入学~出会い
季節は春。
出会いの季節。
俺は今日、無事にこの品芸高校に入学することができた。
私立品芸高校。
文武両道をモットーにしている県内屈指の名門校だ。
小・中と真面目に勉強だけをやって来たんだ。
高校デビューをかましてやるぜ!
1年2組。通称「東城会」。
どうして東城会かというと、担任の名前が桐生だから。
それだけの理由で彼女の受け持つクラスは毎年そう言われている。
入学式が終わり教室に入ると、すでに先生が教卓のところに立っていた。
「前に紙が貼ってあるからその通りに座れー!」
そう言われて俺も周りのみんなも席に着いた。
みんなが座り終えると同時にチャイムが鳴った。
「よーし、間髪入れずにホームルームだ。出席番号順に自己紹介していけ。と、その前に私の自己紹介が必要だったな。私の名前は桐生葵。堂島の龍とは関係ないからなー」
まだみんな緊張しているのか、笑いは一切起こらなかった。
「すべったところでみんなの自己紹介だ。出席番号順に、そっちから」
順番に名前と出身、趣味、入りたい部活を話していった。
笑いを取るやつ、緊張して言葉が出ないやつ、ボケーっと聞いていると俺の番が来た。
「えーっと、伝井壮介です。生まれも育ちもこの町で、趣味はー……」
ここは重要だ。
この趣味と部活をきっかけにみんなと仲良くなるんだ。
そして俺は高校デビューするんだ!!
「趣味はスポーツ!なんでもやります!部活は野球部に入ろうと思ってまっす!!」
……静寂。
気合を入れて言ったのにこれはキツイ。
そもそもスポーツなんてやって来てないし、野球だって興味ない。
野球部に入れば一気にスクールカーストトップに君臨できると思ったからそう言っただけです。
ごめんなさい。ごめんなさい。ホントごめんなさい。
俺は顔を真っ赤にして席に着いた。
頭はさっきの失敗でいっぱいだった。
だがしかし!この後更なる衝撃が俺を待っていた!
「ハイ次ー」
丸椅子に座って壁にもたれかかっている先生が促す。
「はい、百瀬八重です。この町出身で、趣味は絵を描くこと。部活も美術部に入ろうと思ってます」
さらりとそう言い切った彼女の声に、自然と視線が引っ張られた。
教室で独り凛と立っているその姿に、だらしなく頭を抱えていた俺は、恋をした。
黒縁眼鏡に艶っぽい髪。
真っすぐ前を見据えた目。
一目惚れだった。
でも、それを伝える勇気がいきなり湧いてくる訳もなく、俺は彼女の後を追うために美術部に入ることを決めた。