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グレイド、手を繋ぐ

公爵夫人が気を利かせたのか、フランチェスカに言った。

「殿下に庭をお見せしたらどうかしら、フラン。

今はバラが見事に咲いていてよ。」

その言葉でエスコートの件でとがっていた空気が緩んだ。


「ええ、お母様。」

そう言ってフランチェスカが、グレイドを誘い庭に出る。

二人で庭に出ると夕日も沈みかけて、バラは赤みの光を浴びて美しく咲いていた。


「先ほど、フランと呼ばれていたが私も呼んでいいだろうか?」

フランチェスカはニッコリ微笑んで、

「もちろんです。殿下。」

「フラン、殿下ではなく、グレイドと呼んでおくれ。」

ボッと音がしそうなぐらいフランチェスカが真っ赤になる。

「グ、グレイド様。」

「私達の間に様はいらないよ。」

「グ、グ、グレイド。」

フランチェスカの緊張にグレイドもつられてくる。


「フラン、手を繋いでいいだろうか?」

真っ赤な顔のまま頷くフランチェスカの可愛さにグレイドは止めを刺された。

グレイドが手を差し出そうとしても、自分の身体ではないように身体が硬い。

こんなに緊張するのも初めてである。

ギクシャクと出した手がフランチェスカの指に触れた途端、電流が身体に走る。

あ、と小さくフランチェスカの声がグレイドの耳に響く。

グレイドの理性は風前の灯であるが、いかんせん身体が硬い。

恐る恐る、フランチェスカの手を取ると自分の手で包み込む。

力を入れたら壊れそうに思えて、グレイドはフランチェスカを見る。

フランチェスカもグレイドを見ていた、お互いが見つめ合って言葉も出ない。


手に汗もでてきた気がする。

「フランの手は柔らかくって、壊してしまいそうだ。」

ふふふ、とフランチェスカが笑う。

グレイドの中では、フランチェスカは女性の観念を変えてしまった。

あり得ないが砂糖菓子の如く、壊れやすいものになっている。

いつまでも、そう思っていれば、どのカップルもケンカしない。


「グレイド、でもダンスの時はしっかり握って。」

ははは、とグレイドも笑いながら、

「壊さないように握るよ。」

グレイドの視線は吸い付けられるように、フランチェスカの唇にいく。

柔らかくって、プルプルに見える。

グレイドの理性が崩壊していく音がするが、ここで()いて嫌われたくない、と必死に理性が押さえる。


今はダメだ、結婚の許可を貰ったばかりだ。

グレイドは自分の中で自問自答する。

いつだったら、いいのだ。

私にフランが慣れた頃だ。

それはいつだ。

3日後だ!


グレイドは舞い上がって忘れていた。

自分達は婚約者とはいえ、半年以上も会わない時もあったのだ。

自分とフランチェスカは会う用事がない、というとこを。


夢みるグレイドより、フランチェスカの方が現実的であったらしい。

「グレイド。」

「なんだい?フラン。」

「次はデビュタントまでお会い出来ないの?」

グレイドの頭に巨大な石が落ちてきた、やっと現実にもどったのだ。

毎日会いたい、デビュタントは1ヶ月も先だ。

グレイドも仕事があり、毎日公爵邸に来るのは無理だ。今日も仕事を早めに切り上げたので、明日はその分のツケがくるだろう。


「フランに毎日会いたい。」

グレイドのフランと繋ぐ手に力が入る。

消え入りそうな声でフランチェスカが言う。

「私も。」

抱きしめたら、ダメだろうか。

グレイドがそんな事を思っていると、フランチェスカが諦めたように言う。

「グレイドはお忙しいから。」

ああ、過去の自分のしてきた事が()ね返ってくる。

忙しいと言って、婚約者を放置してきたのはグレイドだ。

「忙しくとも、なんとかする。

ダンスの練習をフランとしたい。」

我ながら、いいことを思い付いたと思うグレイド。

「フランは王宮に来れる?」

コクンとフランチェスカが頷いた事で話はすすんでいく。

「時間はこの時間でどうだろう。

仕事が長引くと待ってもらわないといけないが、私の部屋で待ってくれる?」

頷いてくれると思ったフランチェスカの返事がない、考えているようだ。

どこが、いけない?

待つことか、私の部屋か?


「夕方から出かけるのは、お父様がお許しにならないわ。」

今までフランチェスカは夜は出掛けていない、ということだ。公爵いい育て方をしたぞ、だから、フランはこんなに可愛いいのだ、とグレイドは感動している。

昨日の家出も昼だった、夜だったら間に合わず大変な事になっていたろう。


「公爵には、私から許可を取るよ。

夜はうちの馬車で送るから。」

いや、自分で馬に乗せて送ろう。

フランチェスカの腰を抱き馬の背に乗るのと、フランチェスカと二人で馬車の個室、どちらも捨てがたい魅力であるとグレイドは想像をふくらます。

グレイドがゆっくりと握った手の指を(から)めると、フランチェスカはビクンとするが嫌がっている素振りはない。

フランチェスカの唇が潤んでいる、グレイドには誘っているようにしか見えない。

3日後ではなく今でいいだろう、と思い気が付く、誰かの足音が近づいてきている。


「王太子殿下、お嬢様、そろそろ中にお戻りくださいと、公爵様がおっしゃってます。」

侍女の言葉に、チッと心の中で舌打ちをしてグレイドが答える。

「わかった。私も公爵に話があるので、公爵は応接室ですか?」

二人手を繋いだまま室内に向かう。



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