少女お試し期間2
広い大通りには屋台がずらりと並び、その品ぞろえは青果から雑貨、武器まで様々が売られている。
元々が交易の要所であったためか様相には統一感がなく、どこか騒がしい。
多文化共生社会、まさにこの一言で表せるような街である。
「師匠!宮殿って言っても三つぐらいあるんですがどの宮殿に行くんです!?」
「え、ああ。セグレタス宮殿だよ。」
「セグレタス宮殿って、シビリック王の住まいですよね...入っていいんですかって師匠?」
勢いで弟子を取ってしまったがどうしたものか。
責任とかあるのだろうか。彼女の類まれな記憶力を、悪い言い方だが利用するために
とりあえず手元に置いておくために乗った話だが、give&takeだ。
何か教えなくてはいけない、良心がやはり痛む。
ただ、何を教えればいいんだろうか。
「貴様、何者だ!」
セグレタス宮殿を目前に衛兵に行く手を阻まれる。
「え?私は怪しい奴じゃないです!”この人”の弟子です!!」
原因はもちろん、怪しい少女である。
「これはこれは龍成殿。私がガレオンの外交官のフィーゼラーです。」
衛兵の背後から現れた白地のワイシャツに灰色のベストを身に着けた男性は、軽く会釈をする。
堀の深い顔をしているが年は還暦を迎えていそうな感じだ。
「エスパニアからこの地域の担当者に任されました龍成です。暫くはよろしくお願いします。」
こちらも自己紹介を済ませ、会釈をする。
「よく遠いところから...こういう時に貴方のようなお強い人がいると助かります。
そういえば、貴国のライゼン様からは龍成殿お一人と聞いていたのですが。こちらの方は?」
衛兵と口論をしていて聞こえていないようだ。
俺が代わりに答えておこう。
「怪しい奴です。」
「怪しくないです!私はリリス、リュウセイの弟子です!」
聞こえてたのか...
「ほぉ、龍成殿に弟子が居たのですか。」
「えぇ、一応期間限定ですがね。でも、ゲームで弟子って可笑しくないですか?」
ふと沸いた質問にフィーゼラーは首を横に振る。
「むしろ凄い事ですよ。他人に物を教えるのはとても難しい事ですから。
それがたとえ自分の好きな事だったとしても。スポーツでも勉強でも同じことです。」
「そう、なんですかねぇ。まだ今一ピンと来ないんですよ。このゲームってこう...コツとかは
特にないような気がして。」
「それはもう慣れてしまっているからですよ。そんなに深く考えなくてもその都度その都度で
反省、改善を繰り返してあげればいいと思いますよ。私もエリチさんの配信をたまにですが見させて頂いてますが
やはり見ているだけでも学ぶ点が多いですから。」
「なるほど...」
深く考えすぎ、か。
横ではいまだに衛兵と押し問答をしているリリス。
リリスのほうは顔が真っ赤になっている。
「すみません、衛兵さん。コイツ弟子なので通していただいていいですか?」
「本当に弟子でしたか、申し訳ございません。」
衛兵が深々と頭を下げる。
「ほら!だから言ったでしょ!」
「余計な事を言うな。」
衛兵の敬礼と共にセグレタス宮殿の門をくぐった。