グレイド、招待される
フランチェスカが公爵に連れられて帰った後、グレイドは仕事に追われていた。
今日こそは公爵邸に行きたいが、フランチェスカの突撃で時間を大幅に費やした。
今日もサンレオ公爵邸に行けないだろう、またフランチェスカが来ないかな、とさえ思う。
助けに行った時のフランチェスカの可愛さといったら、思い出すだけでも血圧が上がりそうだ。
グレイドにしがみついて、震えていた指先。
自分が身体を鍛えたのはこの為にあったのだとさえ思う。
その後の部屋でのキス。
甘くて、柔らかい。
思い出してはダメだ。仕事が進まない。
またキスするために、早く仕事を終わらすのだ。
鼻先に人参をぶら下げられた馬の如く、グレイドは褒美のために仕事のスピードがあがる。
噂を聞いている執政官達の興味深げな視線も気にする事なく、グレイドは書類をめくる手を休めない。
そして、3日目にしてやっとサンレオ公爵邸に来れたグレイドである。
夜の静けさの中で二人でダンスの練習を始める。
先ずはフランチェスカにキス。
仕事を頑張った褒美をもらう。
ダンスの間もキス。
体力のないフランチェスカが付いていけるはずもなく、早々に休憩である。
ダンスに関してはフランチェスカは練習の必要がない、グレイドもとても踊りやすいと感心した。
ただ、体力がないので、続けて3曲は難しいとグレイドは考え、3曲目は自分が抱き抱えて踊ろうと思った。
「散歩の時間を伸ばして体力を着けます!」
ぐったりとなった身体をグレイドに預けてフランチェスカが言う。
グレイドにしてみれば、このシチュエーションも気に入っている。健康のために多少の体力もいるが、なくてもかまわない。
小さく息をハフハフしながら、グレイドに頼りきったフランチェスカは可愛い、このままポケットに入れて帰りたいとさえ思う。
グレイドは昼間届いた手紙出した。
「グレイド、これは?」
聞くフランチェスカも封蝋で誰からか解ったようだ。
ダルメニア王太子グレイド宛に、エメレン国王からの手紙だ。
フランチェスカの手紙では、相手が誰か解らなかっただろうが、調べたにしては早すぎる。間者が入っているということだろう。
今さらだ、お互いに間者を潜入させている。
「エメレン国王からの招待状だ。」
早々に出向くことにしているが、その為に仕事を片付けねばなるまい。
暫く公爵邸に来れないことが、無念である。
「私も一緒に行くわ。」
フランチェスカが当然のようにグレイドに腕を回して言う。
「一緒の馬車で。」
少数の護衛だけ連れ、馬で駆けて行こうと思っていたグレイドは予定変更である。
時間短縮と優先していたが、フランチェスカが一緒となると別の楽しみがでてくる。
揺れる馬車の中では、フランチェスカを膝に座らして、たまにはあんなコトや、こんなコトとか思いが先走る。
「あー、グレイド、変な事考えているでしょ。」
フランチェスカが顔を覗きこんできて、腕を軽く叩いてくる。
「お父様にばれないようにね。」
ふふふ、とフランチェスカも笑う。
二人で顔を見合わせ、そうだね、と共犯者になる。
「早く、一緒に暮らしたい。」
またフランチェスカに先を越されて言われてしまった。
エメレン国王と日程のやり取りをしたが、フランチェスカのデビュタントが迫っていることもあり、グレイドのエメレン王国訪問は叶うことがなかった。
代わりにエメレン国王が、フランチェスカのデビュタントに来ることとなり、王宮はにわかに忙しくなった。
グレイドの馬車の中で楽しいあんなコトはお預けとなった。
コンコンとグレイドは王妃の部屋の扉をノックした。
呼び出しがあったので、執務の合間に訪ねてきたのだ。
「待ってました、こちらへ。」
グレイドの目の前にいるのは、いつまでも若く美しい母。
どうして、父はこの母がいるのに愛人を作るのかとさえ思う。
「これを、フランチェスカ姫に。」
差し出されたのは豪華な宝飾類である。
「姫のドレスは貴方が贈るのでしょ?
それに合う物を選びなさい。
私が国から持ってきた物です。」
母の国は遠い地にあるが、金山と銅山があり、我が国も輸入をしている豊かな国である。
母の気遣いが、嬉しい。
「サンレオ公爵夫人とも話していたのだけど、デビュタント後、フランチェスカ姫の御披露目のお茶会をします。」
これは?とネックレスを手に取りながら王妃がグレイドに言う。
「グレイド。」
「はい。」
「どうか、姫を大事にしてあげて。」
決められた婚約者、母と公爵夫人は対極にある。
共に大国の王女として生まれ、この国に嫁いできた。
父は幾多の愛人を囲い、父の弟の公爵は夫人一人だ。
「私は生涯、フランチェスカ一人と決めています。」
グレイドの言葉を聞く王妃が嬉しそうに微笑んだ。