第38陣
所変わって、人工迷宮。あの後すぐに転移して、今人工迷宮の地下一階。魔物に邪魔されても困るから周りには結界を張っている。
結界の中にいる人数は私含めて5人。
「騎士課程、准教授のディリヒさん。
薬学課程の准教授、メリー・アンシュリーさん。
錬金術課程准教授、バイスさんです。
皆さん、こちらこの迷宮を作ったシエル様です」
この子が!?と驚いてる。まあそりゃそうね。変な仮面で顔を覆ったちびっこが突然現れて魔物ぶっ殺して、そしたらそいつが迷宮作った張本人だなんて、言葉もないことだろう。
「はじめまして。旅人のシエルです。
……わざわざ私が特別に隔離しといた落とし穴に落ちに行った人だーれ?」
おかげで、クラウスには探検用穴塞げって言われるし。ちょっと散々。
ぱっと見この中にいなそうなんだけど?
「……その事ですが、シエル様。あの落とし穴は、本当にあんな高い場所に?」
「うん。だって不注意で落ちたら、私のせいじゃん」
「……そうですね。シエル様はきちんと安全策をとらずに放っておく人ではないですね。
では、何故我々が地下一階に差し掛かったとき、あの穴が足下に?」
「床に?」
「ええ。不意打ち気味で、全員見事に引っかかってしまいました」
「移動可能にした覚えないんだけどなぁ。というか、迷宮自体いじってないんだけど。
……おかしいなぁ」
やっぱり、クラウスの言う通り、穴は塞ぐべきかな。星降りの迷宮に入る為には冒険者になるか、国のトップの許可が必要だけど、どっちも無いから、こっそり入れる入り口欲しかったんだけど。……まあ、仕方ないか。怪我人とか死人出てからじゃ遅いし。
「怪我した人はー?」
「いません。それより、あの穴はなんだったんですか?地下一階から十階に降りる穴なんて……。それと、地下十階であの魔物を階層主にするのはやりすぎかと」
……もしかして、別な迷宮に迷い込んでたことに気付いてない感じ?
「……あの穴は、私専用の抜け道。
ついでに言うと、クロイツさんたちが遭遇した魔物は、花の悪魔っていう魔物で、私が用意したものじゃ無い。
それからあの落とし穴の先は、私が作った人工迷宮の地下十階でもない」
「……どういう事ですか?」
「詳しい話は帰ってからにしよう。クラウスにもこの迷宮自体を簡略化するように言われたし」
そっちの准教授たちも、びっくりし過ぎて攻略の続きって訳に行かなさそうだし。と私が言えば、クロイツさんも了解してくれたので、所有者権限を発動。迷宮の入り口(地上)に戻ってきた。
通信不能を気にしてか、皇宮の騎士達が十数名規模で待っていた。クロイツさんたちの姿を見て安堵している様子だ。
「じゃ、私は先にクラウスの所で待ってるね」
「はい。ちゃんと説明していただきますからね」
クロイツさん、笑顔だけど笑ってない。目が怖い。見なかった事にして、再びクラウスの執務室へと転移した。
「……無事に帰ってきたな」
「まあね。クロイツさんたちも無事だよ」
「それはなによりだ。今からくるのか?」
クラウスは安心したのか溜息を吐き出して、冷めてしまった紅茶に口をつけた。私にも座るように隣の席を示したが、私は私ですぐに動かなきゃいけない用事があるから、と断った。
「うん。ちゃんと説明してもらうって言われたんだけどさぁ。目が笑ってなかったんだよねー。こーわーいー」
「仕方ないだろ。……穴は塞いできたのか?」
「いや、まだ。とりあえず迷宮の入り口は物理的に閉じて、結界を張ったから誰も入れないようにしておいた。
また後でクロイツさんに聞こうとは思うけど、私が配置した穴、なんかわかんないけど動いたみたいなんだよねぇ」
「動いた?……迷宮の構造が変わったというのか?……それはおかしいだろう。所有権があるのはお前だ」
「そ。そこね。私は動かしたりしてない。となるとまた何か別の要因があるよね。
じゃあ何だって話になるけど、私の他にもう1人動かせる権利者がいる」
「……誰だそれは」
「決まってるでしょー。星降りの迷宮の所持者だよ」
「!……なんでそうなるんだ」
「私が落とし穴を星降りの迷宮の壁に繋げた。つまり、私の人工迷宮と、星降りの迷宮はその通路を共有している形になっちゃってた。通路の始まりと終わりは穴と穴。だから星降りの迷宮の所有権があれば、人工迷宮にある穴の位置だけをずらす事は出来る」
クラウスはそれを聞いて考え込むように少しの間沈黙した。お前が出来るというならそうなんだろう、とも。
「だが、星降りの迷宮の所持者が、何故そんな事をする?」
「そこなんだよねぇー」
なんでそんな事をする必要がある?私もそこが分からない。だから確かめる意味を含めて、昼食を食べたら私も人工迷宮に潜りたい事を告げれば、クラウスは難色を示した。
「穴を塞いで終わり、という訳にはいかないのか」
「それは出来るけど、こっちから繋げることができたってことは、向こうからも繋げられるって事だよ?」
「……」
「向こうの深部から繋がったら、深部にいる魔物が人工迷宮に流れ込む訳だよ?」
「……俺の一存でどうにかなる話じゃないと思うんだが?」
「……それもそうだね。……いっそのこと、地下の迷宮はなかった事にして、地上数階建ての迷宮を作ろうか?」
「出来るのか?そんなこと」
「まあね」
クラウスは再び考える人になった。まあそれも少しの事。クロイツさんに話を聞いてから具体的にどうするか決めるそうです。
「……星降りの迷宮ねぇ」
「気になるか」
「じゃなきゃ繋げたりしないって。攻略済みなんだっけ?所有者は?やっぱり貴族?」
「貴族、だった。と言うべきなんだろうな。
星降りの迷宮の初代所有者の事は伝承にしかない。ただ、その末裔が代々帝国の貴族として受け継いでいたが、数百年前にこの国を去り、それから何処にいるのかは分からない」
クラウスは嘘をついてる。……まあ、これも魔力を見れば分かること、なんだけどね。チートだね。でも見なくても分かるんだよ。だって、こんな巨大迷宮の所有者がもし消えたらどうなる?それこそ、一夜どころか小1時間で国が1つ消える大騒ぎだよ。だから帝国は、その所有者が何処にいるかを知っているはずだ。……言わないのは、守る為でもあるだろうから、深くは追求しないけど。
「まあいいや。別に所有者の事を無理に知りたいとは思わないし。ただ、正体が分かれば目的も分かるかなって思っただけ。
国の存亡に関わる人物の情報は、冗談でも口にしない。それが皇族としては正しいさ」
「!お前、」
「だーかーらー!言わなくていいって。それ1つでクラウスに対する態度も意識も変わんないって。友達としての信用も揺らがない」
「……すまん」
「謝る必要もなし!
地下迷宮は破棄するよ。場所は変えないけど、地上10階くらいの迷宮にする。ちょこっと埋めて作ってくるね!昼食までに戻るから……クロイツさん達への説明よろしくね!」
クラウスが、呆然とするのと、クロイツさんが扉を開けたのはほぼ同時。一瞬だけその両者の顔を見て、私は再度、迷宮へと向かったのだった。
人工迷宮地下一階。例の穴を向こうの穴まで錬金術でちょちょいと塞いで、地下十階から順に閉鎖して埋めるを繰り返して、元の状態に戻した。一応の為に、魔力を通さない粉を穴があった場所と、迷宮を埋める時にふんだんに使ったので、多分ここの地下に再度迷宮が作られる事はないだろう。
魔力を通さない粉っていうのは、王国原産の、満月の光を浴び続けた石を砕いて作られる。つまり、月の力を含んだ封魔の石ってこと。……王国内では増力材だったけどね。これも不思議な事に、月の力は王国内では力を与え、王国外では力を殺す力なんだよね。月は聖なるもの、魔を退けるもの。だから封魔の象徴たる月を呑み込んだ竜、ステラリュートは月から力をもらえない。悪しき一族って陰口はざらにあったなー。最終的に言われる私たちよりお兄さま達やリヒトや使用人の皆の方がピリピリしちゃってねー。なだめるのが大変だった。
土粘土を捏ねて、手のひらサイズのミニチュアケットシーの形を作る。シルエットだけでいいや。出来たものを地面に置いて、魔法をかけて大きくする。まあ巨大化ってやつかな。大きくなれなれ土人形〜。
魔力を流して数分もすれば、高さ十数メートルはある巨木に負けないくらい大きな土人形が完成。……奈良の大仏、縦に4つくらいかな?
あとは各階層に魔物を連れてきて、階級主を置くだけだ。さてはて。一階から十階まで、どんな魔物を連れてこようか。十階で花の悪魔はやりすぎらしいし(そもそもあんな魔物置きたくないから入れないけど)。
無難に1階はマッドモンキーかな……。
迷宮に入れる魔物を選別すること1時間。もうじきお昼ご飯の時間なので、そろそろ帰ろう。第10階の階層主だけ決まらなかった。……そこに誰かが来るまでに考えればいいか。生徒達の実力もわからんし。
「というわけでただいま」
「よくわかりませんが、おかえりなさい」
「クラウスは?」
「皇族の皆様揃って昼食です。皇子からは我々に起きた事柄の大筋を説明されましたので、細かいところを聞かせてもらいながらこの部屋で皆で昼食でよろしいですか?」
「うん」
だって既に、みんな席についてるもんね。
……たださあ、
「……この席順は」
「これで合っています。
帝国では、迷宮攻略者は侯爵に相当しますから、この中ではシエル様が最も位が高いです」
「クロイツさんは帝都一の魔術師でしょー?」
「私は侯爵位ですが、シエル様は迷宮保持者というだけではなく、迷宮を人工的に作ってしまった。国にとって、かなりの要人なのは紛れもない事実ですよ」
「だからってこの席順はないと思うの。却下」
なんで私が上座に座るのさ。年齢が一番低くて帝国と一番係わりの薄い、旅人である私は、下座に居座るべきでしょうが!!
と、言うわけで、窓から一番遠く、かつ、入り口に最も近い場所に椅子を動かして腰を下ろした。
「……シエル様は、変な所でこだわると言うか、なんというか……」
「変じゃないもん。当然だもん。
クロイツさんも早く座ってよ。皆さんを待たせてるよ」
「これは失礼。……では、始めましょうか」
侍女たちが入ってきて静かに、綺麗に、手早く料理が準備される。話は彼女達に退室してもらった後だ。大方は聴き終えたと言ったけど、流石にクラウスは花の悪魔とか知らないだろうし、説明するの面倒だな。
「……先生方、先程は申し訳ありませんでした」
侍女達が速やかに退室した後、私の突然の謝罪に准教授と紹介された面々は明らかに動揺を見せた。これは何で謝られてるかわかってないやつだ。
「気付いていなかったとはいえ、危険な場所に送り込んでしまいましたから」
「!いやいや!お嬢ちゃんが気にすることじゃ「ちょっと!敬語忘れてるわよ!」おっと。失礼しました。お嬢さんがお気になさる事ではありません」
ディリヒさんはなんというか、第一印象で豪快なお兄さんといった感じの人だ。敬語苦手というか、皆さん……。
「敬語使わないでください。私歳下ですし。それに今度から学校に入るひよっ子なんで」
「……腰の低い子ね」
「普通なら、天狗でもおかしくない……」
腰の低い?そりゃあね、現代の年功序列その他諸々に揉まれてきましたから。
「それに、迷宮攻略者だから偉いわけでも、人格者な訳でも、尊敬に値する人間でも、ましてや、必要とされる人間な訳でもない」
「……確かに、迷宮攻略者は強く賢い方が多いです。時たま力技で解決してしまう方がいるのも事実ですし、気性が荒いこともしばしばありますから、一概に持ち上げるのはどうかと思いますけど。
シエル様は、そうではないでしょう」
……私の迷宮攻略、全部力技だったけどね!
成り行きで攻略して、人格は割と歪み気味だと自覚してるし、国における自分の立ち位置理解しておきながら放置して国を出てる時点で尊敬されるような人間じゃない。そして、……物語の結末が変わらないのだとすれば、私は、必要とされないどころか、排除されることを願われる存在……存在することを、許されない存在だ。つまりは世界の敵。
まあ、世界の敵ならそれらしく。
私の未来のために好き勝手やってやらあ!って感じなんだけど。
「どうでしょーね!
じゃあ譲歩。私は畏まった公の場でしか敬語を使わない。その代わり先生方も楽に接してよ」
「……それなら、いい」
「そうね。シエルちゃんでいい?私の事はメリーお姉様でいいわよ」
「押し付けじゃねえか……お前……。あー、お嬢ちゃん、改めて、よろしくな!
迷宮を1日で作ったっていうからどんなやつかと思ってたんだが、素直そうないい奴で面食らったぜ!」
「本当にね。明日から学校に入るって言ってたけど、編入してくる子と同期になるのね」
……ん?もしかして。
「編入……?」
「そう。明日なんと最年少で、第3学年に編入する子がいるの。経歴は一切不明、どこから来たのかも分からない。けど国の重鎮、グラーティアス様からの推薦を受けて、編入が決まった超有望株。
編入テストは満点、それどころか帝国の魔術式や魔法陣の歴史を覆すオリジナルを持っている。それだけじゃない。なんと、複数迷宮攻略者なの。しかもうち1つは再攻略。
正直、どんな子がくるのか、私たち教授も不安よ」
「迷宮の所有権があるだけで、既に侯爵位だからな。生粋の貴族の子供が大半な中に入って無事に卒業出来るか、怪しいもんだ」
「はぁ?それよりも、どんな俺様がくるか心配なの!いくらグラーティアス様が連れてくる子だからって、良い子だとは限らないじゃない!」
「まあそん時は俺らが鼻っ柱へし折るだけだろ」
「……返り討ちにされるなよ」
……えっと、先生方。お酒も入ってだいぶ口が軽くなって来てるんだろうけど、これ、誰の話してるのかな。ねえ、クロイツさん……。クロイツさんは私と視線を合わさずに黙々と食事を続けていた。
その後適度に先生方に絡まれながら、楽しい昼食を済ませて、ついつい飲みすぎた先生方は家に帰し、校長とクロイツさんとわたしで午後から再度迷宮へ潜って点検した。今度は大丈夫だって。
それはいいとして、
「クロイツさん。教授方が知らないってどうなってるの」
「いえ……なに……その……。時間がありませんでしたから、功績と噂だけが先行したんでしょう。
……師から伝言です。明日の編入式も観に行くとの事でした。それから……
現状に甘んじている馬鹿共の鼻っ柱をへし折って、度肝を抜いておいで
との事でした」
「おじいちゃん……それって……」
情報、わざと回さなかったって事じゃんよ……。
全くいい性格してらっしゃる。




