第26陣
その時、少年は空を見上げていた。今にも消えそうな妹の命をその腕の中に、ただ呆然と、黒煙の晴れた空を。
その日は朝から悲鳴が彼方此方で上がっていた。老若男女、平民も冒険者さえも逃げ回っていた。工場からは火の手が上がり、空は濃淡問わず有害な煙に覆われて、まるで人々の行く末を暗示しているようだった。
少年は妹と共に、町の建物の影で体を寄せ合って、震えながら助けが来るのを待っていた。
近くにある迷宮から、鋭い牙や爪を持つ魔物や巨体を揺らすオークキングが咆哮を上げてやってきて、家を壊し、人々を殺し町そのものを壊していく。少年は昨日、妹にせがまれて迷宮を遠目から見にきたのだ。そして、巻き込まれた。身を守る術は勿論あった。それでも、冒険者として腕が立つほどでもない少年は、呆気なく魔物に吹き飛ばされ、自身の身体の骨は折れ、妹の身体には大きな傷が刻まれ、今にも息絶えようとしていた。
魔物の鋭い牙が、すぐ目の前に迫った。恐怖が視界すら塞ぎ、目の前が真っ暗になる。少年は死を覚悟した。
覚悟して、けれど、襲ってこない痛みに目を開いて、それを見た。
断末魔の叫びをあげて次々に、光の矢に貫かれていく魔物たち。空から星のように降り注ぐ。光に貫かれた魔物たちが次々と倒れていくのだ。
少年はその矢の降ってきている方向、空を見上げて、そして雲ひとつない晴れた空を見た。光を纏った少女を見た。猫のような仮面がその顔の上半分を隠しているが、恐らく綺麗な顔をしているのだろう。見たこともない透き通った剣をその手に、空に浮かんでいる。人間の子供くらいの大きさの、白い竜と、黒い竜が彼女を守るかのようにその周りを飛んでいた。
少女はどうやら、見上げる少年や町の人々に気付いたらしい。少年はその仮面越しに目があった気がした。少女が徐に両腕を前へとあげていく。いつその手元にあった剣が消えたのかは分からなかった。そして胸の前で両手で器の形を作った。その手が光り出す。光魔法だ。
少年も、大きな式典でしか魔術使いと呼ばれる一部の魔法使いしか使えない光の魔法を見たことはない。ひたすらに魔術師の数の減り続けている帝国において、光魔法は大変貴重なのだ。その魔法を、目の前にしている。
先程の光の矢の魔物の掃討により、攻撃魔法がまた来るのだろうかと思うなか、人々には何故か恐怖は無かった。ただ、大丈夫なんだと、もう怖くないとそう思った。
少女は光を帯びたその手の中のものをまるで放つように両腕を開いた。そこから溢れ出る、光の蝶の群れ。美しいその景色。蝶が街の中をくまなく飛んでいく。
少年の元にも、その蝶は現れ、少年と妹の身体にそれぞれ降りる。降りた瞬間、光の蝶は弾けて消えて、代わりに少年の折れたはずの脚や身体の骨から痛みが消えた。驚いていると、何と、死にかけていたはずの妹の傷が完璧に塞がって、体温も戻っていた。
「……回復魔法……?」
本当はそんなものではない。少女……シエルが使ったのは、時間回帰魔法という、場合によっては瓦礫の山になった街を完璧に復元できる伝説の古代魔法だ。しかしそんな事が分かるはずもなく、街の人々は女神の祝福だと言って、回復魔法に身を委ねる。
光が消えて蝶も消える頃には、人々は既に死に絶えていた者を除いて、どんな瀕死の重傷者もかけまわれるくらいになっていた。持病や以前怪我をした傷も治っていた事が後々判明して一悶着あるのだが、まあそれはまた別の話で。
少年がふたたび空を見上げた時、仮面の少女の姿は無くただ青いばかりの空があった。
あれだけの腕があるなら、学校に入った際には間違いなく首席を務めて卒業になるだろう。もしかしたら飛び級かもしれない。
何にしろ、大騒ぎが起こるだろう。……そう少年は確信していた。
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シエルは困っていた。それはそれは、困っていた。原因は、今もシエルを挟むようにして両肩の上で睨み合いをしている2匹の小さな竜であった。
「キュイッ!」「グルルッ!」
「はいはい。ちょっと落ち着こうか」
そう、2匹の竜なのだ。1匹は言わずもがな、白銀の迷宮の迷宮核の番人だったクリスタルドラゴンのキューちゃん。ではもう1匹は?
話はシエルが魔物に襲われていた街に走りついた頃に遡る。運良く冒険者もそれなりにいるようだが、それでも襲われてる街の人の方が多い。原因は街を越えた先の迷宮だろうという事は街の高台に着いた時点で理解できたのだが、こちらを放っていくわけにもいかない。あまり魔力を一気に使うのは宜しくないよなと思いつつも、仕方がないので街全体に私の魔力を広げて、対象を魔物に限定、光魔法を空に放つ。放たれた光の玉が、分厚くて黒い雲を吹き飛ばして、青空を作り出す。そして、まるで流れ星のように空から地上に向かって降る光の矢。人を避けて魔物にだけ突き刺さる。魔物がバタバタと倒れていく音が少しの間響いて、やがて収まる。
さて、では次は迷宮だ。とシエルがそちらを向くと何やら禍々しい靄を纏った綺麗な魔石がふわふわと目の前にあったのだ。
一応シエルは今、街の真ん中で、宙に浮いて街を見下ろしている状態だった。
「キュイ」
キューちゃんが突然剣から離れてシエルの背に隠れた。するとその魔石はキューちゃんを追うようにシエルの背に回る。キューちゃんは速やかにそれから逃げるようにシエルの前に来たかと思えば、球体も付いてきてさあレースがスタート。シエルを円心に、その周りをくるくるくるくる飛び回っていた。
球体の纏っている禍々しい靄はつい最近見たものに似ている。
「……キューちゃんのお友だち?」
「キュィッ?」
んなわけねえだろ!と言いたげだ。いや、だってキューちゃんも会った時は黒い靄に包まれて暴れてたやん。と、シエルは思った。言わなかったが。
まあ、とにかくとして、あの球体は多分呪われてるか何かな状態だと判断。光魔法を手に溜めて、手に山盛りになった紙吹雪を飛ばすように球体めがけて手を振る。思った通り、球体の靄が消え去って、藍色っぽい魔石がそこに浮かんでいる。ついでに街じゅうから歓声が聞こえて、拝み出す街の人が見えたけど、心の中でうん、ごめん目の前の球体なんとかしようと思って放った光魔法であって、べつに貴方方を治そうと思ったわけじゃないんだ!でも治ってよかったね!と思うことにして、禍々しさの消えた魔石を手に取った。
すると逃げ回っていたキューちゃんが、それを足で器用に掴むと、迷宮めがけて真っしぐらといった様子で飛んでいくので、シエルもそれを追うことにした。
迷宮前は大混乱な様子だった。どうやらここの魔物はちょっとトリッキーな種類で、弱いのだが小賢しい。人をからかう為に生まれてきたような小悪魔・マッドモンキーを筆頭に、魔法が使える魔物が多い。お陰で苦戦中らしい冒険者の一団。魔術師もいるようだが。
……なんで一体ずつ攻撃してるかな。腐ってもモンキー、逃げ回るんだから、包囲して爆破が正解だろうに。
冒険者のパーティーと思われる一団は既に周りを囲まれていた。ほっておいて死なれても寝覚めが悪い。それに、そもそも入り口でそんな事されてると……。
「邪魔」
言葉と行動どっちが先かは分からなかったが、冒険者だけを囲った結界と、その周りの猿達と冒険者のいる結界を覆うように更にもう一つ結界を作り出し、猿が入ってる結界の内側だけを燃やす。つまり、二重になった結界の間に猿がいるので、その結界と結界の間に炎を流して殺すというやり方である。
焼き殺しつつ、私は先を急ぐ。キューちゃん、ナチュラルに転移魔法使うのやめて。追うのが疲れる。まあ、そんな私の願い虚しく、キューちゃんは転移しまくってとうとう最下層に着いた。キューちゃん、君知らないっていってたけど嘘だね。転移できるって事はこの迷宮きたことあるんだね?というか、私を連れて転移が出来るなら先に言ってよ。途中までキューちゃんが私も一緒に転移してくれてると気付かなくて、キューちゃんと私を繋いでおくために無駄に魔力を使ったよ?
キューちゃんはそんな私に対する配慮は何処へやら、ちょっと苛立ったご様子で掴んでいた魔石を、捻り宙返りで勢いをつけて、最下層の奥に横たわっているそれに投げつけた。
……キューちゃん、物を投げちゃいけません!
「GOAAAAAAAA!!!!!!!」
沈黙なんて一瞬のこと。魔石がそれに埋まった瞬間、ギョロッと赤い目が私を捉えて、大きな咆哮が放たれた。もちろん結界があるから、ふつうにでかい声浴びせられた程度のダメージしか無いんだけど。……キューちゃん、これあれかな?君と同じ種族って言っていいのかな?
鋭い眼光、鱗に覆われた全身、鋭利な牙に爪、そしてなによりその巨体。
「……どらごん…」
この場にケットシーが居たらきっと、そうですにゃーと、呑気に言いつつ私の陰に隠れたんだろうなと思うのは、現実逃避だろうか。
そんな私の心境などまあ知る由も無いんだけど、黒い竜から2度目の咆哮と共に、火の玉が放たれた。やっぱりつかえるよねー、魔法。
ここの入り口にいた、迷宮のなかでは最弱だろう猿ですら使えるのだ。使えない道理はない。シエルは以降次々と作り出され、向けられる攻撃をかわしつつ、右手に打撃系武器を生成。材質はもちろん氷。そこにキューちゃんが憑依すれば、伝説級の硬さを誇るガラス製大槌が完成。
「さあいこうか、キューちゃん」
「キュ」
飛んできた火の玉を物理的に打ち返す。気分はホームラン選手。大きな一打を生み出します。打ち返した火の玉のいくつかが体に当たったらしく、たまにのたうち回って、急に闇の中から尾が襲う。
それすらも打ち返して、そのまま駆け出す。ドラゴンの額めがけて猛ダッシュ。
ドラゴンの2、3メートル手前で思いっきり踏み切って地を蹴る。風魔法で加速、物理的にくるくる回って、ドラゴンの頭の辺りまで飛び、回転により溜めた勢いを殺さずそのまま、槌を頭に叩きつけた。
ドラを叩いたようなガンっという音に続いてドラゴンが俯せに倒れた。目を回している。やっぱり生物の共通の弱点だよね、頭って。
ドラゴンの頭が倒れてくれたお陰でよく見える。額部分に付いているのは、先程キューちゃんが投げつけた魔石だ。どうやら最初からここに嵌っていたようだとしか思えないくらいにしっかりと額にくっついている。だからキューちゃん投げつけたのね。入れてあげようとして投げ込んだわけか。
魔石に手を当てて、それを媒介にドラゴンの魔力を探れば、ドラゴンの魔力を何か別の魔力が覆っているらしかった。…状態はリヒトが精神支配を受けていた時と同じかな。となると上位存在またはかなり弱ってたところをやられたんだと思うけど、ドラゴンだもんな…。前者が妥当だろう。でも竜の魔力量は桁違い。人間や魔物に操られるようなヤワな種じゃない。……ドラゴンを操れる上位存在っているのか。こわいな。
まあそれはそうとして、先にこの子をなんとかしたい。せっかく気絶させたのに、起きたらまた同じことをしないといけないし。
「キューちゃん、手伝ってね」
キューちゃんからたいそう面倒くさそうな返事が聞こえたけど、気にせずに大槌の柄の端を魔石に当てる。私の魔力を大槌に込めれば、あとはキューちゃんが自分の魔力に変換して上手くやってくれる。キューちゃんのキラキラした魔力がドラゴンの全体を包んで、そして今度は消えていく。……ああ、起きる。ドラゴンが目を開くと同時に、迷宮内をより暗くしていた靄が全て晴れた。よくよく見れば、なかなか綺麗な黒曜石だらけの世界である。通りで暗いはずだわ。光を受けなければただ黒い石の部屋にいるんだもんね。
ドラゴンが静かに私を見ている。その瞳は、先程までと違って澄んだ青色だ。武器を置いて、その手でドラゴンに軽く触れるが嫌がる様子はない。
「《幼子、名は》」
「シエルだよー。……今はね」
「《承知した。妹共々、救ってもらった事、感謝する》」
「気にすんなー」
……喋った。ドラゴン、喋った。……あ、でもキューちゃんもそういや喋ってたわ。助けてって言ってたわ。今のミニサイズだと魔力量とか色々制限されるから喋れないのかな?念話なら出来るだろうか。…………いやいやいや!まって!今!なんていったよ!?
「……妹?」
「《そこの擬態で小さく変化しているクリスタルドラゴンだ。私の妹にあたる》」
兄が妹と分からぬはずがないだろうと断言されて仕舞えば言い返せない。キューちゃんのご兄妹とは知らず思いっきり殴ったけど、どうやらそれは気にしないでくれるようだ。一応ごめんね?
「きみ、これからどうするの?」
「《再攻略は成された。この迷宮をどうするかはシエル次第。迷宮を生成した私も含めてだ》」
そうか、つまり私に丸投げか。
「じゃあ……とりあえずここ、迷宮の何階層なの?」
「《67階だな。前の主は外面はかなり良かったが代々迷宮を3階ずつ増やしていた。迷宮を持たない人間どもにとっては、大きな危険を産む行為だが、迷宮保持者は場所さえわかれば身の危険無しに珍しい鉱物を取ることもできる。妹の迷宮然り、保持者が階層を増やしていたのは欲深い人間にとっては当然ではないか?》」
67……まさかの、67階。深すぎる。ここの迷宮の前の持ち主は一体何を欲しがってたのか!
「……攻略された当時の階層は?」
「《40だったか》」
「じゃあとりあえず、今迷宮内に入ってきてる人を迷宮前まで全員避難させて。
その上で40階と41階の間に壁。以下27階分は閉鎖」
言ってるそばから実行されているらしい。20階くらいまで迫っていた人の気配は消えて、今まで扉があり開いていた40階の最奥地の扉は消えてそこに行き止まりを示す、迷宮の文様の浮かぶ壁が現れたようだ。
「……キミはどうする?」
迷宮前に急に人が大勢現れたからか、混乱している。早めに戻りたい。未だに地に伏せた状態で私を見つめているドラゴンに問いかければ、少し目を閉じて考えるそぶりを見せた。再び目を開いて、槌から離れて私の肩に乗っていたキューちゃんを見る。
「《……私も連れて行ってくれないだろうか》」
「……というと?」
「《シエルが迷宮を再攻略し、階層を40階までと定めた今、私が守っていた67階は実質無いものになった。よって、私とこの迷宮は切り離された。私と契約して、外に連れ出してくれ。妹とは契約したのだろう?》」
「……キューちゃんとちゃんと契約した覚えがないのが物凄く気になる所だけど」
キューちゃん?もしかして勝手に契約したの?そうなの?気まずそうに目をそらすんじゃありません!
「《存外、シエルとの相性が良かったのかもしれない。我々の千分の1にも満たない涙の雫以下の魔力量しか持たないはずの人間だが、シエルは桁違いだ。我々と似ている。
その点だけで既に契約には足りる。妹の判断は正しかったと私は思う》」
言うなりドラゴンが藍色の光になって、魔石を中心に再度ドラゴンの形を成す。額に魔石の嵌った竜だ。私の肩に乗れるくらいの大きさ。嫌な予感。
「《契約は成された。よろしく頼む、シエル》」
……私返事してないのに。でも上機嫌そうに妹……キューちゃんに近付いていくドラゴンを見るとどうにも嫌だとも言えないし。まあいっかって気持ちの方が大きいし。
「じゃあ外に出るよー。おいで」
2匹がそれぞれ私の肩に乗った。迷宮保持者権限で1階まで転移して外に出ると……。
「おい!そこのガキ!お前みたいなチビまで迷宮に入って……ヒイッ!?」
迷宮前を守っていた衛兵さんだろうか。その人が驚いた様子で近寄ってきて、
「《我らが契約主をチビ呼ばわりとはなんたる無礼か!!》」
「キュイーー!!」
両肩の二羽に威嚇された。落ち着けの意味を含めて撫でてあげると黙る気にはなったらしく、兄ドラゴンは私の頭の上に座って衛兵を睨みつけるに留まった。キューちゃんはさらにその頭の上に乗っかって睨みつけているらしい。衛兵さんがびくびくしながら、それはドラゴンか?と聞いてくるのでそうだと答える。
既に皆外に転移させられた中、1人だけ迷宮の中から歩いて出てきた私が何なのか気になるのだろう。遠巻きに衛兵やら冒険者やらが群れをなして此方を見ている。
「……迷宮は攻略した。もう魔物が溢れることはないよ」
「そ、それはつまり、その、お嬢ちゃんが迷宮攻略したって事か?」
「そう」
嘘だ、冗談だろ、などその他諸々聞こえるが、信じないならそれも仕方がないだろう。そろそろ日が沈む。ミラさん達の方は無事に街に着くか否かと言うところだろう。さっさと合流するのが先かな。
「《主》」
頭の上から声と一緒に降ってきたそれを手に取る。迷宮核の石だ。どうやらドラゴンさんが持っていたらしい。ドラゴンは慈悲深い。主人を軽んじられる事をかなり嫌う、とまで言われて仕舞えば、どうするべきかは分かった。
沈みかけた陽の光をそれに当てれば輝き、そこに迷宮の紋が浮かぶ。ギャーギャーうるさい連中はそれで黙った。
遠巻きに見ていた人集りの中から、勲章を付けた騎士が出てきた。武人、といった風格で、歳は40くらいだろうか。
「お嬢さん、すまないが、それを見せてもらえるだろうか」
振る舞いも丁寧。多分どこかの貴族出身だろう。持っていかれてもどうせ返ってくる代物だから普通に渡す。すると少しだけ驚いた後、出していた素手を引っ込めて、拝借する、と言って懐からわざわざ布を取り出しそれで受け取り、紋を確認したらしい。速やかに確認を終えて私の手に戻る。キューちゃんが足で鷲掴みにすると、また肩に降りていつのまにか小さな宝石に形を変えていた攻略石を、イヤーカフの空いているスペースにはめ込んだ。嵌め込み作業が好きだね、キューちゃん。
「深淵の迷宮攻略をデュオ・マクノアが確認した。おめでとう、お嬢さん。名前を聞いてもいいかな?」
「名乗るほどの人間じゃないんだけどね」
それよりも、マクノアって氏に聞き覚えがあるんだけど。
「迷宮攻略者たる実力に、ドラゴンを二体も従えておいて大した人間じゃないはずがない」
「……シエル。ただの旅人。じゃあね、マクノアさん?」
ケットシーが呼んでる。優雅に一礼をして、ケットシーを目印に転移魔法を使った。その際に衛兵の驚いた顔をみて、納得がいった。
ヴォルトさん、兄弟いたんだなぁー。
それでケットシーに呼ばれたポイントに来たら目と鼻の先に町の門。背後の森から大軍の何かが迫ってくる気配。町の外壁の上には沢山の衛兵さんの姿。……あー、これはあれかな?ギリギリまで門の前で待ってたけど、魔物が出てきたし門が閉まりそうだしって事で、一応私を呼んでから門の中に入ったのか。
結局掃除する事になるんだから、全部掃除してから帰って来いって?人使いの荒い相棒だこと。
「《主人、あの程度わたしが蹴散らすぞ》」
「キュイ」
「《いや私が行く。お前は主人を守っていろ》」
「キュー!」
「《べつにお前が弱いと思っているわけでは……!》」
「………はいはい。ちょっと落ち着こうか」
そして冒頭に戻るのだ。どっちが森から出てきている魔物を消し炭にするかで言い合い(鳴き合い?)をしている。私を挟んで。
「君らは待機。こんな所でドラゴンが暴れたってなったら大騒ぎになるよ」
肩から離れてもらって右に片手剣を創り出して深呼吸。魔物といってもゴブリンの群れ程度だ。小一時間もあれば終わる。
「ケットシーの躾のし直しは、その後かな」
その頃街の宿の一室では、とある猫の妖精が謎の悪寒に襲われたそうな。




