第28陣
ゆめをみた。不覚にも、懐かしい夢だった。
頭が重くて痛い。多分精神的なものだろうけど。だってほら、私の身体は魔力の関係で常に(以下略)。いつも通りケットシーが私の身支度をして、すぐにでも出られるように整える。完璧な仕事である。
クロイツさんはそれから数分もせずに、朝食を持ってやって来た。
「だいぶお疲れだったみたいですね。昼過ぎまで休んでから行きますか?宿の主人も夕方までは使って構わないといってくれてますよ」
「平気ー。それよりもさっさと荷物届けておじいちゃん家の蔵書が見たいかな。暇」
苦笑しつつ、朝食を用意する手を止めない。やっぱり皇子の世話をしてるだけあって、給仕の腕も一級品である。
はてさて、今日はどんな1日になるのやら。
街の中は一晩経っても、衛兵達で溢れていた。さっさと駐屯地に戻ってください。
「……兵達どころか冒険者達も溢れて来ていますね」
普段はこんなに混雑しないらしい。やっぱり迷宮関連で彼方此方で騒動があったから、情報の集まりやすい比較的大きな街に集まるのは普通のことだそうだ。
「早くこの宿出た方がいいかもね。昨日の衛兵さん達、どうやら出待ち中らしいよ」
視界に入ったのは、昨日私のステータス表を確認した衛兵と、近くで私の顔を認識していた数名。明らかにこの宿の出入り口を見張っているらしかった。
「狙いはクロイツさんかな、私かな」
「……ここの領主の命令でしょうね。あなたの持っている魔石を回収したいのかもしれません」
「魔石くらいくれてやるけど?」
「簡単にくれてやったらつけあがりますよ。相手は一応生粋の貴族です、子爵位ですが。悪い人間ではありませんが、私は正直好きじゃないんです」
超笑顔ではっきり言うなぁ。まあ溜め込まれて後から1つ残らずノンストップで述べられるよりはマシか。昨日のクロイツさんは割と普通に怖かった。
「グラーティアス卿が来れば流石に相手が悪いと諦めるはずですけど」
「そんなに欲しいかね、魔石」
「シエル様は魔石がどれだけお金になるかご存知でしょう?」
「うん。でもゴブリンの魔石程度じゃ、何個も集めないと儲からないでしょ。だったら珍しいモンスターちょっと狩りに行った方が楽」
「……それは、ちょっと買い忘れたインクを買ってくるような感覚で、牛も三口で食い殺すブラックタイガーを、休憩中の僅かな時間で狩るなんていう強者の台詞ですよ。普通は無理です」
「無理って言うから無理なんだよ?魔法は無限大なんだから出来ると思えば出来るんだよ?」
たしかに最早私は人外技のオンパレードな感じだけど、やっぱり魔法はもっと格別だ。
「でもそろそろ出たいよね。私なるべく早く用事を済ませたいんだ。ターシュに着いたから護衛の任務もないし」
「ああ、やっぱりメアリーと母親から離れたいんですね」
「え。よく分かったね」
「……道理で、幾ら私が助け舟を求めても無視するはずです」
すみません。根に持ってたっぽいわ。それにしても本当によく分かったこと。私は確かに嫌だなあーって心の中では叫んでたけど、ベースは公爵令嬢。もはや迫真の演技で顔色も声色も普通を装って、側から見ても好感を持って接しているように見えたはずだ。
「大変素晴らしいフェイスコントロールでした。ですが、貴女は不自然とまでは行かなくとも、終始……特にメアリーを警戒していましたから」
あまり好きなタイプではないのかと推測しました。と、淡々と言ってくれた。
でもね、残念ながらべつに人格とか性格とか嫌いではないんだよ。色々と、事情さえなければ、普通に可愛い友人として仲良くしたことだろう。尊卑も身分も気にしない公爵令嬢だから。最終的に私を殺すって展開があり得ないと判断さえつけば、お兄様方の誰かと結婚しようが、何しようがどうでもいいんだ。私を害すコトさえしなければ。
「んふふ。よく気づいたねぇ、…本当に。でも残念ながら、はんぶんはずれ。私はメアリーを嫌っていないし、苦手なタイプでもない。
私が彼女から離れたい理由は………きっと誰にも、理解できないよ」
"分からない"でも"理解しない"でもない。
聞いたところで、理解できるはずがない。だって、私が彼女に殺されるなんて、常識的にあり得ないのだから。ゲームの記憶を、その存在を、結末を知らない限り、聞いたところで戯言としか思えないだろう。
私という存在は、この世界において本当に、異端で、独りなのだ。最初から、最後まで。きっとそれが変わることはない。
クロイツさんは怪訝そうな顔をしているけど、準備してといって、宿の主人に出る事を伝えてから、左手をケットシーと繋いで、私の魔力を利用して、ケットシーだけをギルデロイさんの家まで飛ばす。ケットシーからの着いたというフィードバックを受けて、今度はクロイツさんの腕を掴み、転移する。クロイツさんは驚いた顔で私をみていた。
「……立て続けに転移魔法を使って、問題ないのですか?」
「平気。この程度じゃ倒れるには程遠いよ」
なにより昨日の晩は珍しく身体が疲れたと全力で訴えたので、要望にお応えして睡眠をとったおかげか、私の身体はすっかり元どおりだ。回復の早い身体、最高。
「シッエル嬢〜!」
「ひゃぁー」
弾丸飛んできた。と思うくらいの衝撃とともに体が浮いた。物理的に。そして空中をくるくる回ってる。人力メリーゴーランド!あー、まわるまわる。目も回る。
「おじーちゃーん、はーなーしーてー」
「ああごめんごめん」
ちょっ、回ってた状態そのまま手離すな!この身体軽いから遠心力で飛ぶんだよ!
と思いつつも、綺麗に宙返りして着地を決めたわけだけど。ケットシーが慌てて私の乱れた髪だとか服装とかを直してくれた。ありがとう。流石は相棒。侍女がいなくてもケットシーがいれば小綺麗さは並みの令嬢に負けないぜ。
「師匠、落ち着いてください。急に子供を抱き上げて振り回すなんて」
「いやぁ、ごめんごめん。久しぶりの外で気分が高揚しちゃってさぁ〜」
本当に反省してくれ。私だからいいものの。一歩間違えれば児童虐待である。
……というか、しれっといたけど、ここギルデロイさんの実家なんだよね?何でおじいちゃんが今ここにいるの?あれー?おっかしいなぁー。と、私が疑問に思ったのが分かっているのか、答えてくれた。
「シエル嬢に聞きたいことがあって飛んできたんだよぉ〜。ついさっき。本当は今朝来ようと思ったんだけど、邪魔されちゃってさぁ」
時刻は既に昼近く。今朝きたところで私はまだここについていなかったから、タイミングは良かった。
「聞きたいことって?」
「攻略した迷宮……深淵の迷宮について聞きたいんだよぉ〜。おじいちゃんの家でお茶でも飲みながら」
「じゃあ用事を先に済ませた方がいいか」
因みに私たちが今いるのは、ギルデロイさんちのエントランスホールである。クロイツさんが慣れたように、ホールに置いてあるベルを鳴らせばすぐ様使用人の方々が現れた。
「グラーティアス様、リアカルティエ様、それから……シエル様でよろしいでしょうか?」
「やあ。そうだよ。この子がシエル嬢さ。
昨日着いた親子の荷物、置いていきたいんだけど」
「ではこちらへ。親子には会っていかれますか?ただ今皆様と食事の最中ですが」
「あらら。間の悪い時に来ちゃったね?」
「荷物だけ置いてすぐお暇するから知らせなくていいよぉ」
「かしこまりました」
そのままロビーから廊下の先の1つの戸が開けられた。中は物置っぽいけど、不自然に空いた一角があるので、そこに置いていいのだろう。収納魔法で入れてたものを次々出す。小さくても家は家だったのでそれなりに物も多い。空けてあったスペース丁度な感じに収まったので、予め量を聞いて空けて置いたのだろう。
クロイツさんは自分の主人を回収してからおじいちゃんの家に向かうそうなので、用意してもらった馬に相乗りしておじいちゃんの家に移動した。風魔法でひとっ飛びは目立つから却下になった。同じ理由で魔狼も却下ね。街の人が見慣れてない。で、残った手段が馬と馬車で、皇子を待つのが面倒だったから馬。
「シエル嬢、本当に軽いよねぇ。ちゃんとご飯食べてるのかい?」
「食べてるよー、お菓子とか」
「身にならないからご飯も食べてね」
「はーい」
馬を降りてからもおじいちゃんに抱え上げられたまま移動する。お人形扱い、もう慣れたよ流石に。
大きな屋敷の扉がひとりでに開いていけば、その先のロビーで使用人が綺麗な列を作って待っていた。
「おかえりなさいませ」
声を揃えた綺麗な挨拶と一礼。おお……流石一流が集まる貴族屋敷だなぁ。でも意外、おじいちゃんは使用人とか置かないタイプだと思ってた。と後からストレートに聞いてみれば、屋敷と一緒に偉い人から押し付けられたらしい。お気の毒に。監視の名目もあるんじゃないの?それ。
応接室と思われる部屋に通されて、ソファーに降ろされると、珍しくおじいちゃんは向かい側のソファーに座った。いつもなら隣に座るのにね。真面目な話だからかな!
「深淵の迷宮の攻略、お疲れ様。
毒霧の迷宮を攻略した君だから可能性は高いと思っていたけど、深淵の迷宮の再攻略が出来るとは思ってもいなかったから、安心した反面、少し心配だったよ。怪我はない?」
「なーい。ゆっくり休んだし」
「……クロイツから、君が迷宮に向かったかもしれないと聞いた時には、帝都から私に、攻略者狩りについての調査依頼が来ていてね。護衛をだそうかとも思ったんだけど、行ったら行ったで足手纏いになりそうだったからやめたよ」
「うん。英断だと思う」
転移魔法をほいほい使えるようなぶっ飛んだやつじゃないと、多分私についてくるのは無理。……それ考えるとリヒトって凄かったよね。というか、王国内のかなり強い魔力持ち達は、私ほどではなくともぶっ飛んでるよね?王国内だけだとはいえ、転移なんて普通にするんだから。
「……普通は、加勢を喜ぶ所なんだけどねぇ」
「時間と戦力の無駄な犠牲が出ない事を喜んで?」
「ふぅ……。まあいいよぉ。シエル嬢だもの。
本題に入ろうかぁ。シエル嬢、……いや、シエル嬢達は何か知らないかい?再攻略された迷宮の共通点でも何でもいいよぉ。兎に角情報が欲しいんだ」
「私が攻略したのは、深淵の迷宮1つだから、白銀の迷宮についての共通点なんて述べられないよー?」
「……白銀の迷宮を攻略したのは、綺麗な白銀の髪に青い瞳の美少女でね?シェリティアと名乗っていたそうなんだ。
その少女は膨大な魔力を持っていて、呼吸するように魔法を繰り出していたそうだよ。
そして騎士団が苦戦した魔物達をゴミ屑のように軽く殺して迷宮をあっさり攻略したらしい。
……奇遇にも私はそんな事ができる人間を1人知ってるんだよねぇ」
「へぇ〜、誰だろうねぇ」
「でも、その人物は、その日その時間にかなり離れた宿にいて、部屋からは出ていないと確実な証拠があったから、その人とシェリティアを名乗る少女は別人と判断された。
……ただ、身体的特徴が同じで、恐ろしい程の魔力量の持ち主がそんなに沢山、それも同時期にほぼ同じエリア内にいるものかな?
……ねえ、シエル嬢。
君、シェリティアって子を知ってるね?」
おじいちゃんが、さあ白状するがいい。と、言わんばかりに笑っている。フードの奥にある瞳は見えないけど、私にざっくざっく刺さってるわ。
でもさぁ、私を追い詰めるにはまだ足りない。
「もし私が知っていたとして、何を望むの?」
「私たち帝都の人間は、訳あってその少女を見つけなくてはいけないんだよ。
さて、シエル嬢。そろそろ腹を割って、というか仮面を取って話をしないかい?」
「私、知り合いだとも知っているとも言ってないけど?」
え?とおじいちゃんが一瞬固まった。
「ついでに、私がケットシーに集めさせた情報では、そのシェリティアの身体的特徴は不思議な青色の目。銀髪だとかいう情報は出回ってない。そして私の目の色、誰か仮面を取った状態で青って確認した人いる?」
「……うーん、まいった」
「身体的特徴、一致してないねぇ?」
一致するはずがない。私はシェリティアとして名乗ったあの時、ちゃんと印象操作の魔法も回復魔法と同時に放ち、青い目しか記憶に残していないのだから。
おじいちゃんはカマかけて焦ってボロ出したらラッキーくらいに思ってたんだろうね。
「仕方ないかぁ……。今回はここまでにするよぉ。
でも、何か手がかりが欲しいのは本当なんだよねぇ。シエル嬢ぉ」
「えー?そこで私頼るー?」
「情報が少なすぎてもう嫌になってきちゃったんだよー!だから再攻略された迷宮の共通点でもあればと思ったんだよおおお」
「規模とか地理とか所有者とか比べたの?」
「やったに決まってるじゃないかぁ!」
「今まで襲われた迷宮保持者は?」
「再攻略まで行ったのは白銀と深淵だけ。あとは薄氷と響音の迷宮の保持者がそれぞれ襲撃は受けたけど、殺されたりしてないから迷宮は支配下のままだよ」
「名前付きってことは、大きいんだ?」
「響音はともかくとして、薄氷は地図にものってるよぉ」
「狙われたのは迷宮か、人か。再攻略した私を狙ってきた場合は特定の迷宮を暴走させるのが目的だよね。
幾つか考えたの?」
何を、と言えば、何が目的かである。当然考えているはずだ。
先ずは特定の大きな迷宮を暴走化させてその近場の町や人を殺したいっていう愉快犯またはそれに乗じて盗みや殺人を犯したい愚か者の仕業。
次に迷宮攻略者自体を殺したいっていうたまにいる傍迷惑な野郎の仕業。まあ、自分の方が強いって言いたいだけのクソ野郎。それに伴う犠牲はどうでもいいパターン。
他だとすると、どう考えても超実力者じゃなきゃ攻略できないレベルの迷宮をわざと暴走させる事で、実力者を探してる?とか?
1番面倒なパターン、兎に角分かっている迷宮を片っ端から暴走させて世界を壊してやるゼェ!みたいな厨二病暴走野郎の仕業。
……今揃ってる情報の中で考えられるとしたらこれくらいかな。例えば特定の迷宮にヤバいもん封印していてその封印を解いてるーとか、そういうやつならまた話は別だし。
「何にせよ、襲われた人数が少なすぎて話にならないよ。私含めてそもそも攻略者が何人いるの」
「12人。うち複数迷宮攻略者または所有者は3人」
「……襲われたのは?」
「迷宮保持者の貴族、4人だよ。
今回権利を失った家を含めて
保持者の貴族は7人、攻略者は冒険者に2人、騎士団に1人、そして君と例の少女」
「結構少ないね」
「迷宮はそんなころころ攻略できるものじゃないんだよ?それに、大きな迷宮は幸いにも全て誰かしらの支配下にはいってる。焦って攻略しなければならない程危険な迷宮は今の所ないから、多くなくて当然だよ」
「さっさと原因究明して欲しいけど、冒険者とか騎士団や私はともかく、ただの所有者の貴族に襲われろとは言えないしなぁ」
いっそのこと、自分の功績ではなく過去の祖先の功績で今甘い汁を吸ってる貴族が許せなかった誰かの犯行として、貴族の警護を強化すべきって結論にしない?と、提案したら、自分に着く護衛を外そうとしてるよね?と間髪入れずに返された。ばれたか。




