十桁動乱編 ②
「「はぁっ!」」
銀の刀身が滑るようにモンスターの皮膚を割く。
四足歩行の大型魔獣は目の光を失い、その場に倒れた。
「流石A級冒険者だ。」
「流石リリスさんです!」
新入りでまだ13歳の少年カルシファ、最近魔法学校中等部を出た
ニーフィアの称賛に頬が緩む。
「いやぁ~、みんなのお陰だよぉ~」
照れくさそうに頭を掻く。
そして、任務を完了したリリス一行はレセンレル草原を離れて
一路”オレタ・ショイ”の街へ戻る。
「そういえば、このパーティーってすごいですよね。」
帰り際、カルシファが呟く。
「それはどうして?」
「だって、リリスさんとリガルドさんってA級冒険者ですよね?
この国には30人しかいない冒険者がこのパーティーに二人いる何て
凄いことですよ。」
リガルドが顎に手をあて、少し考えると「確かになぁ」と
呟く。
「そもそも助成金だけで生きていけるからな。
国を揺るがす重大ごと以外には参加しなくてもいい生活できるからな。」
「それじゃ意味ないよ!強くならないと!」
ニーフィアは小さな拳を握りしめてフンフンと息を荒げる。
「そうだよ!強くならないと...強く...」
私は一月前の事を思い出す。
師匠とエリチさんの領域には、果たしてたどり着けるのだろうか。
あれだけの威容を誇った”神殿守護機スタフティ”は、四肢を切断されて
呆気なく倒されたのだ。
私は師匠の背中に摑まって強烈な風と、上下左右に振られながら
ただ、見ている事しかできなかった。
「どうしましたリリスさん?」
ニーフィアの声に呼び戻される。
「ご、ごめんごめん!ちょっと考え事してた。」
「・・・そういえば、お前さんはどうしてここまで任務を
こなすんだ?」
「そうです!私もそれ聞きたいです!」
困った、本当に大したことじゃないのに。
まあでも仕方ない、答えたって何の問題にもならないのだし。
「A級ライセンスは一年ごとに更新されるの。その期限が来週で、私は一応特別残留枠
が用意されてるけど、自分の実力を試してみたいから更新試験に
参加しようと思うの。
その為に、討伐難易度3以上の任務を100件こなすと貰える参加資格の
為にやってたってわけ。」
「えぇ!!更新試験に参加するんですか!?」
「そんなに驚くこと?」
「そんなに驚くも何も、あれは地獄ですよ。国中から集められた猛者が
一斉に篩にかけられて残るのはわずか20人っていう超難関試験。
しかも、残留はその30人のうち上位10人のみ、一年任期は変わらずに、前年度の
一騎当千の冒険者たちも試験を再度受けるんですよ!」
「つまり、前年度の20人もスタートラインに並び直しってわけだ。」
カルシファとリガルドの連携解説に少し圧倒されかけるも
私の意思は固い。
「そんなことわかってる。でも、本当にA級に相応しいのか私自身で
確かめてみたいもの!」
一行はオレタへ向かい、歩く。
灼熱とは言わないが、暑い日差しが四人を照り付ける。
やっと、街へ入ると私たちは任務完了の報告のために
”狩猟ギルド『精霊団オレタ・ショイ支部』”に入る。
昼という事もあり、受付の前にある休憩所はにぎやかだ。
「じゃあ受付は任せた!俺とカルシファは先飯に行ってるぞ」
「あ、ちょっと!」
私とニーフィアを置いて勝手にご飯に行くとは...
少し呆れながらも仕方ない、報告を済ませてご飯にしないと
私もお腹がペコペコだ。
・・・「帰還」・・・
「お帰りなさいませ。朝方からの任務お疲れ様です。
今回はどうでしたか?」
受付の女の人から毎度聞かれるこの感想に何の意味があるのだろうかと
思いながらも「大変でしたね~」と答える。
「なるほど、では今回の報酬、37000シルバーをお支払いいたします。」
私は金貨三枚と1000白銅貨7枚を受け取る。
紙幣だと偽造されやすいからなのだろうか、通貨に紙は無い。
確認もせずに袋に入れる。
「そういえばリリスさん、A級冒険者更新試験が来週ですが
受験資格目標数の100件の任務達成、おめでとうございます!」
「そ、それは本当ですか!」
「勿論です。こちらの更新申告書にご記入お願いします。
それは後日窓口で提出いただければよろしいですよ。」
黄色の書類にはガレオンの印鑑である双頭の龍が押されていた。
私はその書類を受け取ると、シルバー以上の嬉しさが込み上げてきた。
100件分の成果だ、一枚の紙がここまで重いと感じたことは無い。
「それにしても、この一ヶ月で難易度3案件以上の案件を100件
クリアしてしまうなんて、A級の人間はやはり化け物ぞろいですね。」
受付の女の人に感心されながら、まだ状況を読み込めていない
ニーフィアを連れてお昼にすることにした。




