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転生、姿

息抜き

 青年はかつて無いほど戸惑っていた。

 胡散臭い自称神のおっさんと話をしていたはずなのに。今はなぜか森の中で、目線の高さと背中の感触から、木にもたれかかって座っているようだ。

 だが、戸惑ってばかりもいられない。知らぬ森の中で何もしなければ死んでまう。

 そうして青年は立ち上がろうどするが、体に上手く力が入らない。まるで自分の体じゃ無いみたいだ。それを不思議に思い視線を自分の体に向けてみると、その体はボロボロで、服もズタズタに引き裂かれたようだった。


「ヴァー。」


 そして、言葉を発してみれば、声も録に出ず、うめき声の様なものしか出てこない。

 青年は自分の身に何が起こってるのかわからず、ついさっきあったおっさんとの会話を思い出す。―――



 ―――お主死んだから。

 いきなり目の前に現れた髪を後ろに流してヒゲの生えたおっさんに言われた今岡淳司(いまおかあつし)

 そしてそのおっさんを残念な物を見るような目で見つめる淳司。


「そんな目で見るでない。事実を伝えたまでじゃ。」


 そう言いながらお茶をすするおっさん。どこからどう見てもただのおっさん。和風な一軒家でちゃぶ台の上にせん餅があるところを見ると生粋のジャパニーズだ。


「ジャパニーズではないわい。儂はお主らの世界の神様じゃ。」


 あ、これはダメだ。

 こんなおっさん近所にいたら絶対近寄っちゃいけないって言われる類のやつだ。そう淳司が思ったとき。


「誰が近寄っちゃいけない類のやつじゃ。失礼にも程があるぞ。」


 淳司の心が跳ね上がる。声は出していなかったはずなのに、こちらの考えを口にしたのだ。


「だからいったじゃろう?儂は神じゃと。」


 そう言って湯呑を置き、せん餅を齧り出すおっさん。

 その姿は堂に入っており、よく見れば神秘的な何かが―――見えなかった。どう見てもおっさんだ。


「・・・まあ良いわい。お主をここに呼んだのは理由があるのじゃ。」


 そう言ってせん餅を食べながら話し始めるおっさん。品性の欠片もない。

 曰く、別の世界の神様に人を寄越してくれと言われた。

 曰く、その人物は適応力のある人間が望ましい。が、無くてもいい。

 曰く、最悪賢くなくともいい。

 と理由を述べていったおっさん。賢くないのは認めるが、こんなデコハゲのおっさんにそんことを言われたくはなかった。髭がデコに生えてりゃ良かったのにな。


「誰がデコハゲじゃ!お主の生き死には儂の意のままなのじゃぞ?」


 そう言って笑みを浮かべるおっさん。俺もう死んでるって言ったのおっさんなのに何言ってんだ。とため息をつく。


「ぐっ・・・。余計な知恵ばかりつけおって・・・。」

 ―日本人ですから。そんなことより別の世界?―

「そうじゃ。お主は死に、魂だけこちらに呼ばせてもらった。本来ならせぬことじゃが、別世界の神の打診もあったからの。お主に行ってもらおうと思っての。」

 ―なんで俺?―

「大した理由はない。タイミングよく呼べたのがお主だっただけじゃ。」


 再び茶をすすり、悪びれることもなくそう告げるおっさん。文句を言おうとしたが、結局のところ自分に取れる選択肢などないことに気づいた淳司はそれを諦める。


「良い判断じゃ。お主に選択肢は無い。従ってもらうだけじゃ。」

 ―わかったよ。そこに行って俺は何をするんだ?―

「何かしても良いし、何もしなくも良い。儂は人を寄越してくれと言われただけじゃ。」

 ―・・・適当すぎるだろ。まぁ使命が無いのは気楽かもな。―

「そうじゃろ。おお、言い忘れておったが、向こうの世界では魔法や魔物といった、所謂ファンタジーの世界での?ある程度の危険付きまとう、と言うか死と隣り合わせじゃな。」

 ―魔法が使えると聞いてテンション上がりかけたのになー。―

「そうそう都合が良いことばかり起こらんわ。じゃが選別じゃ。お主に一つ魔法を与えてやろう。」

 ―じゃあ回復魔法で。―


 淳司は自分が死んだ理由を思い出していた。ここに来た当初は頭にモヤがかかったような状態っだったが、今では大分スッキリしている。

 バイクに轢かれて頭の打ちどころが悪かったのか、血がドクドクと流れていき、意識ははっきりしていたはずなのに体は動かず、自分が死ぬことをはっきり感じ取れたあの感覚。

 あれだけは二度と味わいたくない。なので淳司の返答は早いものだった。彼が死ぬ直前に考えていたことが、もし不思議な力で傷がすぐ直せるなら、自分は死なないんじゃなかろうか。と。

 当然そんな不思議な力はなかったため死んでしまったが、別の世界で魔法が使えるなら迷うことはない。自分が死なないための力があるのは心強い。


「ふむ。相分かった。ならばお主に聖属性の適性を授けよう。お主の努力次第では強力な力になることだろう。」

 ―最初から最強にしてくれないのかよ?―

「それはつまら・・・。努力を忘れた人間など人間と呼べぬじゃろう?」

 ―このデコ親父、つまらんって言いかけたな。―

「時間じゃ。逝ってこい。」

 ―え?嘘?ちょっとま・・・!―


 そして淳史の意識は途切れていく。そして淳史を送り届けたあと自称神は一人茶をすすりあることを思い出す。


「そういえば、人間になれるとは限らんと言い忘れておったのう。まぁ良いじゃろ。あんな不躾なものにはちょうど良い。」


 器がちっせえよ、デコハゲ神(笑)親父!と淳史がいれば言ったかもしれないが、おっさんがその言葉を発した時には、その場に淳史の意識は既になかった。


 ―――


「(ああ、そうか。あのデコハゲに飛ばされたのか。ならここは異世界ってことか・・・?)」


 それにしても、と淳司は思う。どうせい世界に飛ばすならこんな森の中ではなく、人気のある場所に飛ばしてくれよ。と。

 それにこんな森の中じゃ、異世界かどうかすらわからない。富士の樹海と言われても信じ込んだだろう。富士の樹海がどんなものかは知らないが。


「(なんにせよ早く体を動かさないと。このままじゃ飢え死にだ。)」


 そしてもがく事数分、やっと、全身に力が入り始めた。そして木に手をかけゆっくりと立ち上がりその達成感から声を出す。


「ヴァー!」


 声は戻ってはいなかった。さっきよりは心なしか元気な声だったが、その単語が意味をなしたものにはならなかった。

 だが、声が戻ってなくともとにかく人のいる場所を目指すべきと、森の中を覚束無い足で歩き始める。

 普通なら遭難したなら、その場を下手に動くべきではない。と聞いたことはあるが、それは自分を捜索してくれる誰かがいる時だ。自分が本当に異世界にいるのなら、淳史がここにいることを知る者はいない。なら、危険があっても自分の足で歩き回る以外に方法は無い。

 そうして歩くこと数分。やっと体に慣れ始め、歩くことに苦痛を感じなくなった頃、淳司はここがい世界であることに気づく。

 子どものような体躯。緑色の皮膚。つり上がった目に尖った耳。それが三匹で何かの死骸の肉を食べているところを目撃したからだ。

 その様子に吐き気を催す。―――ことはなく。気持ちは悪いが体に異変が訪れることは無かった。

 そのことに疑問を覚えることもなく、淳司の思考は別のことに囚われていた。


「(なんだ、こいつら!?動物・・・か?もしかしてこれがあのハゲが言ってた魔物ってやつか!?)」


 見る者が見れば、それがゴブリンであることに気づいたかもしれない。しかし淳司は人並みにゲームをすることはあっても没頭するほどではないため、それがゴブリンであることに気づかない。

 そんなことよりも、淳司はその様子に身の危険を感じる。どう見ても友好な関係を築けそうな相手では無い。淳司はその場から離れるため、ゆっくりと後ずさる。

 しかし、一匹のゴブリンが鼻をすんすんと鳴らし、淳史の方に視線をける。


「ギィ!ギィヤッ!」


 そして一匹のゴブリンが声を上げると釣られて残りの二匹のゴブリンも淳司の方を向き、声を上げる。

 それを最後まで確認することもなく淳司は反転して走り出す。それをゴブリン達も追いかけるが、淳司の方が足が速いのか、その距離はぐんぐんと離れていく。


「ヴァー!ヴァーヴァア!!」


 よし!逃げ切れる!!と淳司は言ったつもりなのだが、未だ声は単語を意味しておらず、うめき声を元気よく喋ることしかできない。

 ゴブリン達から逃げ切り淳司はある湖畔へたどり着き。荒げる息を整える―――ことはない。

 あれだけ全力疾走したにも関わらず、淳司は息切れ一つ起こしていなかった。

 流石に淳司も自分の体に違和感を覚えた。


「(なんか俺の体おかしくね?声は上げられないし、全力で走ったのに息切れひとつ起こさない。気持ち悪い光景見たのに、吐き気も感じなかったしな・・・。)」


 そして、淳司は湖畔の水辺に近寄っていき水面を覗き込む。そして直ぐ様飛び退る。

 嘘だ。ありえない。そんなわけ無い。そんな言葉が淳司の脳内を駆け巡る。

 なんとか落ち着きを取り戻し再び水面を覗き込み、今度はしっかり確かめるために、自分の顔を両手でペタペタと触る。水面に映る淳司の姿は、自分の意志と同じように両手で顔をペタペタ触っていた。

 それはつまり、それが自分であることを示していた。

 そして、


「ヴァーーーーーーーッッッッ!!!!???」


 森の中に淳司の悲鳴が響き渡る。

 その姿は顔のいたるところが腐っており、淳司の知識が正しければ《ゾンビ》と呼ぶべき姿をしていた。


 しばらく凹んだ後、淳司はこのままではいけないと思考を切り替える。が浮かんでくるのは悲壮な考えばかりだった。


「(ゾンビってことはとりあえず死なないのか?いや、美味しいご飯が食べられないとか眠らないとか女の子見ても何も感じない、とかになっちまうのか?冗談じゃないぞ!?それに人に出会っても、人に見られないどころか、討伐されちまうんじゃ・・・?)」


 三大欲求の危機と自分の命の危機だった。既に死んでいるのだが。

 死にたくないからと回復魔法を神(笑)にもらったはずなのに、既に死んでいるとか余りにも面白くない状態だった。


「(あのハゲ、今度出会ったら噛み付いてやる。神(笑)ゾンビにしてやる・・・!)」


 あまりに悲惨な状況に、淳司は現実逃避を始める。悶々と考えること数分淳司は現実を見つめ始める。


「(全部が全部決まったわけじゃない。ご飯も必要かもだし、睡眠も必要になるかもしれないし、性欲だって・・・。ッハ!)」


 慌てて淳司は自分の下半身を弄る。そしてそこにはきちんと自分がいた。腐ってはいたが。


「(嘘・・・だろ?いや待て。こんな時の回復魔法だろ!回復さえさせちまえば・・・!)」


 そして淳司は、回復魔法を試みようとする。すると頭の中に呪文のような言葉が浮かんでたので、自分の直感を信じ、その呪文を口にしようとする。


「ヴァーヴァヴァーーァ。・・・。」


 うめき声しか上がらない。こんなことならハゲの神を殺せる魔法を貰うべきだった。と益体のないことを考える。だがそうも言ってられないので、淳司は淳司に向かって手をかざし心の中でその呪文を唱える。


「(聖なる光よ、()()なるものを払い、癒しを与え給え。)」


 すると、成功したのか、淳司の掌から緑がかった光が生まれる。それが淳司に触れたとき悶絶の声を上げる。


「ヴァーーーーーーーッッッッ!!!!???」


 そして淳司は下半身の一部に手を当てながら蹲る。涙が出るなら泣いてるところだった。


「(そんな・・・。俺の息子が不浄だってのか!?)」


 不浄には違いないが、理由は別にある。淳司の使った魔法は『回復(ヒール)』。それは普通の人間に使えば傷を治す魔法なのだが、アンデッドに使えば、その体を浄化することができる。淳司は自分で淳司を浄化しようとしていたのだ。


「ヴァッヴァッヴァ・・・。」


 そして淳司は笑い出す。不浄の存在たるゾンビが笑うなど見る者が見れば恐怖しか生まれないが、幸いここには淳司以外居ない。


「(そうかよ・・・。やってくれるぜハゲ。負けてたまるか。俺は人間だ。決してゾンビなんかじゃない。)」


 淳司は目に不屈の炎を宿す。そしてこれから先のことを考える。


「(まずは、知識を集める。その為に人に会わなきゃな。だが、人のいる場所にはいけない。だったらどうする?来てもらうしかない。来てもらうためには、何かがいる。人が集まる場所が必要だ。)」


 人が集まるだけ淳司は危険なのだが、そんな考え今の淳司にはない。彼は失ったものを取り戻すのに必死だった。


「(そうだ。街だ。街があれば人が集まる。人が集まれば、俺のことを何とかできる知識を持った人が来るかも知れない。それに回復魔法の知識をつければ体を元に戻せるかも知れない。)」


 失ったものを取り戻すために、美味しいご飯を食べるために、夜を快適に眠るために、彼は決断する。


「(街を作る。村でもいい。自分の正体を何とかして隠しながら、知識をかき集めなきゃな。)」


 そして、この世界においてアンデッド最弱の、ゾンビ(あつし)による街作り計画が始まった。


更新速度は不定期。

息抜きだけど、できるだけ読めるものを作っていきたいです。

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