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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

廃園からの遺書

作者: 沖野洋

すぐ読めます!

今夜の夏の涼に、いいかがでしょうか?

近くの方で鳴っているのかとも思えば、遠くの方でも聞こえる蝉の音が、遠近感を狂わせ、どこか夢心地にさせる。


私は、舗装された山道を車で走行している。

かなり放置されている山らしく、葛の葉が車道にまで伸びてきている。


しばらく走っていると、大きな駐車場と、今は回っていない観覧車が見えてきた。

どうやら、目的地までついたようであった。


最盛期には、車だらけであったろう駐車場には、色が剥げ落ちて、鉄サビが丸出しになった廃棄車が、ぽつぽつと点在している。


その駐車場に車を停め、外に出る。

外に出た瞬間に、蝉の音が一段と煩さを増す。

夏の陽が容赦なく照りつける。


駐車場から少し歩くと、「裏野ドリームランド」と書かれた門が見えてくる。

門の上にはカラスが一羽、こちらを見下している。


チケット売り場と思われる場所は、窓口に厳重そうなシャッターが降りていた。

窓口のカウンターの上には蝉の死骸が転がっている。


私は、チケット無しで、少し躊躇いながら歩を進めて行く。


チケットを買わずに門をくぐり、園内に侵入するという行為は、不法侵入だ。

いくら廃園になったとはいえ、まだ壊されずに残っているということは、所有者が存在するということ。

これでは、普通に、犯罪である。


では、私は、自分で犯罪と理解していながら犯罪を犯した、確信犯であるかというと、それは断じて違う。


私は、そこらの不良でもなく、廃墟マニアでもない。

私は、フリーのライターをしている。

それで、仕事として、裏野ドリームランドの記事の執筆を依頼されたのだ。

なので、この廃園の所有者から、事前に許可を得ているのだ。

ただし、絶対に自己責任で、と。

自己責任。嫌な言葉である。

それから、従業員の事務所であった場所には、絶対に何があっても入ってはいけない、と説明されていた。


この裏野ドリームランドでは、色々な嫌な噂がインターネット上で囁かれている。

地下に拷問部屋があるとか、墓地を埋め立てて作ったために呪われているとか、湖では魚の死骸が非常に頻繁に見られており、何か毒物が廃棄されているのではないかと噂されていたりもする。

中には、子供が行方不明になったという実例まで出ており、未だに、その子供は見つかっていないとされている。

さらに、驚きなのが、その行方不明になった子供の数なのだが、それが分からないというのだ。

つまりは、行方不明になった子供の家族までもが失踪して、行方不明になってしまい、正確な人数が測れないというのだ。


何故、こんなとんでもない廃墟の取材なんか引き受けたかというと、その噂がどこまで本当なのか、私自身調べたかったからだ。


それから、所有者の方で、当時、従業員が使っていた事務所の散策は禁じられている、と前述したが、私はそこにこそ、この裏野ドリームランドの謎を解決する資料が埋まっているに違いないと目星を付けていた。


門をくぐると、そこは広場になっていた。

広場の中央には、水の枯れた噴水があり、その役目を終えた噴水は、ただの石の積み重ねであり、その少し緑に苔むした様は、まるで自然物のようであった。

地面のアスファルトの切れ目からは、背丈の高い雑草がまばらに生えている。

噴水の向こうには、観覧車が見えた。


役目を終えて朽ち果てた観覧車をぼんやりと眺めていると、ふと、この長大な空間には私一人しか存在しないんだ、と想像する。

すると今度は、逆に誰かが潜んでいるのではないか、という懸念が必然的に浮かんできた。

潜んでいる者が、危ない輩であったら危険である。


裏野ドリームランドでは、廃墟マニアの青年二人が危ない輩に(ヤンキーや、不良と思われる)捕まり、金を取られた挙句、「観覧車の天辺まで登らないと殺すぞ」と脅され、廃墟マニアの青年二人は、観覧車の天辺まで登ったが、足を滑らせて死んだという噂まである。


従業員が働いていた事務所へと向かう道なり、前方のメリーゴーランドの薄汚れた馬のガレキに混じって鹿がこちらを見ていた。


鹿は暫くこちらを見た後、遠くへ駆けて行ったが、どうにも足元が覚束ない様子であった。どうしたものか、と鹿の足元を見てみると、鹿の足が一本余分に生えていた。

余分に生えた、5本目の足は、他の足に比べると細く、ただ引きずられるだけの様で、神経が通っていないのか、壊死したのか、その見苦しい姿は、放射能による生物の変異を連想させる。

しかし、まさか、放射性物質が有るはずはない。


暫く歩くと、ミラーハウスなる施設が見えてきた。

一昔前は、綺麗な西洋風な外見であったのだろうが、今は、窓ガラスが全て破壊され、外壁には「田中HOUSE」とセンスの無い、落書きが、赤いスプレーで殴り書かれている。


さらに、ミラーハウスの前には、裏野ドリームランドのマスコットであったウサギのぬいぐるみが山の様に積み上げられていた。

そのウサギのぬいぐるみは、目玉が全てくり抜かれていた。


上空では、カラスが鳴いてる。

カラスは、群れを作り、この廃墟を取り囲むかのように、上空を旋回している。


陽が暮れるとマズイので、先を急ぐと、事務所と思われる建物が見えてきた。


事務所が遊園地内にあると景観を損なうためか、事務所は柵で覆われていた。


事務所の窓という窓には、厳重なシャッターが降りていた。

流石に、侵入を禁止されているだけのことはある。


二階の一室だけシャッターが降りていない場所があったので、用具室からハシゴを持ってきて、二階から侵入することにした。


ハシゴを登り、二階に降り立つと、そこには、異様な空気が充満していた。


建物に入った瞬間、今まで聞こえていた蝉の音がピタリと止んだ。


嫌な静寂が訪れる。

鳥の声すら、蝉の声すら聞こえない、その一種異様な空間に圧倒されてしまい、何も音がしないというこの静寂さに、かえって耳が耐えられない程に敏感になり、その静寂が、煩く感じる。


暫く立ち止まっていると、一階から二階に何者かが昇ってくる。


足音が昇ってくる。


動悸が激しくなる。


事前に用意していたピストルを構える。


ミシ、ミシ、ミシ、ミシ。


その足音はある程度のリズムを保ち、昇ってくる。


ミシ......ミシ。


ミシ、、、。



音が止み、そこに現れたのは、ジェイソンでもなく、醜怪な化け物でもなく、骨格が見えそうな迄にやせ細った黒猫であった。


「ガラン!!」


突如、後ろで、何かが倒壊する音が聞こえた。


振り向いたが遅く、それは二階に掛けてあったハシゴ崩れ落ちる音であった。


帰路が無くなったことに失望していると、今度は先程の黒猫が鳴いた。


黒猫の方へ振り返ると、そこには、包丁を右手に逆手で持ち、黒に身を包んだ小柄な、若い女が、今にも私に襲いかからんばかりに、物凄い眼光で睨みを効かせていた。


私が驚く間も無く、

その女は大口を開けると、奇声を発しながら私に襲いかかってくる。


「バン!」


私は、とっさの出来事に、目をつぶったまま、構えたピストルを発砲した。


目を開けると、そこには骸になった黒猫が転がっていた。


私は、骨が無くなった様に、そこらに倒れ込んだ。


(どういうことだ?幻覚を見ていたのか?それとも、あの女は、この黒猫の化身ということか?)


暫く、意識朦朧としていると、傍に何冊かの雑記帳の様な物が無数に散らばっているのに、気づいた。


そういえば、さっきからたまに、人の悲鳴が聞こえている気がする。

それから、メリーゴーランドか分からないが、何かアトラクションが作動している音も聞こえる気がする。

しかし、なんだか、もう疲れてしまって、いちいち、それらに驚くこともない。


私がここに来た目的。

そう、それは、裏野ドリームランドの呪われた謎を解明すること。


雑記帳には、「従業員報告書」と書かれている。


そこには、こんなことが記されていた。





「従業員報告書1」

裏野ドリームランド 従業員用マニュアル


まず、ここで行われる一切は、世間に口外してはならない。

それから、地下の部屋への立ち入りを禁ずる。

仕事は与えられた物だけこなすこと。

自分が何の為にこの作業をこなしているかは、一切考えないこと。

後の細かいマニュアルは、それぞれ担当の区域のマニュアル本を参考にすること。



(んん?!地下の部屋は実在したのか?ということは、それは拷問部屋なのか?)



遠くでサイレンの音がする。


散らばっている雑記帳の中から、題名の無い、装丁の綺麗なノートが目に付いた。


それを開く。



八月九日


ここに就職して、一ヶ月が経つ。

ここの仕事にも慣れて来た。

しかし、寮に篭りきりの生活は辛い。

なんせ、休みを貰っても、街に繰り出すことすらできない。



(これは、どうらや、従業員の日記の様だな)



八月十四日


どうやら、ここで働く従業員の多くは、自動車免許を取っていない若者らしい。

つまり、俺らは外出不可能ってことらしい。

どうなってんだか、でも給料は高いんだよね。

こんな、山の奥じや、金なんてあっても意味ないんだかね。

つまんねぇ。

これじゃ、監禁と同じじゃねぇかよ。



八月二十九日


帰りたい。

今日、退社するはずだった受付のおばさん、

湖で水死体になって見つかる。

どういうことだよ。

なんか、おかしい。

どうなってんだよ、この空間。

この裏野ドリームランドという、空間の中で、何が行われているんだよ?

そういえば、おばさんが今朝、水死体で発見されたのに、救急車も警察も来てねぇよ!

どうなってんだよ......



九月十日


ついに見ちまった。

俺も殺されるんだろうか?



(......?なにを見たんだ?)




九月二十一日


帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。

帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。

帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。

帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。

帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。

帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。

帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。

帰りたい。帰りたい。帰りたい。帰りたい。



九月


俺は、もうダメだ。

明日、一か八かで脱走する。

今まで、脱走した奴は全員死んだがな。

街に着いたら、連絡を入れる約束なっているのだが、連絡はまだ一回も来ていないところを見ると......

兎に角、俺は脱走する。

誰か、この日記を読んだら、この日記を家族とマスコミに流してくれ、頼む!

今から、この裏野ドリームランドの真実を暴露する。

まず、この裏野ドリームランドは表側はレジャー施設なのだが、裏側というか、真の姿は、とてつもなくスケールのデカい拷問施設だ。

ターゲットを大きく定めるより、富裕層だったりの変態連中、相手に狭くターゲットを絞った方が儲かるらしい。深くは、知らないが。

兎に角だ、地下に拷問部屋が存在しているんだ。

そして、これはあくまで俺の見解だが、実に一ヶ月で十人ほどの子供から大人が誘拐され、拷問の挙句、無残に殺されている。

どうやって誘拐するかだが、ミラーハウスを使っていると思われる。

ミラーハウスには、順路があるのだか、たまに順路とは違う道に逸れてしまう人がいるらしい。実は、その順路とは違う道というのが、誘われし罠なのだ。

そして、その死んだ遺体をどう処理しているかというと、湖に投げ捨てているらしい。

道理で、湖の鯉があんなにデカいのか、合点がつく。中には、鯉に指を食いちぎられた者もいる。

しかし、その遺体を処理する人間だけでおよそ、五十人ほどが雇われているらしく、どうやら、地上で働く人間より、地下で働く人間の方が多いらしい。

俺は、事務所の倉庫の奥で、大量の拷問ビデオを発見してしまった。

どうやら、これを世のマニアたちに売り付けるらしい。

その中身は、身の毛もよだつものだった。

三十人による首吊り自殺や、牢獄に二人で放置された人間による共食い、誘拐した男女との間に生まれた子供を家畜として育て上げたり、、、もうやめよう。

兎に角だ。

こんなのイカれてる!!

イカれてる、イカれてる、イカれてる!

俺はもう人間が恐ろしい。




(なんてことだ?これが本当だとしたら......

そうだ、下の事務所の倉庫に拷問ビデオとやらが、まだあるかもしれない。それなら、証拠になるだろう......)




「はい、暴れなーい」


何者かが私の肩を掴み、後頭部に銃を突きつけている。


「自己責任で、お願いしまーす......」


























完読していただき感謝です!

内容飛ばしで、ここまで来た方にも、感謝です!


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