グレイド、フランチェスカを探す
『愛するフラン、仕事が長引き今日は公爵邸に行けそうにない。
私の代わりにこの花を贈る。
フランの側に置いて欲しい。
グレイド。』
愛するフランですってーー!
「きゃあ!」
カードを受け取ったフランチェスカは、侍女達が側にいるのも忘れて歓声をあげた。
侍女達も飛び跳ねるフランチェスカの様子を見て、余程嬉しいのだろうと察する。
でも、グレイドが来れないと思うと寂しい。
昨日の今日なのだ、毎日でも会いたい。
グレイドは思ってくれてるかな、心配になる。
自分達はこの間まで半年も会わないような関係の婚約者だったのだ。
本当に仕事なのかな?
もしかして、女の人と会ってたらどうしよう?
昨日だって、庭でいい雰囲気だったのにキスもしてくれなかった。
疑問は不安を呼んでくる。
フランチェスカは王宮の事をしらない。
父に連れられて、何度か登城したが、王や王妃、王太子と会見したら直ぐに公爵邸に戻るだけだった。
王宮でグレイドはどうしているのだろうか。
自分の実力以上の行動力を出すフランチェスカである。
翌朝、早々に執事に馬車を出すように交渉を始めた。
もちろん行き先は王宮だ、グレイドに会いに行くつもりらしい。
「王太子殿下に会いに行く事をお知らせすべきです。」
執事はもっともな事をフランチェスカに諭す。
フランチェスカがグレイドに、執事が公爵にそれぞれ手紙を書いた。
問題はフランチェスカが一人で王宮に行ったことがない、という事であった。
手紙を受け取ったグレイドも公爵も馬車寄せに人を向かわせたが、既にフランチェスカはいなかった。
手紙は王宮で様々の手続きの後、届けられるため、フランチェスカの方が先に着いたのだ。
それを聞いたグレイドは執務室を飛び出し、フランチェスカの足取りを追って探し始めた。
「ご令嬢、こちらは入れません。」
警備の兵士に言われて、強硬突破など出来ないフランチェスカ。すごすごと引き下がる。
フランチェスカは屋敷からついてきた警護の者が、門兵に交渉している間に姿を隠して、王宮の違う門まで来ていたのだ。
まさか、王宮ではフランチェスカがいないことで、グレイドと公爵が大騒ぎしていることなど知るはずもなく、下級士官達の練習場に向かった。
そこは警備の兵士がいない方向だったからだ。
だが、見たことのない美しい令嬢は警備の兵士達の間で噂になるのは直ぐの事だった。
剣の音に惹かれる様にフランチェスカは練習場を覗いた。
そこには若い兵士達が訓練の最中であった。
「カッコいい!」
フランチェスカしか子供がいない公爵家で、剣の練習など見ることなどない。
下級士官とはいえ、貴族の子息達である。
士官用の軍服で訓練する様は、魅力3割増しだ。
そして、美しく若い令嬢が見ていると俄然張り切り出す。
「どこの令嬢だろう?」
「初めて見る顔だな、美人だ。」
「ドレスを見ても高位貴族の令嬢のようだ。」
「何故こんな所にいるんだ?」
「迷ったのか?」
その言葉に我先にと士官達が飛び出し、フランチェスカの元に駆け寄る。
訓練中の若い士官達が大勢寄ってくると、汗臭い。
さっきまで、カッコいいと思ってたフランチェスカの熱が急速に冷える。
「ご令嬢、こんな所にお一人は危険です。」
「安全な所までお連れいたします。」
さすがのフランチェスカもわかる、コレ着いて行ったら危ないやつだ!
寄らないで、汗臭い、とは言えず、フランチェスカはジリジリと後ろに下がる。
その頃、グレイドは門の警備兵からフランチェスカの情報を聞き出していた。
下級士官の練習場に向かったと聞いて、慌てて向かう。
それは、公爵の使い達も同じだったが、グレイドの走りには追い付かない。
「お前達なにしている!」
突然響いた声に全員が、振り返る。
「隊長!」
隊長と聞いて、フランチェスカも安心する。
きっと話のわかる人に違いない。
「僕はシュテファン・リスキーニ。
第2部隊長の任にあります。」
まるでフランチェスカを値踏みするようにジロジロ見ている。
シュテファンにしてみれば、フランチェスカの美貌にかえって怪しい女と思っている。
ドレスの豪華さといい、美貌といい、こんな下級士官の練習を見に来るようには思えない。
ましてや初めて見る顔である。王宮に登城する令嬢で見かけた事はない。
突き刺さるような視線にいたたまれなくなって、脱兎が如くフランチェスカは逃げ出したが、運動は苦手の部類。直ぐに士官達に囲まれた。
「いや、グレイド。」
フランチェスカの口から王太子と同じ名前がでて、シュテファンは身構える。
だが、直ぐに追い着かれる程の体力のなさに間者では無さそうだと思う。
びくびくした様は思わず庇護欲が沸いてくる。
睨んでいるようだが、大きな瞳は迫力がない。
名を呼んだ男に会いに来て道に迷ったのだろう、と推測した。
「ご令嬢、怖がらないで欲しい。
グレイドという者に会いに来たのか?
ご案内しよう、ご令嬢の名を伺ってよいか?」
シュテファンが紳士らしい対応をした事で、フランチェスカの警戒も緩む。
そうなると、フランチェスカにも余裕が出て来たようだ。
フランチェスカは頭はいい方だ、物覚えも言い。
ただ、とんでもなく箱入り娘な事と、世間知らずなだけなのだ。
「リスキーニ様、申し訳ありません。慣れない王宮で道に迷ってしまい、ここにいたのです。
父やグレイドには連絡をしてあるので、探していると思うのです。」
なるほど、父親が王宮に出仕しているのだな、とシュテファンは思う。
「私はフランチェスカ・サ」
「フラン!」
フランチェスカの前にグレイドが駆けこんできた。
「グレイド!」
フランチェスカを隠すようにグレイドがシュテファンに対峙する。
「シュテファン、フランに何をしている。」
部隊長の中でも年若いシュテファンをグレイドは当然知っている。
王太子の固い表情にシュテファンも士官達も緊張を走らす。
グレイドの服の裾を握ってフランチェスカが緊張を緩めさせる。
「グレイド、ごめんなさい。
王宮に慣れてなくて迷ったの。」
決して警備兵が中に入れてくれなかったとは言わない。
不審人物を入れないのは彼らの仕事だからだ。
「殿下、こちらの令嬢は?」
シュテファンがグレイドに聞いてくる。
「サンレオ公爵令嬢フランチェスカだ。
私の婚約者である。」
シュテファンも士官達も驚くばかりだ、奇声をあげている者さえいる。
グレイド、汗まみれ。きっとずいぶん探してくれたんだわ。
フランチェスカはグレイドを見ながら思う。
嬉しくないはずがない。
乱れた髪形は、やはりあの騎士様だとさらに確信する。
士官達は汗臭かったけど、グレイドは臭くない。
好きな人の匂いは臭くない、いつか興味を失ったら臭くなるのが女の心理だが、今のフランチェスカにはわからない。
「探してくれてありがとう。」
グレイドの服の裾を握りしめて言うフランチェスカは可愛い。