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少女レベリング7

「逃げようとすると魔物が現れる塔ねぇ、たしかに呪いじみてるけど

それって捉え方によっては便利よねぇ?」


「便利?一体何がだね」


「それはもちろん、“レベリング“よ!」


「れ、れべ、何だって?」


困惑するイロアス。


エリチは先程のイロアスの話を聞いていたのか、はたまた

聞き逃していたのか知らないが、どうやらこの話の流れを読まないような

とんでも無い事を思いついたらしい。


そして、うんうん、と一人で頷くと、背後の通路に向かって

「ホラ!そろそろ出てきていいわよ!」と呼びかける。


リリス、リガルド、冷房の3人だ。


「ったく、立ちっぱなしはキツかったぜ。」


「ホントですよ、足が棒になりました!師匠、おぶって下さい」


図々しくも両手を挙げて背中をよこせとねだってくる。

ふざけたことを抜かすな、と意味を込めたデコピンする。


「イテッ!何するんですか!女の子は顔が命ですよ!」


「はっはっは!愉快なお連れさんが居たとは。」


イロアスが笑うと、他の魔道士の緊張も払われたようだ。


「りりちゃん待たせちゃってごめんね!」


エリチの両手を合わせた申し訳なさげな上目遣い、これは配信で炎上した時に

よく使う手だったな。


「い、いえ!足なんてへっちゃらですよ!」


手のひらクルクルで呆れ笑いが出てしまう。

真面目な話でも途端に変化させるリリスには何かしらの才能があるのでは無いかと

思う龍成である。



「そういえば久しぶりだな、ガルマンド。サニファリスの孤児院以来か?」


「あら、リガルドの知り合いだったの?」


「ああ、元々士官学校の同期だ。」


同期と会うにしてはどうも表情が優れない。


そして、イロアスもリガルドに気付くと、拳一つ分の距離まで迫る。


「リガルドか...久しいな。だが、サニファリス孤児院の話は他言無用のはずだが?」


「......終わった話だ。それに、いつまで引きずって生きていくつもりだ?」


険悪な表情でお互い一歩も動かない。

とにかく、話題を逸らさなければ......


「で、レベリングってどうするんだ?」


「そうそう、レベリングよ!

イロアス!私に部隊の指揮権を譲ってもらえる?」


急に指揮権の譲渡を要請されたイロアスは、一瞬言葉に詰まった。


「流石は宮廷魔道士と1000人組手しても勝てると豪語していたお嬢さんだ!」


リガルドの発言にイロアスはギロリ、と視線を突き刺す。


「冗談のつもりか?除隊された上、さらにお尋ね者にでもなりたいのか?」


「冗談なんかじゃ無いわよ。事実、私はこの場の全員より強い自信があるわ。」


エリチの言うことに嘘はなかった。

ただ、相手はそれを信じてはくれないようだ。


「我々にもプライドというものがある。それに、指揮権を譲るというのは

部下の責任も負うということだぞ?責任が持てるのか?」


「呆れた、ここまで人数を減らしておきながら責任なんて

既に放棄していた物だと思ったわ。

そもそも、下にいた雑魚相手に4人も持ってかれてるようじゃ

1000人同時に掛かってきてくれても勝てるわね。」


「なっ......」


「おいエリチ、言い過ぎだ。」


「ごめんごめん!つい、本音がね?」


これだから”七帝“は自分勝手だの自己中だの言われるのだ。

でも、俺の本音もエリチと同様、指揮権はイロアスに持たせておくよりエリチの方が

断然良い筈だ。


「イロアスよ、彼女のいっていることは事実だ。

あの骸骨騎士は宮廷魔道士の中の精鋭ですら集団でやっとのことで

倒していた相手だ。

それを容易く倒したのを俺はしっかりと見たぞ。」


イロアスは暫く俯くと、深く考え込む。


彼にも彼なりの立場というものがあるはずで、かなり辛い選択を迫っている

ようで、気がひけるのだが敢えて俺は止めなかった。


イロアスは数分ほど考え込んでいた。

そして、踏ん切りがついたのか顔を上げる。


「...条件がある。今の部下と共に塔を降りられること、だ。」


「いち、に、さん...16人ね。良いわ、これ以上の死傷者を出さないことを

約束するわ。」


「よろしく、頼む。」


イロアスは深々と頭を下げる。

そして、隊員らに振り向くと、こう叫んだ。


「これより!我々魔道小隊の隊長はエリチ殿になった!

皆、把握しておくように!」


そして、指揮権が口頭で移ったことを確認したエリチは周囲を驚愕させる

指令を出す。


『さて、これより!“塔を降る”わよ!』


撤退の話を聞いていたのか、と思うがこれは恐らくレベリングの為だろう。

それにしても、他の人間からすれば何を言っているんだコイツは、といった

感じだろう。リガルドもイロアスも完全に言葉を失って棒立ち状態だ。


エリチの撤退指令の後、待ったましたと言わんばかりに

魔物の反応が次々と現れる。


すぐ近くの突き当たり、塔の道から魔物の唸り声が幾重にも重なり、

ゴォー、という不気味な音に変わる。


「エリチ殿!話が違うのでは無いのか!」


「うっさい!黙って見てれば良いの!」


両方の通路から殺到する魔物の集団が、遂に俺たちを視界に捉える直線上にまで

迫る。


「エリチ、リリスのレベリングにしては少し派手すぎないか?」


「あら、私として”古代機神龍アンティクロム・マキナ・シェンロン“ぐらいと

戦わせてあげたいのだけどね!」


「殺す気か。」


「それより、リリちゃんの面倒は見るから残りの連中の護衛を頼むわ。」


「ああ、主にお前の魔法砲撃の爆風からな。」


「頼んだ!」


エリチが甘い声でリリちゃーん!と拉致している間に俺も仕事をせねば。


「すみません、鉄剣を貸してください。」


「ぼ、僕ですか?か、構いませんよ。でも、既に帯剣しているようですが、何に使うのですか?

これは官品のただの鉄剣ですよ?」


「これの方が色々と都合がいいんです」


不思議な目で見られるのも仕方ない。

ただ、魔力の伝導率が低い鉄剣なら範囲を限定的に、絞りやすいのだ。


剣を拝借し、剣を地面に向かって垂直に突き刺す。

床の質的に若干鉄剣の方が硬度が低かった為、多少の反動の跳ね返りが手に来たが

問題ない。少し手が痛いだけだ。


そして、脳内で選択して決定する。


物理防衛壁ディフェンション・フィジシス


鉄剣から流れる深緑の液体のような振る舞いをする光は床を伝わり、

魔法陣を描く。

その円形に展開した魔法陣の外線から半透明のシールドが

ヒラヒラと立ち上り、半球を作る。


「エリチ、準備はできたぞ。」


後ろのギャラリー達の視線は、魔物の群れと相対するエリチに集められた。

リリスはエリチの左隣で何故か仁王立ちしている。

お前はビビっていいんだぞと思いながら、エリチの久々の一発が物理的に

火を噴くようだ。


轟々と燃え盛る剣は、赤茶色に塔の壁を照らす。


7帝という7人の最上位プレイヤーの1人が今、9桁相当の相手に3桁の魔法を

吹っかけるという前代未聞のオーバーキルが行われる。


「じゃあ、行くよ!”大爆轟デトネーション・マグナ“!」


横が5m、高さが3m程の通路を溶解させながら煌々と輝く赤い波が

魔物めがけて押し寄せた。










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