嵐の中で五分だけ。
悲しいことがあって、闇雲に走り回り疲れ果て、草たちが潰れて服に泥がつくのも忘れて寝転んでいたら、いつのまにか眠ってしまっていた。目覚まし時計のベルのように身を震わせるのを合図に目が覚める。公園の芝生から起き上がると、小さな嵐がやってきているのが分かった。雲はいじけたみたい黒くなり、風がざあざあと呻きながら草を揺さぶる。どんな悲しいことがあったのかは、絵の具が落ちるみたいに確かに跡を残したようだけど、よく思い出せない。私の灰色のカーディガンが風に盗られそうになる。だが、そうはさせない。お気に入りをやすやすとやるわけにはいかない。こんな天気の機嫌の悪くなった日には、家の中に閉じこもってベッドに潜り込みたい。そんなことを考えていると、嵐のほうが足を早めて追いかけてくる。逃さないつもりか。まあ、いいだろう。私がよくしてもらうように、少しは天気にかまってあげることにした。五分だけ。五分だけこの嵐の中にいてあげよう。ビー玉みたいな雨が降ってもここから動かない。傘なんか持っちゃいないけど、温かいお風呂に入ればいいだけの話だ。そのうち空がザアアア、と泣き出す。私は、大丈夫だよ、と言うように空を見上げる。目に雨が入り、私まで泣いているみたいになっていく。悲しい悲しい嵐の天気。彼(あるいは彼女)は道連れを求めて空を彷徨う。私はそのまま嵐の中。二人だけの孤独な五分が、初めて聴く外国の音楽みたいに流れていく。