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グレイド、逃げる

夜明け前の寝室に人の気配、グレイドは目が覚めたが寝たふりを続ける。

緊張が高まり、枕の下に置いてある短剣にそっと手をかける。

こっそり近づく足音に違和感を感じた。

足音の消し方が下手くそなのだ。

「グレイド。」

その声に飛び起きた、フランチェスカだ。

「どうして!」

こんな時間にとか、何故とか、どうやってとか色々な事柄が頭の中に沸き起こった。

しかも、本人はあくびをしている。


「デートしよ。」

突然過ぎて返事が遅れる。

まだ夜明け前だ、どうしてこうなっている?

訳もわからず、グレイドは服を着る。

「どうやって王宮まで来た?」

イタズラな表情でフランチェスカが答える。

「昨日のうちに馬車を手配していたのよ。」

「協力者がいないと出来ないだろう?」

「お母様よ。

この部屋の扉は警護兵に、夜這いに来たって言って入れてもらったわ。」

夜這いで入れるな、と言いたいが婚約者の公爵令嬢なら仕方ないだろう。

フランチェスカの夜這い発言は王宮に知れわたるだろうな、と察しがつく。

デートはいいが、本当の夜這いならもっと良かったのに、と思うグレイド。


「グレイドの馬で行こうね。」

動詞しかない、主語はグレイドとフランチェスカが、だろう。

いったいどこに行くのか、何故こんなに朝早くなのか。

(うまや)はどこ?」

フランチェスカの計画性がないのがよくわかる。

「馬でどこに行きたいんだ?」

よくぞ聞いてくれました、と瞳を輝かせてフランチェスカが答える。

朝陽(あさひ)が昇る時に街の鐘楼(しょうろう)からだと、街が綺麗に見えるんですって!」

どこから考えても、夜明け前は鐘楼の入り口は閉まっているだろう。

「ばれないように忍び込むのがカップルの習わしだって、教えてもらったの。」

そんなこと聞いた事ないぞ。

ほらほら急いで、と厩の場所を知らないフランチェスカが手をひく。

「フラン、こっちだ。」

あ、という顔したフランチェスカ、場所を知らないのに先頭を行こうとする。

こうやって、街で会った時も道に迷ったんだな、と想像できる。


外に出ると夜明け前は気温が低い、ブルッとフランチェスカがふるえた。

馬にフランチェスカを乗せ、後ろにグレイドが乗る。

グレイドの外套(がいとう)で抱き寄せたフランチェスカごと包む。

「暖かい、グレイドありがとう。」

来る時も寒かったろうに、馬車に上着を置いて来たんだろう。

外套に包まれてグレイドとフランチェスカの体温が混ざる。

このままずっと続けばいいのに、と思うが街の鐘楼にはすぐに着いた。


馬を鐘楼の側に繋いでフランチェスカに外套を着せると、グレイドは入り口を探した。

入口の門は鍵をかけられていたが、よじ登れそうだった。

よじ登って中に入ると内側から鍵を開け、フランチェスカを招き入れる。

二人で最上階まで階段を登り、辿(たど)り着いた時には陽が昇りかけていた。

鐘の下、柱にもたれて二人で朝陽を待つ。

フランチェスカが外套を広げてグレイドと一緒に(くる)まる。


陽が昇ると街の端から輝くように色づいていく。

「綺麗ね。」

「ああ。」

そう言えば、国も街も数字で追うばかりで景色と思いもしなかったな。

税収が増えたとか、貿易が順調だとか、豊作で流通量が増えたとかばかりだった。

「この街も、陽が昇る港までもグレイドが治めるのね。」

そうだな、数字だけじゃない、街も港も農地も国全てが生きている。

数字を増やす事ばかりを優先しちゃいけないんだ。

ほんのりフランチェスカの香りが漂う。

「毎日、仕事で忙しいのに、睡眠を削ってごめんね。

グレイドと一緒に見たかったの。」

フランチェスカがグレイドにもたれかかっている。

「私もフランと一緒に見れてよかったよ。」

フランチェスカはグレイドの知らない事を教えてくれる、忘れていた事を思い出させてくれる。


街が起き始めた、あちらこちらから音がする。

「街が元気だと、国が元気なのね。」

フランチェスカの言葉に国の基本は人間だと思い知らされる。

街中に陽が当たりだすと温かくなってきた、王宮では感じる事のない風景。

市場の準備が始まるのだろう、荷車に荷を積んだ人々が集まりだした。

「しまった、馬がいると此処(ここ)に居るのがばれる。」

二人で階段を駆け降りる。

「フラン、急いでも足元をよく見るんだぞ、階段を踏み外すと危ない。」

「わかった。」

階段に響く足音に人々も気づいたようだ。

「誰かいるのか?」

さほど遠くない所から声が聞こえる、急いで階段を降りると門を閉める。

集まって来た人々から逃げるように、馬に飛びのると駆けだした。

「誰だ!」

叫ぶ声が遠くなって行く。


グレイドとフランチェスカが顔を合わせて笑い出す。

「冒険をしたわ!」

「私以外と冒険するんじゃないぞ。」

「了解しました。」

フランチェスカの返事は調子がいい。

まさか王太子と公爵令嬢が鐘楼に忍び込んでたなどと、誰が思うだろう。

グレイドも興奮を隠せない、騎馬をサンレオ公爵邸に向かわせる。

「上手く逃げれたな。」

グレイドは相棒のフランチェスカに(ささや)くと、楽しそうにフランチェスカが笑う。


グレイドはフランチェスカを公爵邸まで送ると執務の時間に間に合うように王宮に向かった。




フランチェスカがお茶会で鐘楼からの(なが)めを力説したことと、王宮の門兵達の公爵令嬢は夜明け前に来たが直ぐに王太子と出て行ったという証言により、夜這い説はなくなり鐘楼の人気がでた。

夜明け前から人が集まると、商人達が現れ街を(うるお)すことになった。


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