちゃんとアフターフォローをしようじゃないか。私のお気に入り、ケットシー人形をもふらせてあげる。本人の毛並みの方がいいんだけど、彼、男にもふられる趣味は無いから。でも見た目そっくりだし、アニマルセラピーにはなるだろ。
「おねーさーん?だいじょーぶだよー?私もクラウスも、お姉さんを虐めたりしないよー?怖く無いよ〜?」
「……そうやってにじり寄ってくる奴は大抵怖い」
「えええ?」
というか、そもそもこんな11歳そこらの童女怖がるってどんな人間だ。……お姉さん、私じゃなくてクラウス見て緊張してない?私に対しても多少の緊張が見られるけど、クラウスはその比じゃない。
私よりクラウスの方が怖い?……なんで?
あの、えっと、と口籠るお姉さんに対して、私とクラウスは首を傾げた。私たち、別に何か大立ち回りしたとか、お姉さんに恐怖を植え付けたりだとかした覚えないしなぁ。
「ご、ごめんなさ……申し訳ありません!
その、以前は皇子殿下や魔法学校の准教授とは知らず、大変失礼な態度をとってしまいました」
「「ああ、なるほど」」
思わずクラウスと一緒に納得したわ。そうだよ、いつも気安く戯れて(?)いるけど、クラウスこの国の皇子だわ。普通に敬われる対象だわ。そりゃあ私より怖いわな。いつ不敬罪って言われて首飛ぶかわからんし。(クラウスを知る人物なら多少の無礼は普通に咎めない人だって分かるから気にしないけど、この人今令嬢だからなぁ。婚活真っ最中の筈の。いくらクラウスが許しても、怖いのは周りだ。貴族社会だ。爪弾きで済めば幸運。最悪家ごと島流し)
それに多分、私の事をまだ召喚術の准教授だとしか教えて貰ってないんだと思う。知ってたら多分同じくらい私の事怖がるよね。クロイツさん曰く、迷宮を持ってるだけで要人なのに、複数迷宮持ちで、しかも攻略時間が人外レベル。これを怖がらない輩が何処にいると思いますか?……だそうです。どっかにいるよ。私とか。本人はノーカンだと言われた時の私の気持ちがわかるかい?
まあ、私自身、結構な人外的存在だと思っているので、細かいことは気にしないでおこう。
と言うわけで、私たち2人が納得した様子に、困惑しているお姉さん。一般人感半端なくて私は和みます。
「そんな事はどうでもいいよね、クラウス」
「ああ。それより早く行くぞ。時間が無くなる」
そんなこと?と呆然とするお姉さんに対して、私たちは普段の調子を、彼女に合わせてやるつもりは更々ない。クラウスの準備は出来ているので、あとはもう出発だけ。お姉さんを教授室に引き摺り込み、研究中、入室禁止と書いておいた紙を廊下側に貼り、ドアを閉めて鍵をしっかりかける。
「そんじゃ行っくよ〜」
戸惑いまくっているお姉さんの腕を私が掴んだ状態でクラウスと手を繋ぐ。そしてそのまま魔法でひとっ飛び。
研究室の中から急に外、しかも見覚えのある景色にお姉さんが……ポンコツになってる気がする。飛んだ地点は、お姉さんと初めて会った召喚術発祥の街の、外れの方です。
「転移魔法……?単体で……⁉︎」
「移動時間を短縮した方が研究時間が取れるよね。私詳細な場所知らないから、自己紹介だとか目的とかは、案内してもらいながらにするね。
じゃ、お姉さん。この本の作者のところに連れて行って欲しいんだけど」
「……この、本」
自分のペースに合わせてくれないことがわかったらしいお姉さんは、諦めて言われた仕事に取り掛かるという作業をすることにしたようだ。そうね、私の行動に理屈だとか常識だとかを当てはめるのは無理。そういうものだと受け入れるのが一番早い。適応能力はミラお姉さんよりも上かも。あの人一晩かかったし。
「デオトラ・ロスティーニさんに会いたくて。お姉さんは知ってるでしょ?」
「私の役目は、案内ですか?」
「うん。それに一応助手だし。使えるものは使ってこそ真価を発揮するでしょ?
お姉さんが来れば、多分一見さん御断り、みないなことは言われないはずだし」
無理ならその辺の古本漁って帰る。そして話聞いてくれるまで、放課後にここに通い詰める。かなりしつこく。
「ロスティーニさんは、お姉さんのお師匠様で、陣の組立方を教わったんじゃない?」
「……召喚術は、確かに、孤児院で彼の方から習いましたけど」
「お姉さんに前に見せてもらったお守り。
構成している基礎型を述べていったとき、お姉さんは私がそれを理解していることに驚いた。驚いたということは理解して組み込んだってこと。
お姉さんのあの時の話を聞いた感じだと、貴族に引き取られてから付けられた家庭教師とかが教えてくれるはずが無い。というか、そんな事を教えられるような家庭教師が帝都で有名にならない筈がないから、教えてくれたのは召喚術の先生だと思うんだよね」
「……先生に、何を聞きたいんですか?」
その場で言っても良かったんだけど、クラウスが暇そうだから移動。と私が言えば、彼女は了承して歩き始めた。
「お姉さん、……えっと、スピカさん?それともクレッシェさん?」
「スピカでいいです。挨拶もせず、申し訳「いいよ別にそういうのは。もう飽きた」……あ、飽き……?」
「スピカお姉さんはクラウスのことはしってるよね。第三皇子殿下。前にも言ったけど私、シエル。助手として私の所に押し付けられるんて可哀想に。ご愁傷様です」
「……自分で言うか?それ」
「周りの人に言われたら腹立つから、先に言っておこうと思って」
因みに何か言われたら、ちゃんとどこの誰にいつどんなふうにどう言われたのか伝えるように前もって言っておく。楽しいお手紙が届かなくて退屈なんです。遊び相手くらい欲しいと思わない?
私に送られてきた数々のお手紙だとか、入学してからの嫌がらせやら騒動を知らないお姉さんとしては思い当たらないだろうけど。
「私としては来てくれて今ではありがとうって物凄く思ってる。私から直接この本の作者に会えるようなコネはないからね。
お姉さんとしては急に連れ出されて師匠のとこ連れてけなんていわれて、困惑して警戒するのも無理ないんだけど、この本の作者に、私はどうしても会いたいんだ」
「何故会いたいのか、聞いても、……いいでしょうか?」
「簡単にいうと、先人の知恵を借りたいんだよ」
にこりと笑った私に対して、お姉さんは首を傾げた。
数時間後にもう1話更新予定……




