少女お試し期間4
「此方の応接室でお待ちください。
また、何かご不自由な点がありましたらテーブルの上のベルでお呼びください。」
執事が一礼すると部屋を出る。
床一面が白大理石で、壁は赤ワインのような塗り壁。
天上にはシャンデリアが等間隔に三つ並んで煌びやかに部屋を照らす。
私はゆっくりと伸びをして、茶色のソファーで横になった。
フカフカとしていて、雲で寝ている気分。
とっても気持ち良い……。
暫くしてハッ、と目が覚めた。
銀色の髪のカーテンを透かして変化のない部屋。
静寂に包まれ、芳香剤の甘くてふんわりとした匂いで二度寝を誘う。
だけど、また寝るのはアレなので少し振り返ってみる。
最初はミトロンと始めたこのゲーム、二人でアニメみたいな強いプレイヤー
になろうと頑張った。
でも、思った以上に上の人たちは強くて、賢くて、一日経つごとにどんどんと差が開いて
ミトロンはもういいやと諦めて、私は一人でどうすれば良いか、
わからなくなってしまった。
……でも、私は遂に強くなる最短ルートを手に入れたのだ。
滅茶苦茶強そうなモンスターを一撃で粉末にする滅茶苦茶強い人間の
弟子になった。
ミトロン曰く、私たちの目指していた人間。そんな人から教えてもらえる。
気分が悪いわけがない、これから強くなれると思うと体の芯からソワソワとした
感情が湧き上がってくる。
くぅ~、と高ぶりを含んだ唸りをする―――
ドアが何者かに強く跳ね飛ばされ、ドアストッパーが壁に打ち付けられドンッと大きな音を出す。
反射的に飛び起きるとそこには赤髪で、軽装の防具を着た青年が入ってきた。
「何故...お前のような紛い物がいる?」
「え?」
突然来たと思ったら罵倒される謎の展開に頭が真っ白になる。
「サハリアノ坊ちゃん!この方は龍成様の弟子でございます!」
先程の執事と二人のメイドが後から止めにかかる。
「これ以上、”招かれざる者”を増やすわけにはいかない!」
「坊ちゃん!お止めください!」
剣の柄に手を掛けたサハリアノを必死に宥める執事。
「誰が招かれざる者よ!」
これは”ゲーム”なのだ。
剣を向けられても例えやられてしまってもコンティニューが出来る。
「そんな脅しは通用しないわ!」
「この魔女っ、生かしてはおけない!」
【"火炎弾"】
三人の間から穿たれた赤い閃光、私はとっさに障壁を張った。
火炎弾は障壁に触れると炎を周囲に撒き散らす様に爆発四散し、私の張った障壁
もろとも吹き飛ばしてしまった。
腰から力無く尻餅をつくと、先程の炎に反応してスプリンクラーが回り始めた。
そして、周囲一面が灰色の煙に覆われる。
視界は遮られ、何も見えない。
一瞬の出来事で思考が停止し、周囲を闇雲に見まわす。
かかとから脳まで突き上げるほどの悪寒、煙がどんどんと黒く、
人型になっていく。
【ゲームなのに、なんで私は怖がっているの?】
反射的にうずくまる私。
「助けて―――」
それから暫くうずくまっていた私。
気づけば煙は薄くなっていて、部屋の壁を確認できるまでにはなっていた。
そして、影のほうを恐る恐る見る。
「おうリリス、大丈夫か?」
「……し、ししょー!!!」
「なんだ今のラグは。」
師匠は苦笑いしながら私の隣に立った。
「お前が龍成か。お前にもここで消えてもらう。」
「元気な奴だな。」
執事やメイドは廊下の壁に打ち付けられ、気を失っている。
サハリアノは剣を抜き、後ろ足をゆっくりと下げ、剣先を私に向ける。
「先ずは貴様からだ。愚かな魔女よ!」
師匠の足にしがみつき、目を瞑った。
その時、師匠はこう言った。
「突きの攻撃は基本的には避けるのが定番。だけど、こういう時は......」
鈍い金属音、それから遅れてカランカランと金属が落下した際の軽い音。
ゆっくりと顔を上げる。
「いわれのない排斥を続けるのならお前をここで粛清をしなければならない。」
突きの姿勢で静止画の様に止まっているサハリアノ。
持っていた剣は柄の部分から先が綺麗に切断されていて、師匠の間合いにすら入れていない。
柄だけの剣が手から零れ落ち、膝からゆっくりと崩れていく。
「クソッ、何で...何でお前たちは我々を安易に殺せるのだ。
俺はただ、母と静かに暮らしたかっただけなのに。
何故何度も、何度も!殺されなければならない!
結局神は母を見放し、私だけがまたこうして戻ってしまった...」
「リリス、どういう事?」
師匠の問いに、少し考えを巡らせてみる。
「そういえば、10桁にはチュートリアルがあって、その最後で反逆王の粛清っていう
対人チュートリアルがあったような...」
ふと、脳裏を過った疑問がノンストップで口から放たれる。
「で、でも師匠!その相手はNPCですよ!何でプレイヤーみたいに振舞ってるんですか!」
「それは......」
言葉を濁す師匠、私は後に続く言葉に耳を疑った。
一週間以上間が空いてしまい申し訳無いです。
ただ、地道に投稿していきますのでよろしくです。