十桁動乱編 ④
天気は晴天、風もなく、淀みもない。
首都のフェスタンプールから離れたエルクラレリというガレオン三番目の都市。
主に工業と鉱山が発展していて、ガレオンの工業力の高さの象徴とされている。
東西南北に延びる十字の大通りは、東はフェスタンプール、西はザルベスト帝国領に
繋がっている。
そんなモンスターも沸かない都市に、リリスの姿があった。
・・・私は、果たして強くなったのか。
目標が高ければ高いほど自分がどの位置にいるのかが分からなくなってきた。
その原因はもちろん、龍成なのだ。
保有魔力量、火力、知識、どれをとっても雲泥の差。これでは全く勉強にならない。
だから、師匠から技を盗むのは後に回して
まずはこの地域で一位を目指す事にしたのだ。一位と聞いて驚くかもしれない、でも師匠の技を盗むレベルとなるともっと上の桁でも通用しないといけないそれぐらいの強さが必要なのだ。
そのおかげで、今までの惰性的なレベリングとは違い、目標があり、パーティーもあり、やる気もある。
そして、それが強くなるために正しかった事と証明するために、私は今日この場に立っているのだ。
「あら、貴方が最速で受験資格を取った
リリスさん?」
私より少し低い身長で、短めの髪が波を
作る。俗に言うウェービーヘアだ。
「そうですよ!あなたも試験を?」
「残念ね、私は残留権保持者なの。」
「じゃあ、何故ここに?」
「何って、もちろん今回の試験を受けるだけ受けたいから来たのよ。
まさか聞いてないの?巷で噂の『引きこもり貴族』と戦い、残った20人が今年のA級になるっていう特別試験よ。」
「ひ、ひきこもり貴族?」
「名前は聞いてないけど、とにかくA級の残留権で納得がいかない人間が多くてこんな試験内容になったらしいのよ。」
「フン!引きこもり貴族か、腐った性根を叩き直して、2度とこんなふざけた試験が出来ないようにしてやる」
「あ、あなたは?」
「私はA級第5位グライフ・ラーゲリー・
リブラだ。
君は確かリリスさんといったか?
白銀の最速少女で有名だぞ」
「そ、それはどうも」
私よりもはるかに大男で、背負っているのは巨大な盾、それに付随する大剣、筋肉で出来た山脈。ザ・パワータイプだ。
「メルスト、そういえばだが眷属は見つかったのか?ハルトマンさんのとこに行ったんだろう?」
「見つかんないわよ、これじゃ私を複製して私を眷属にした方が早いかもね。」
「じゃ、じゃあ俺は?」
「論外」
あっさりと切り捨てられ、悲しい目をする
グライフさん。
「そ、そうだ!グライフさん、引きこもり貴族ってどんな人なんですか?」
「あ、ああ、身長はそうだな、君より少し高く、高等学校生のような青年だった。
ケツが青いからか知らないが、俺たちを時折見下すような態度をとる。そして、どうやら何か研究をしているらしい。」
あれ、なんか知ってる気がする。
でも、もしそうだとしたらこの試験で生き残るのは不可能じゃ...
~『”A級ライセンス取得試験前夜”』~
A級ライセンス取得試験について説明しよう。
まず、試験資格に必要な討伐難易度度数は五段階評価であり、その
内容は
1.基本的な討伐
2.実践的な討伐
3.専門的な討伐
4.集団戦闘を必要とする討伐
5.A級多数を必要とする討伐
これら評価は依頼者の報告と、国に認可されたギルドの調査隊が実態を確認
すると討伐書と同時に難易度が発行される。
ただし、基本的な討伐といえど魔法や戦闘技術がある程度は無ければ
達成することは出来ない。
しかし、この世界には並大抵の冒険者では対処できない”獣”が存在し、
それらは一体で国家を揺るがす大災害になりうる。
A級は連合を組む国家同士で運用されるレベル4相当の討伐があった際に召集され、
任務を遂行するのを目的とされる。
その為、試験課題は肉体、精神共に強靭な者を選りすぐる目的があるので
受かる試験ではなく落とす試験、つまり基準以下の者は徹底して切り落とす
形式の試験方法となっている。
「シビリック、A級に龍成殿が確定残留なのは文句ないだろう?」
「今の説明を聞いた限り、レベル5相当でも散歩がてらに倒せる
お方だ。別に反対することなんて何にもない。ただ、敢えて言うならば・・・」
「言うならば?」
「龍成殿は”引きこもり貴族”と宮廷内では言われている。
これは他国にも広まっているようで、『ガレオンは金持ちだな』と
嫌味を言われたぐらいだ。勿論、他のA級が知らないはずが無いだろう。
そんな引きこもりが”残留条件10位”以内の枠に入るのだからな。」
A級の残留資格とは、A級は毎年30人選抜されるが、上位十名が来年度試験を
免除される。しかし、そこに龍成が入れば実質9枠であるのだ。
勿論、不満は出てくるだろう。
ただ、陸軍総長アルベルトには考えがあった。
「龍成殿が、それこそ他のA級に敗北することがあるのならば
容赦なくA級残留権を剥奪しますよ。
ひと悶着あると思いますが、龍成殿が...なんですか、”挑戦者”達を
返り討ちに出来る実力があると踏んでのA級残留資格ですから。
問題はないはずです。」
「なるほど、それこそ圧倒的な力で返り討ちにされれば彼らも
納得するだろうしな。」
「ならば、今年の試験はそれにしないか?レベル5相当でも散歩がてら倒せるのであれば他のA級全員とやりあえるはずだ。」
『それは名案だ!』




