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傑物の一族の傑物ですが、なにか?  作者: 猫側縁
第2章 旅人 シエル
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第25陣


次の街……(ああ、白銀の迷宮に1番近い街ね)に辿り着いたのは昼前だった。案の定、街には冒険者たちや帝都から派遣されたであろう騎士たちがそこら中にいて、落ち着ける雰囲気ではなかった為、先を急ぐ事になった。

冒険者の街ということで、前回結局訪れることのなかった冒険者ギルドを、私も登録する気は無いにしろ見てみたいなという思いはあったが、そんな気が失せるくらいには、街中がむさ苦しかった。筋肉ダルマがいっぱいいた。女性冒険者って本当に少ないんだね。ぜんっぜん見かけなかったよ。


街を出る前に、クロイツさんが情報収集をして、白銀の迷宮の再攻略の話を私に振ってきたけど昨日と同じでふーん、と興味のないフリをしておいた。実際興味ないしね。


それに、案の定彼が集めた確かな情報とは、神秘的な青色の瞳の、戦いとは無縁そうなワンピース姿の美少女が白銀の迷宮に忽然と姿を現し、迷宮核を守る番人を瞬く間に倒し、消えたという、表向きの噂。その噂にある情報が加えられているものが、帝国の一部の人間のみが知る情報である。

曰く、シェリティアを名乗る少女だった。


だがたったそれだけ。シェリティアという美少女の特徴として、瞳の色と美少女という特徴しか得られていない。だが、瞳の色と美少女と言わしめる顔だと分かるなら同時に、その人物は正体を隠していないという事。

それからいくら私が転移魔法を使えるからと言って、自分が行ったことのない場所に転移はできない。私が白銀の迷宮に行ったことがないのは、情報を聞く私の様子から察したことだろう。何度も繰り返す様だが、自分の魔力を手足の様に広げる事や魔力を介して他人と繋がる事などは、普通は出来ない。

魔力を伝わせてその先へと転移するなんて事、少なくとも私が読んだ書物には書かれていなかった。実際私も思いついて出来そうと思ってやってみたらやれた、くらいの感覚だし。

転移魔法だってそう何度も使う事は普通は出来ない。転移魔法自体が珍しいからね。

クロイツさんたちは、私が転移魔法を使える事を知っているけど、今まで私が使った回数や私が普段つけている魔力を誤魔化す仮面によって、総合魔力は測れず、せいぜい長距離転移は二回が限界と思っているだろう。二回あれば迷宮の最下層まで飛んで倒して帰ってくることが出来るだろうって?それは無理。理由は単純。あの時点で白銀の迷宮の所有権を私は持っていないから。


迷宮は面白いシステムで、所有権のないものの転移での侵入を阻む。どんなにその中の明確なイメージがあろうと、転移魔法で入り込む事は出来ない。所有権のない私は、転移魔法を使ったとしても此処から白銀の迷宮前までで1回、白銀の迷宮内でどんな手を使って転移なんて事をしていたのかは分からないが1回……下手をすれば複数回、そして迷宮からその外又はこの街まで転移という、最低回数3回はする必要がある。

それに何と言っても、私が宿を出ていないというふうにミラさんが認識していることも大きい。……まあこれにはちゃんとカラクリがあるのだけど。私もびっくりな誤算だったけどねー。聞いたときは一瞬肝が冷えたけどねー。

ミラさん、窓とドアに魔石を使う形で独立型の簡易結界張ってたんだってー、クロイツさんの入れ知恵で。でも朝起きた時に両方確認したけど、1度も干渉された形跡が無いから、誰も外に出てないって自信を持って言ってたんだー。クロイツさんもそうですかと安心していたから、多分その性能は間違い無いんだとおもうー。

……私、見事に感知されずにすり抜けたって事だよね?そういう事だよね?…大丈夫なのかな。まあ、私の無実証明に使えたからよかったんだけど。

ともあれこれで私はずっと部屋にいたことが証明された上、シエルとシェリティアを結びつけるだけの手がかりもない。クロイツさんたちは無理やり結び付けられるほど、常識を逸脱した方法を思いつかない。

つまり、私の勝ちである。(どこから勝負になったのかはわからない)


まあ、そんな訳で私の迷宮攻略疑惑は取り下げられて、気持ちよく町を出る事が出来た。

……出来たのだが。


「シエルちゃんはメアリーと一緒に魔法のお勉強をしないの?」

「彼女は、我々の護衛です」

「ええっ?この子が?」


何故か私は今、メアリー母に絡まれていた。毎度の如くの小休憩時にメアリーがミラさんに魔法の基礎を教わる中、私はいつも通りに観察していた所に声をかけてきたのだ。

因みに皇子はアウストさんと手合わせ中。身体が鈍るそうだ。鍛錬って大事だよね。


「……あの、何度も言っていますが、貴女の息女メアリーを含む子供達を救出したのはこの子です」

「えっ、え……?」


おっとりとして戸惑うばかりのメアリー母にイラっとしてる時の笑顔のまま、ここにいる、シエル様は私の知る限り最も魔導士の誉れに相応しい人物です。と言い切った。

魔導士は言い過ぎじゃねえの。


「クロイツさーん。別にいいよ。通りかかったから助けただけだし。それに私は、大した人間じゃないし」

「迷宮攻略者が大した人間じゃないなら、私なんてただの下等生物ですね」

「自虐が過ぎるよ……」


よいしょ、と腰掛けていた木の根から降りて、右腕を空気を切る様に横に凪ぐよう振るう。すると私の周りに拳大の水球が無数に浮かぶ。顔を顰めて背けていたクロイツさんが、私を見た。メアリー母は驚きつつも首を傾げている。


「大した人間じゃないさ。迷宮攻略者なんて」


私が動けば水球がついて回る。手の平を上に向けて握りぐっと拳を作れば、飛び回っていた水球が集まりひと塊りになる。バリバリと凍って、大きな怪鳥になる。私が以前作り出した氷竜とは様子が違う事が分かったのか、皆に緊張感が走る。


「……旅の大変さを身に付けたほうがいいって事だからほっておいてたけど、次の街に寄るのはやめておこう。その次の目的地の……ターシュの街だっけ?着くの多分陽が沈んでからになるけど、近くまで飛ばしてあげるし案内役を付けるから……ちゃんと生きててね」


木の陰から見えるのは、爛々と光る捕食者の目。暗い陰から、四方八方、近くも遠くも、こちらを見ている。

メアリーから悲鳴が上がりかけて、ミラさんが口を咄嗟に塞いだ。悲鳴が上がった瞬間、奴らは襲ってくる。それを、ミラさんはちゃんとあの毒霧の迷宮で学んだのだろう。その行動に迷いはなかった。クロイツさんがメアリー母を、アウストさんが皇子をそれぞれ馬車へ、ゆっくりと乗せる。


「っ、……シエル様」

「クロイツさん、ちょっと騒がしいけどケットシーを付ける。私に何かあればその子が分かる。そっちに何かあれば私が分かる」

「にゃいっす!」


私たちの動きを見てか、すぐにとびかかれる様に距離を詰めてくるそれらに向けて怪鳥を飛ばすと、ギィギィと醜い音を出して少しだけ後退していく。だがそれだけだ。逃げて行くならそれで良かったのだけど。


「行け」


馬車の周囲の地面が光り、一瞬の後、そこには何もなかった。最初から、何も無かったかのように。


……まったく、困ったものだよ。今日は珍しく疲れてるっていうのに。


仮面を剥いで、魔力を放つ。私の魔力をちゃんと判断できるようになった下等な魔物たちが怯えを見せるが、今更遅い。

どこから湧いて出たのか。またどこかの迷宮攻略者か所有者が殺されたか。どちらでもいいけど、どちらも面倒なことに変わりはない。


「20...30はいるかな。さて、どうしたものか」


魔力を広げて絶命は簡単。でも疲れる。一応大規模攻撃だからね。私が疲れる。魔力は減らないのに発動する手間をめんどくさいと私が感じてるから無理。ものぐさですいません。

……うーん。考えるのが疲れたなら、とりあえず身体を動かすべきかな。氷魔法で剣を作る。耳元で何かふわふわと擦り寄ってくる感覚が擽ったくて笑うと、反抗するようにキューキューと声がした。今朝からずっと一応のために隠れてもらっていたのだ。


「…君も付き合ってくれるの?」

「キュイッ!」


私の拳大の小さなそれは私の肩からするりと降りて剣に張り付く。するとただの氷が透度を増して、明らかに硬質化していく。


「クリスタルドラゴンだからちょっとカッコいい名前にしたんだけど、愛称をつけたよ。

キューちゃん」

「キュー……」

「本当の名前はもっとちゃんとかっこいいから一緒に頑張ってね」

「キュ」


その剣は、キラリと光っている。手に取ればしっかりと私の手に馴染む。地を蹴って手近な魔物を切る。感触はあるのに、切った感じがしない。多分、切れ味が段違いなんだと思う。

切った物体を視認すればどうやらオークの群れのようだ。30なら、…大きいほうかなぁ。

リヒト曰くどの規模の群れであっても、多分強い個体が一体は居るはずだから、それをさっさと切り捨てれば逃げていく魔物らしい。

斬り捨てつつもリーダーだろうオークを探すが……いない?……仕方ないのでその場で震え上がっていたオークは全て頭を斬り落として、血抜きして後で売ろうと空間に放り込んでおく。10体あればいいかな。あとは全て燃やしてしまおう。灰になるまで。


「不思議だねぇ、キューちゃん。キングオークは居なくてもハイオークくらいいるとおもってたのに」


オークだけの群れが急にどこかから現れた。……一体どこから?

……まあいっか!取りこぼしがあっても面倒なので、木々に被害の無いよう保護魔法をかけた上で、この周辺一帯に炎を広げる。もちろん一瞬だし人がいない事は分かっててだし、細心の注意を払っております。危ないので真似はしないでください。


火の始末も終わり、敵影なし。氷の剣を消せば、ポン、と可愛い音を立てて小さいクリスタルドラゴンがふわふわと私の伸ばした手の上に乗った。

そう!何を隠そう!キューちゃんです!あ、違った。白銀の迷宮を攻略した際に、迷宮核が魔石になりそうだったところに、私が倒したばっかりのドラゴンの置き土産のクリスタルに魔力を流したら小さなクリスタルドラゴンになったんですよ!ものすごく可愛いの。……いや、正直迷宮核の魔石を身に付けてたらバレるよなぁと思って。何かいい解決方法はと思ってたんだけど、どうやら迷宮内で生まれる魔物って、普通は契約しないとどうにかすることは出来ないはずなんだけど、何故かこの子には干渉出来ちゃったんだよね。契約した覚えないのに、何故か契約した状態になってたの。

と、言うわけで、迷宮の外に迷宮核の番人を私と同行できる形で連れてくることが出来たのだ。私の契約してる子だと言えば多分納得するだろう。だって私が多種多様な種と契約している事は知って…………知らないだろうけどそのうちわかるだろうし。


はい、そんなキューちゃん、実はものすごーーく鼻が効きます。


「美味しいオーク肉どこかなー?」


問いかければきゅいーと可愛く鳴いて私を先導してくれる。どうやら私たちが進んで居た方向の右手側……つまり、ターシュの街の西南に位置する街だ。

キューちゃんの言う通りに進むと森をすぐに抜けることが出来た。そんで、遠目からでも街の様子がおかしい事が分かった。彼方此方で煙が上がっている。


「……人の肉って、美味しくないよね?」

「キュイ?」


小首を傾げて私を見上げるキューちゃんはとっても可愛いんだけど、まるでそう?と聞かれているようで、ちょっと怖くなった。キューちゃん…再攻略しに来た兵士たちを食べてないよね?摘み食いとか、してないよね……?


内心冷や汗をかきつつ、私は街へと駆け出した。

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