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グレイド、デビュタントでエスコートしたい

「お父様が?

応接室でお呼びなのね?

今日はお帰りが早いのね。」

まだ夕方にもなっていない、王宮から近いとはいえ、どうしたのだろう。

フランチェスカは、侍女から公爵が応接室で呼んでいる事を告げられた。


侍女に連れられて応接室に行くと、そこには両親と王太子がいた。

ソファーから立ちあがる王太子は、やはり昨日の騎士だと確信する。

フランチェスカはとうとう婚約解消かと、真っ青になる。

フランチェスカの顔色が悪くなるのを見て、真っ青になるのはグレイドだ。

お互い嫌われたと思っている。


二人で見つめ合っていたが、言葉を発したのはグレイドだ。

「フランチェスカは。」

自分は振られるのかと、覚悟しながら言葉をつなぐ。それでも、諦められないのだ。

振られても婚約を通したい、彼女としか結婚したくない。

戦争を宣言する時は、こんな気持ちになるのか、とさえ思う。

「フランチェスカは、私がお嫌いか?」

目を見開いたフランチェスカが首を横に振る。

否定されたことで、グレイドの心臓が()ねる。嫌われていない、嬉しさが込み上げてくる。


グレイドにとって、女性は向こうから近寄ってきたし、適当に問題にならないように遊ぶものだった。

自分から告白するのは初めてだ、女性を好きになるのが初めてなのだ。

ドキンドキンと自分で自分の心臓の音がわかる、そしてフランチェスカの心臓の音も聞こえる気がする。

見る間にフランチェスカが真っ赤になったからだ。


「サンレオ公爵令嬢フランチェスカ、どうか私グレイド・ダルメニアの妻になって欲しい。」

「殿下?」

「婚約は両家で決めたもの。

だが、私がフランチェスカと結婚したいと思っているのを知って欲しい。」

ブンブンと力いっぱいフランチェスカが首を縦に振る。しかも、泣き出した。

「フランチェスカ?」

「あの、嬉しくって。

きっと婚約解消されると思っていたから。」

涙を流しながらフランチェスカがグレイドに微笑む。

ゴックンと生唾を飲み込んだのはグレイドだ、

心臓が止まるかと思った。フランチェスカから目が放せない。グレイドの目にはフランチェスカの笑顔の周りに花が飛んでいるように見える。

「殿下の妻に成ります。」

答えるフランチェスカの声は震えている。

自分達は相愛になったのだ、沸き上がる喜びを隠せない。

元々の婚約者とはいえ、恋愛結婚になったのだ、王家の結婚としては珍しい。


「デビュタントでは私にエスコートさせて欲しい。」

グレイドの言葉にフランチェスカが、あ、と戸惑(とまど)う。

下を、向き躊躇(ためら)いながら言葉を探す。

「殿下はお忙しいとお聞きしていたので、」

続く言葉をグレイドは言わせない。

「従来、デビュタントの令嬢と全てダンスをするのが王太子の仕事だから、そんな事を言った。

あの時は、フランチェスカをよく知らなかった私を許して欲しい。」

フランチェスカは(うつむ)いたままで聞いている。

「今回はフランチェスカがデビュタントするんだ。

もう、そんな事はしない。

私のダンスの相手はフランチェスカだけだ。

そして、フランチェスカの相手も私だけだ。」

グレイドは自分がデビュタントの令嬢とダンスをしている間に、フランチェスカが他の男に誘われるかと心配でならない。

フランチェスカは顔をあげたが、その顔は不安を隠せない。

「もう、エスコートを頼んだ方がいますし、殿下はデビュタントの令嬢がエスコートの男性とファーストダンスをしたあと、順番にその年デビュタントの令嬢と踊るのが習わしと聞いてます。」

フランチェスカのファーストダンスを他の男に取られるなんて、グレイドにとっては嫉妬(しっと)でどうにかなりそうだ。


「私とフランチェスカの婚約は正式なものです。

私が婚約者と踊るのに問題はありません。

ファーストダンスも次も次も、私はフランチェスカと踊るのですから他の令嬢とは踊りませんよ。」

フランチェスカを見つめるグレイドは過去に言った言葉を、取り消そうと必死である。

今日にでも、父である国王に言って今年のデビュタントの相手は辞退しようと心に誓う。

そこまで静観していた公爵が口を出してきた。

「困りましたね。

相手には無理を言ってお願いしたのです。」

そんなはずなかろう、このフランチェスカならどんな男でも喜ぶさ。王太子から奪ってやろうと思っているに違いない、とグレイドは思う。


「ドレスはもう届いているのか?」

グレイドの問いかけに答えたのは公爵だ。

「まだ届いてはいませんが、既に仕立てに入ってます。」

「それは止めるように手配しよう、代金もこちらで払う。

相手には私から、礼状をだしておく。

私の代役をさせようとしたのだから。」

直ぐにフランチェスカのドレスを仕立てなければならない、アクセサリーは母上に相談しようとグレイドは算段しながら、相手を誰かと聞いてみる。

「フランチェスカはその彼に会ったことがあるのか?」

「お会いした事はないのですが、何度もお花を頂いてました。」

何だって!

花は私が毎日贈る、と決意するグレイド。

しかも相手を聞けば、マーレン侯爵家の次男アザレフ。

一人娘の婿にピッタリの男である、年もフランチェスカより一つ上だ。

デビュタントが終えるまでは夜の社交には出れない。昼の茶会もフランチェスカは出席していないはずだ。

だが、公爵と夫人を見れば娘が美人だと想像つくはずだ。

王配を狙っている一人であろう、エスコートだけで済ますはずがない。

もっと以前から自分がフランチェスカの側にいれば、後悔しても時間はもどらない。

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