やっと始まる、そしていつもは終わる
「お邪魔します」
玄関を上がりきれいに掃除されているフローリングへ踏み入る。本当にきれいな床だった。
きっと佳菜恵さんが毎日きれいに掃除しているのだろう、店のこともあるのに恐れ入る。
「適当にくつろいでいてね、すぐお昼作っちゃうから」
「はい…」
なんだろう、人妻なのにドキドキする。というか人妻だからドキドキします、はい。
案内されたリビングもすごくきれいに掃除されており、清潔感に満ち溢れていた。
でもなんでだろう、別にお店でもいい気がするんだけど…なんで僕はここに連れてこられたんだ?
まさかツヨシさんに聞かれたらまずいことを…なんてことはないので、過度な期待はよそう。
とりあえずもじもじしていても仕方ないので、妹からのメッセージ受信機かつゲーム機と化しているスマホを取り出し、ゲームでもやって気持ちを落ち着けることとしよう。
「…いいにおいだなぁ」
「…ほんとだね、おなか減った」
このにおいは野菜炒め…いや、野菜に軽くソースをかけた音がしたということは…焼きそばかな
いいよね、こういう一般家庭で作る焼きそば。市販で売っているものとは一味違うおいしさがあるからね…
ん?なんか隣からもいいにおいがするような…
これは、何のにおいだろう。というかさっき声がしたような…
「…修君。どうしたのそんな顔して?石でもつまったの?」
「いやいや、もっと痛いから。もっと苦しそうな顔するからね?なったことないけど…」
「そうなの?じゃあ生理痛?」
「なるわけないでしょ、男だよ僕…ってはい?」
なんでとなりに女の子がいるの?え、何この子すごくかわいい。
佳菜恵さんとよく似ているような…肩ぐらいまである薄い茶色の髪といい顔立ちといい…む、胸といい…けしからないね。はい。
ということは、娘さんか。なんで僕の隣にいるのかは知らないけど、僕は漫画の主人公のように驚いたりはしない
「驚かないんだ。私的には驚いてほしかったんだけど」
そうそう、驚いたりはしないんだ。
…心読まれた?
「心読まれた、って顔してるね。わかりやすいね修君」
「…えっとツヨシさんの娘さんだよね。初めまして」
「うん、あいりだよ。よろしく」
「ところで…」
「修君のことはお母さんから聞いてるから、だから知っているの」
…なんでもお見通しなの?さっきからそうとしか思えない…
「修君ってめんどくさいし、修でいいよね。うん」
「いや、いきなり呼び捨ては…」
「めんどくさいしいいよね」
…この子はなんだぁ?なんかぼけーっとしてるし。喋るときは気怠そうに話すし…
あとなんで僕の顔ずっと見てるんだよ。恥ずかしい
「…えっとなんで僕の顔見てるの?」
「おもしろい」
「そっか…」
「なんだかおうどん食べたくなる、ただし冷たいの」
「なんでだ」
はじめて会ったとは思えないんだけど。嬉しいのか悲しいのかわからないんだけど。
まあいいや、なんか新鮮だし。いつも騒がしい人に囲まれてるからだろうか。
なんだか、楽しい
「おまたせ…ってあらぁ!もう仲良くなって!やっぱり私の眼は正しかったのね!!!」
「え、なんですかいきなり」
「修君!」
「はい!?」
いきなり詰め寄られたかと思ったら手をつかまないでください。これよく見るやつですよね、あのなんか頼むときのあれですよね
「今日、晩御飯もうちで食べて行って!!」
「…はい」
「そっか…じゃあお昼食べたら私寝るし部屋まで連れて行ってね修」
「え、なにどゆことそれ」
「…今日から私の面倒見てくれるんじゃないの?」
だからそれがどゆことなんだと聞いているんだが。わかっていないのかこの子は。
「修君、これから仲良くしてあげてね!!!いつでも遊びに来ていいから!!!」
「…何が起こっているんだ。佳菜恵さんは何も教えてくれない…」
「ゼ○は答えてくれるかも」
「おいまてそこ」
ここからだ。ここから僕のいつもは終わった。
そして始まった。僕のいつもが