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第9章〈禁忌の指輪〉-7-

 真夜中のノストールの空に、いくつもの警鐘の響く音が鳴り響いていた。

 振り続ける大粒の雨のように止むことを忘れたように打ち鳴らされ続けるその音は、不吉な音色を宿し響きわたる。

 アルティナ城からは、馬にとび乗った大勢の兵士たちが小隊を組み、あわただしくたいまつをかかげて方々に飛び出していく。 

「村長はいるか!」

 家の外で大きな声と頑丈な木の扉を激しくたたく音が家中に響き渡り、居間の長椅子で飲みつぶれて眠いっていたネイが目を覚ました。

「そんちょー、誰か来たよ」

 大きなあくびをしながら隣の部屋にいる村長を呼ぶが、大きないびきが聞こえるばかりで起きる気配がない。

「ったく……」

 ドアをひっきりなしに叩く音を止めるために、仕方なくネイは眼をこすりながら起き上がると、まだ暗い家の中を歩いて、木の扉を開けた。

「なんだよ、まだ明け方前だろ。村長さんは寝てるんだけど、一体……?」

 文句を言おうと不機嫌な顔で目をこすりながら相手を見る。

 するとその寝ぼけた瞳に、ひと目で兵士とわかる男たちの殺気立った表情が飛び込んで来て、ネイは一発で目が覚めた。

「城からの急用だ。村長はいるか?」

「あ、ああ」

 ネイは何度も小刻みにうなずくと、返事もそこそこにきびすを返し、隣の部屋に飛び込んだ。

 そして、ロッシュと一緒に高いびきをかいたまま雑魚寝をしている村長を見つけると、つかみかかるように強引にゆり起こした。

「村長! 村長! 城から兵士が来てるよ!! 急用だって! そんちょーぉぉぉ!!!」

「城?」

 耳元で叫ぶネイの大声に、半分意識朦朧とした状態の村長が、ふらふらと起き上がる。

「急用だって、すっげー怖い顔したヤローが外で待ってるよ」

 村長は大きく伸びをすると、深呼吸をして、玄関に向った。

 兵士は村長が現れるのを見るや否や、大声でまくし立てた。

「深夜、城に侵入した子供が陛下に危害を加えて逃走した。城から一番近いこの村に逃げ込んだ可能性が極めて高い。村人たちを総動員し子供の捜索を行なえ。万が一、かくまっている者がいれば、村人全員を処罰する。いいか、必ず捜し出すのだ。特徴は……」

 怒りを含んだ大声が家中に響き渡る。

 ネイに蹴り起こされたロッシュは大きなあくびをしていたが、そのあくびが途中で止まった。

「陛下に危害を加えたのは、銀色の髪をした子供だ」

 部屋の中から村長と兵士の会話に聞き耳を立てていた二人は思わず顔を見合わせた。

 ルナの姿が、ずいぶん前から家の中のどこにもいないことに気がついていたのだ。

「ジーンの奴……」

 村長と兵たちが、村人を起こしに家を出て行くのを見送りながら、ロッシュは舌打ちをした。

「もう少し待てって言ったのに……」

「でもさ……あの子、髪の色どうやって落としたんだろう」

 腕を組んでうなるネイに、ロッシュは首を横に振った。

 ハーフノーム島にあるセリュート草の染料で緑色に染めた髪の色は、簡単に落ちない。

「そんなことは、あとで本人に直接聞けばいい。いまはそんなこと悠長に考えてる場合か」

「う、うん。そうだった。そうだよ、相当やばいんだ……。王に危害を加えたとか言ってたもんね。さっきの感じじゃ、見つかったらただじゃ済まない様子だ。どうしよう……。ジーンはそんなことする奴じゃない」

 ネイが、助けを求めるようにロッシュをじっと見つめる。

「でも、海賊協定状を盗みに城に忍び込んだことろを王様に見つかった可能性はある。捕まえられそうになったら、攻撃するだろうな。普通」

「海賊協定状があれば、島に戻れる。ジーン、手に入れられたのかな」

「一人で行くなんて無謀もいいところだ。けど、かしらに認めてもらうために、焦ったに違いない。イリアさんのことで随分思い詰めていたからな……。それに、城から海賊協定状を盗み出す話をした責任は俺にもあるし……」

 ロッシュはしばらく黙り込んだ後、ネイに視線を返した。

 そして、ふたりは同時にうなずく。

「行くか」

「うん」

 荷物を手に村長の家の裏口からこっそり抜け出したロッシュとネイは、家の外に出て来た村人たちの目に触れないようにと、村を後にした。




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