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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第1章 公爵令嬢 シェリティア・ステラリュート
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第6夜

私と母は馬車にのり、急いで王宮へと向かっていた。報せは突然訪れた。

引退した身であるがゴドリックは戦時には軍神とまで言われた戦士だった。そこで今でも定期的に騎士たちの指導をする事があり、つい昨日王都へと向かったばかりだった。

そんな祖父が、何故。使者は、ゴドリックが休憩に入った途端に倒れたと言っていた。原因は差し出された水だったらしい。

こそに何故か現れたのは休暇をもらい愛人とその娘を可愛がっていると話題のクソ野郎だった。そして老衰だのと騒ぎ立てたらしい。なんと愚かな。


「シェリティア、これからどんな事があろうと気を抜いてはいけません。

幼い貴女にそう求める私を、我が一族を恨めしいと思うかもしれません。ですが、当代に起きたこの恥晒しの惨状を国の中枢に蔓延った雑菌と共に葬り去り芽を1つも残さない事が、この国に返せる唯一の忠義。

貴女に背負わせることを、許せとは言いませんし言えません。

ですがどうか忘れないで欲しい。

我々、月を喰らいし竜の一族の誇りを」


いやな予感がした。肌が、空気がひりひりとしている。王城の一室に内密に通されれば、信頼に足る四公爵とその子息達がいた。


「ステラリュート公爵……ゴドリック殿の話は本当なのか⁈」

「…先程、容体を見てまいりましたが」


大人たちが話を進めていく中、私たち子供は部屋の一角に椅子を並べて座っている事に。


「ねえシェリティア。犯人は分かり切ってるわけだけど、どうする気?」

「……私には、どうすることもできない事です。

裏で誰が操っているのかまでは分からないですから」

「!それって…」


四公爵家の一角を潰して後釜を狙う輩はいるでしょう?とは言わなかった。そもそも5歳の子供がこんなペラペラとオトナの事情を知ってたらおかしいだろうが。

それについてくるだけの頭だって、普通ならない。その証拠にグレル以外はキョトンとしている。

元々研究者タイプになる予定のグレルだからこそシェリティアの発言を理解することが出来るし、なにより、シェリティアという傑物との会話を続けて来たことにより、知能レベルがかなり引き上がっているとも思える。


「…グレル兄さまは、知らぬふりをしていてください。これは我が一族の不始末。他貴族の力を借りては馬鹿にされるだけです」

「っ、でも…!」


食い下がるグレルの言葉を遮ったのは、カルナス公…ジークフリートの父親が上げた怒声だった。子供たちはびくりと震えたが、それを向けた相手がステラリュート公…お母様と分かると戸惑いを見せた。


「…どうやらお母様も同じ考え……?」


母に視線を向けた瞬間だった。酷いノイズと眩暈が私を襲った。急なことに頭を抱えて痛みに耐える。すぐそばに居たセドリックがしきりに大丈夫かと聞いてくるが、それに答えられるだけの痛みの耐性がない為、頭を強く抱えて収まるのを待つ。ゆっくりと、痛みが薄れると言うよりは馴染み出した。痛みに慣れ始めて余り感じなくなるような感じだ。

慣れると同時に、焼きついたのは、恐怖だ。

どこかはわからないが、とにかく暗い。しかしそのなかでさえ分かる、明らかな赤。もっと黒く、もっと重い。倒れ伏すのは女性。流れ行くいのちと、薄れゆく温度。

女性の首には腹に月の形が彫られた竜を象った銀を閉じ込めたように見える深い青色の丸い宝石が嵌ったチョーカーが巻き付いている。

竜は力の象徴。それを秘めた宝石の色はステラリュートの家の者の瞳の特徴。

それは、当主が持つもの。


それはつまり、死んだ女性は、


「…お母さま」

「シェリティア…!よかった…‼」


気づけばお母さまの腕の中にいた。グレル達はそれぞれの親の所でなにやら話を聞いている。ホッとするのと同時に怖くなってまだ温度を持っているその腕に、私は思わず縋った。


「ごめんなさいね、さっき馬車で言ったことは貴女を追い詰めたかった訳ではないのよ。だからそんなに硬い顔をせずに、笑顔を見せていてちょうだい」


そう言われても、私はそうは出来そうになかった。抱き締められたことで、よりその首元を近くで見てしまった。

幻覚かも分からないが頭に焼きついた光景のその首元と、目の前の生きた母親の首元にある印が、私の本能に囁くのである。


それは、間違いなくこれから起こることなのだと。


月のない夜を、魔術師は嫌う。

なぜなら力が弱まってしまうから。だから護衛は大事だし、セドリックも含めて魔導適性の高い人間の側には物理戦闘力の高い人間がいる。

4大公爵家のジークフリート、グレル、セドリックの3人セットがいい例だ。それぞれがそれぞれの不足している要素を補っている。未来の話だが、剣を極めるジークフリート、高い知識を誇るグレル、優れた魔法の使い手となるセドリックがその証拠だ。

では、ステラリュートは何なのか。

最後にして最悪の切り札、一国を一撃で刈り取るための兵器としての認識が妥当である。

それはつまり、平和の中では必要のないものである。必要でないなら、切り捨てても良いのではと考える輩は当然いる。

そして、魔力が特につよいステラリュートの首を掻くなら、間違いなく新月の夜を狙う。


嗚呼、本当に最悪だ。

せめて今日が、新月でさえなければよかったのに。





急な頭痛は何か記憶の細胞でも刺激してくれたのか、ついでに私が忘れていた大きな事を思い出させた。


以前私が前世の記憶持ちでかつその世界が私がバッドエンドなハッピーエンドだったといった事を覚えているだろうか。

その時わたしは、シェリティアが在学中にある事を幼馴染たちからの情報で主人公に触れられたせいでブチ切れて魔力を暴走させめでたく魔王認定を受けたと軽く説明したが、そのある出来事がコレである。もっとも、話の中では祖父は意識不明ではなく毒殺されていたが。


まあ兎に角、一大イベントな訳です。

大きな魔力を有していながら、母親の1人も守れなかった"傑物の皮を被った出来損ない"というレッテルを貼られるのだ。魔力を使えない新月の夜に襲っておきながら、出来損ないと罵り、肉親がいない事をこれ幸いと利用した愚か者を思い出すだけで、腹立たしい。当時…(転生する前)は、可哀想という意識が強かったが、本人になって、現実として受け止めると、刻んで殺しても足りないくらいには怒ってる。


だから、予定通りになんてしてやるものか。


王宮から、王都の邸宅までの帰り道。


「何で貴方達が引っ付いてくるんです」

「お前が王宮に泊まることを拒否したからだろう。宰相も引き留めていたのに」

「だからって護衛など…」

「必要ないと言い切れるか?ゴドリック様すら襲われた。しかも新月の今日に」

「お母様、今日くらいは素直に感謝して守ってもらいましょう。月の無い夜では魔力は0か100かしかないのですから」


この魔力が0か100というのは、先ほどのショッキングな出来事でわかった事である。どういうわけか、ステラリュートの人間の力は、この国の魔術師の使う魔術と似て全く異なるものらしい。

だからそう、月の光とは制限であり、新月はその制限が外れる日。使ってはいけない日の為、新月の日には魔法が使えないという刷り込みが代々行われて来たのだ。

その魔力の違いを隠す要因として、この国の魔力が新月には使えないという事実を使ったとも言える。

だってそんな事が知れたら、めでたく排除要因にされるか、逆に崇められ王の地位を脅かしてしまうから。

そして何より、その事実を知るのは、爵位継承の儀を終えてから、親から子へ、言葉だけで継がれるものだ。


だからこそ、だろう。

私の言葉に、お母様は珍しく眼を見開いて驚いた。その動揺を見せた事に護衛を兼務する同行者、ジークフリートとその父、カルナス公は怪訝そうな顔をする。


「マリア殿、新月の夜は魔力が使えないと言っていなかったか?」

「…使えないわ。尤も、私たちの一族はコントロールを失うから、使えないという意味だけれど。

……ところで、あの話なんだけど、やっぱり今夜にするわ。貴方とジークフリートを立会人にしてね」

「まだいうか⁈お前はまだ幼い娘に何を背負わせようとしているかわかっているのか‼」

「分かっているわ。だから秘密裏に譲渡するのよ。いいえ、しておかなくてはならない。我が一族は、少なくとも今は消える訳にはいかないのだから」


貴方は口が硬いし、変な所で義理堅いからちょうど良かった。と。まるで肩の荷が下りたようなご様子。


「…貴公がよくても、彼女は」

「この子は大丈夫。だって私の娘ですもの」


んんん?すみません。ちょっとよく分からない。お母様?貴女5歳目前の幼女に何させる気ですか?


「今この場所で宣言するわ。

私、マリア・ステラリュートは、爵位を娘のシェリティア・ステラリュートに譲渡する。我が一族の血は今シェリティアにのみ継がれており、それを利用する者を竜の一族が呪う。何人たりともこの契約を違えることはできない」


………へ?ちょっ、⁈お母さま‼⁉


声を上げて契約の流れを切ろうとしたが見抜かれたのかお母様に口を塞がれた。ぬぉお⁈


カルナス公がとうとうやってしまったかと言わんばかりに手で額を押さえていたが、退かないと言わんばかりのお母様の様子に仕方ないと踏んだようだ。


「…カルナス公爵、クレアスの名において了承する。月を喰らいし竜の守りびととして、その誓いは絶対のものであると認め契約に則り、その時が来るまで秘め、守る事を誓う」


不思議なことに、カルナス公爵とお母様の右手首に白銀の光鎖が巻きつき、その端が伸びていき最後に双方の鎖の端が結ばれた。キン…という、何か錠がはまるような音がした気がする。それが契約完了という事なのだろうか、すっと光は溶けるように消えてしまった。


「さて、これで一時安泰ね」

「ぷはっ…なんて事をしたんですか‼」


口を塞いだ手も離してもらえたが、こんなのあんまりだ‼


「あら…不服なの?」

「当たり前です‼さっき他の公爵様と話していた内容はこれですね⁉そりゃ反対されますよ‼」


悪巧みの親玉引き摺り出す相談していたのだと思ったのに‼ほら!カルナス公爵もジークフリートに今日の契約は言ったらダメだからな?バレたら他の公爵たちに苛められるからね?といつもの威厳は何処へやら、だいぶ精神的ストレスが溜まり始めているではないか‼


「…私が教えていない秘密を知っていると言うことは、魔力が貴女にそれを教えたことになる。いくら新月だからといって、そんなことはありえなかった。なら貴女の魔力は家系の始祖に匹敵する。

そうなれば、利用されないはずがない。

貴女とこの家を守るには、もう譲渡しておくしかないわ。

大丈夫よ、これは秘密裏にけれど信頼できる契約。わたしが生きている間は私が公爵としていつも通り立ち振る舞えばいいの」

「ですがそれでは…!」


それでは、お母様の方が危ないと言いかけてやめた。ゲームの中では、お母様は爵位を持ったまま殺され、その所在は曖昧になった。尤も、シェリティアが18になったら継ぐことは決定だったのだがそれまでの後見ということで公爵家はあの忌々しい父親の手に落ちてしまった。


しかし、私が既に爵位を持っているのなら、父親は私にも公爵家にも手は出せない。

確かに公爵家を守る為の選択なのかもしれない。…でも、私に爵位が回ったとして、お母様が襲われて死にでもしたら?

私の不安をわかっていながら、

有無を言わせずに、お母様は笑った。


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