表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/213

第3章〈侵略への序章〉-1-

「アル神の息子―

 シルク・トトゥ 

 戦いと勇気をつかさどりし神

 かの者 守りし大地に降りし時

 巨大な渦の流転が始まる

 聖なるアル神の慈悲のもと

 その身を隠し

 五つの年を過ぐる

 かの者のもと

 アル神の御加護

 全天にあまねく満ちあふれたり

 かの者のもと

 勝利の光り満ちあふれたり」


 ノストール王国アルティナ城の一室で、カルザキア王はユク・アンナの一族と対面をはたしていた。

「ダーナンとナイアデスで魔道士たちが告げたのは、このようなものです」

 アンナの族長であり大神官のサーザキアは王の正面にひざをつき、低く頭をたれながら低くそう告げた。

 そして、再会以来、堅く口を閉ざしたまま、アンナたち一行に視線を合わせず目を伏せたままの王の返事を、ひたすらじっと待っていた。

 室内には、アンナの一行のほかは、カルザキア王とその側近、そしてテセウス皇太子という限られた者だけが集められていた。

「サーザよ」

 長い沈黙の後、王は口を開いた。

「五年前、そちが告げた〈先読み〉はいまだ無効になってはいないのか? あの子の死は、無意味なことだったのか?」

「王よ」

 サーザキアはゆっくりと頭をあげて、カルザキア王と瞳を合わせた。

「〈先読み〉には、さまざまな道がついてまわるのでございます。時には、その時においては、何の価値も、意味すら見いだせないような〈先読み〉が、後に重大な意味をもつこともございます。もちろん様々な出来事が影響しあい、消滅してしまうものもございます。そして、王よ……われらの五年前の〈先読み〉における出来事は、幼子の生命をもって確かに消滅してございます。」

「ならば……」

「その消滅をもって、新たな来たるべき日が誕生した……と、われらがアンナは感じております」

(新たな……来たるべき日の……誕生…?)

 テセウスは、サーザキアの言葉を心の中で繰り返した。

(どういうことだ?)

 王は、大きなため息をついたあと、天啓を受けるようにまぶたをとじて問いかけた。

「アル神の息子シルク・トトゥ神の転身人が、ノストールに生まれ落ちているという予言が真のことならば……それは、このノストールにとり、幸をもたらすのだろうか。それとも……ラウ家にいかなるものを招くか?」

「…………」

「サーザ?」

 静かな沈黙が室内を満たしていった。

 だが、サーザキアは目したまま答えようとする気配を見せない。

 老人は、唇を閉ざしたまま深く頭をたれているだけだった。

 幸ではない―。

 大神官の様子に、その場の誰もが不吉なものを予感する。

「サーザキア、答えよ。アル神との契約のもと、ノストールの王はアンナのいかなる言葉も聞かねばならない。そしてアンナは答えねばならぬ。サーザ、答えよ」

 カルザキア王の言葉は静かな口調であった。

 だが、テセウスはまるで雷に打たれたように、父の言葉が自分自身を貫いていったのを感じていた。

(父上は、怖くないのだろうか。サーザキアが告げる言葉が、わたしたちにとって最悪のものかもしれなくても……)

「王よ。聖なる月の神アル神の息子シルク・トトゥ神は、〈戦いと勇気を司る〉といわれし神、その神加護せしところ勝利に導かれる予言があります。けれど……アル神の加護受けし、われらユク・アンナの一族にのみ密かに伝わり続ける別の異名もございます」

 カルザキア王は黙ってその続きをうながした。

「シルク・トトゥ神は……破壊神でございます」

 サーザキアは続けた。

「我らがユク・アンナには、古くから、シルク・トトゥ神についての伝えが残っております。

『アル神の息子シルク・トトゥ神

 戦いと勇気を司りし神

 人々に愛されし神

 だが

 その力の巨大さゆえに

 その言葉の穏やかならざるゆえに

 神々の怒りをかい野に放たれる

 マーセンテラー神の言葉に背きし者

 ユク神の光りより逃げし者

 ドナ神の懐を避けし者

 ゼナ神の慰めを嫌いし者

 エボル神の施しを拒みし者

 すべてはその力の大いなるゆえに

 神々の怒り

 災いの力をその身に与え

 破壊の神と名づけたもう

 かの者誕生せし大地

 すべての破壊を招きよせる』

と」

 部屋の中がざわめいた。

「その子が誰なのか、そちたちにはわかるのか?」

 王は静かに問いかけた。

「城下にて、多くのアンナに〈先読み〉をさせました……」

 サーザキアは答え続ける。

「けれど、ダーナンやナイアデスの魔道士のごとき〈先読み〉は、いまだ我々には訪れておりません。それゆえ、われらがアンナの力では、見つけること叶いませぬ」 

 その場の誰もが、言葉を失わずにはいられなかった。

 アンナたちにシルク・トトゥ神の転身人の〈先読み〉が訪れなかったこと。それにもまして、破壊神の誕生は、不吉な予言そのもであった。

(シルク・トトゥ神が……このノストールを滅ぼす……?!)

 テセウスは、その衝撃の重さに、部屋からすべての人々がいなくなった後も、一歩も動くことができなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ