無気力日記のはじまり
なぜこうなってしまったかというと…話はさかのぼり…
晩御飯をごちそうになったあと、当然かのように娘さんを部屋に連れて行き、寝かせてきたのだが…
あれ、娘さんって確か大学生だったよね?なのになんで健全な成人男性の僕が寝かしつけているの?赤ちゃんじゃあるまいし
まあそこはおいておこう、寝かしつけた後。僕はリビングで佳菜恵さんからお茶をいただいていた。
「佳菜恵さん、聞いてもいいですか?というか聞かれることわかってますよね?」
そう言うと佳菜恵さんはまるで頭の上にはてなマークを浮かべているような顔で首をかわいらしく傾げ
「何のことかしら?」
と質問で返してくる。困ったものだかわいい
「何のことって…娘さんのことですよ。初対面ですよね?なのになぜ保護者みたいなことやらされてるんですか」
ちょっと怒り気味で僕が訪ねると、佳菜恵さんは満面の笑みで答えた
「そうよねー!初対面のはずなのにすごく仲良くなってたわよねー!やっぱり私の目に狂いはなかったわ!」
「なんですかそのテンプレリアクション」
「いやね、私たちも夫婦でお店切り盛りしているから大変じゃない?だからできる範囲でいいから藍莉の面倒を見てほしいの」
きれいにスルーされたのはおいとこう、けど佳菜恵さんのいうことはその通りだと思う
夫婦二人だけって言うのはもちろん大変だし、それに結構人気のある店だから忙しいのは確かだ。たまに手伝っている身だからわかってはいる
けどだからってなんでこうなるんだ。僕はいままで女の子とも付き合ったことはおろかまともに触れ合ったことないのに…
「というわけでよろしくね、修君。家の鍵渡しておくわね」
「それは信頼しすぎじゃないですか!?」
流石に警戒しなさすぎだ、何もする気はないけどなにかあったらどうするんだ…僕はただの常連客だ。なのにどうしてここまで信頼されているのかわからない
悩んでいる僕に佳菜恵さんはまた笑顔で言ってくれた
「修君、信頼と時間は平行しているわけではないのよ。私は普段のあなたを見て藍莉を任せられる人だと、そう思ったの」
「それは純粋にうれしいですけど…」
僕は困っていた、けど佳菜恵さんは僕を信頼してくれている、ならそれに答えるのは普通のことなんじゃないのか?
家にはあまり帰りたくないしちょうどいいかもしれない。なら引き受けても…
と悩んでいたら、玄関があく音がし。誰かリビングに入ってきたと思ったらそれはツヨシさんだった
でもなぜだか慌てて入ってきたようだ
「藍莉!藍莉は無事か!!!!」
「あら、どうしたの?まだお店しめる時間じゃないのに」
佳菜恵さんがそう尋ねるとツヨシさんは声を荒げて言い放った
「店はタカヒロに任せてきた。それより!!!!藍莉は!!!!!」
「寝てますよ、ぐっすりと」
と僕が普通に返すとまたすごい勢いで僕に言ってきた
「おい、なんだ?もう旦那気分か!?ふざけんじゃねえ!!!!藍莉は誰にも渡さんぞ!!!!!」
ツヨシさんだいぶキャラ崩壊してるな…じゃなくて
「佳菜恵さん、もしかしてツヨシさんに言ってないんですか?」
「ええ、私が個人的にお願いしたいことだもの」
あいかわらず笑顔で答える佳菜恵さんだがツヨシさんの怒りは収まらず
「修に任せなくても俺たちで面倒見れるだろう、藍莉に何かあったらどうする!!」
ツヨシさんまじ正論、感動する。これが普通の反応だ。でも佳菜恵さんはまたまた笑顔で
「なにかあってもいいけど無理矢理なら許しはしないわよ?ばらばらにしてお出汁にするわ♡」
佳菜恵さんまじ怖い。そんなこといわれて手を出すばかものはタカヒロぐらいだろう
「でもね、修君なら任せられると思うの。それとも…」
その瞬間変わらない笑顔なのに威圧感が増したような気がした
「反・対・す・る・の・?」
「喜んでお受けいたします」
「よろしくな、修」
恐怖。それしか表せない。そう感じた僕とツヨシさんは笑顔で手を取り合った。
こうして僕は娘さん…藍莉の面倒を見る日々が始まった