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グレイド、私室に連れ込む

グレイドが王宮内を駆け回ったせいで、フランチェスカの事は大勢の知る事となった。

そこに警備兵達の美しい令嬢の噂が加わると、さらに興味は加速する。

サンレオ公爵が手中の珠と育てた令嬢である。

あまりにも人前に出ないので、病弱かと思われていたぐらいだ。

王家の次の権力者のサンレオ公爵、しかも夫人は美幌で有名であり、隣国エメレンの王位継承権第1位。

エメレン王国の王妹であるが、他国に嫁いだフランチェスカの母が王位を継ぐことは現実的でないので、第2位のフランチェスカが次の王だ。

もしくはフランチェスカの夫が王だ。


人々の間に忘れられていた公爵令嬢が注目を集めたが、実際に見たことのあるのは門兵と士官達のみだ。

グレイドがフランチェスカを抱き(かか)えて、人目に触れぬように私室に連れ込んだからだ。



フランチェスカが隠すように育てられたのは、サンレオ公爵家の意に添わない、フランチェスカに恥辱を与えて夫になろうとする者が現れるのを怖れたからだ。

10年前、エメレン国王、ダルメニア国王、サンレオ公爵の3者により、フランチェスカが17歳になるまで公の場に出さないように決定がされた。

そして、グレイドとの婚約が取り交わされた。

サンレオ公爵家に次の子供が授からなかった場合、フランチェスカの子供の一人はエメレン国王の養子になる事が内約されてのことだ。



フランチェスカはグレイドの部屋のソファーに座らされた。

もちろん、侍女も侍従も人払いされている。

「怖かったろう、フラン。」

グレイドがそっとフランチェスカの手を取る。

怖かったのは自分かもしれない、とグレイドは思う。フランチェスカにもしもの事があったらと執務室を飛び出してのだ。


先ほどは隠すように抱き抱えていたのに、落ち着いてくると緊張してきた。

「ここは私の部屋だ。」

グレイドは向かいの席に座るか迷ったが、欲望に負けフランチェスカの横に座る。

触れ合う肩に神経が集まる。

フランチェスカは避けるでもなく、もたれるでもなく、固まっているように見える。

「今日はどうして王宮に?」

グレイドの言葉にフランチェスカがピクンとした。

「だって。」

フランチェスカがグレイドを見る。

「会いたかったんだもの。

理由なんてないわ。」

同じだ!とグレイドは高揚する気持ちを押さえられない。

もう、1日待たないでいいんじゃないか、今キスしてもいいんじゃないか。

グレイドがフランチェスカに手をかけようとした瞬間、フランチェスカが飛び付いてきた。


ガチン。

フランチェスカにキスされたが、抱きついた勢いで歯がぶつかった。

「ファーストキスなのに、失敗なんて。」

痛かったのだろう、口を両手で押さえて真っ赤になるフランチェスカ。

グレイドはフランチェスカに先を越されて、ショックで呆然としている。

それを見たフランチェスカもショックを受けている。

「ごめんなさい、嫌だったのね。」

「違う!

私もキスしたかった!」

やり直しとばかりに、グレイドがフランチェスカに優しくキスをする。


キスの合間にフランチェスカの言葉がもれる。

「好き、グレイド好き。」

ここも先を越された、好きと気持ちを言ってなかったグレイドである。

「私もフランが好きだ。」

愛するフランと書いたが、口にするのは初めてだ。

自分で言いながら、トーンが高くなっていることに気づいた。

王太子として教育を受け、重責のかかる会議でもこれ程言葉につまったこたはない。

グレイドは夢中でフランチェスカにキスをし、時間さえ感覚からなくなっていく。


気持ちいいだけじゃない、幸せだと思う。

抱きしめるほど接触してわかるフランチェスカの(ほの)かな香り、甘く、(しび)れる、酩酊(めいてい)する感に落ちていく。

これが気持ちが伴う事なんだ、グレイドは想いを伝えたい。

「幸せ。」

先に言ったのはフランチェスカである。

また先を越された!

グレイドの半歩先を行くフランチェスカ。

もういいだろう、とグレイドの中で理性は崩壊した。

フランチェスカに先を越され、主導権を取られて焦っていくグレイド。

結婚するのだし、ちょっと早くなるだけだ、と自分で納得する。


フランチェスカを抱き上げ、寝室へと向かう足取りに迷いはない。

フランチェスカも事情を察したらしく、真っ赤で口をパクパク開けている。

「あの、あの、グレイド。」




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