5分遅れの振り子時計
私の家の、壁に掛かった振り子時計。
あの職場を離れるときに頂いた古い時計だ。
あれから30年ぐらい経っただろうか。
あの時日々は、忘れられない。
あの時の素晴らしかった日々を、忘れたくない。
既に振り子は動かない。
電池は入っているのに。
まだ幼かった息子が止まった振り子を揺らして、
キャッキャッとはしゃいでいたことを思い出す。
しかし時計の針は、時間を刻み続けている。
昔も今も、本当の時間より、5分だけ遅れながら。
時計よ、お前も昔が恋しいか。
過去を忘れたくないから、昔の時を指しているのか。
時間が進んで、無くなってしまうのが、怖いのか。
たった5分だけでも、時が進んでしまうのを、遅らせたいか。
息子がハッとしたように言う。初めて買った、電波時計と見比べて。
「時計、5分遅れてるな」
そういって、息子は時計針を無情に直す。
――――――ああ、待ってくれ。直さないでくれ。
――――――あの日々が消えていく。あの輝かしい時が消えていく。
そう思っていたのに、その思いを声に表れることはなかった。
30年ぶりに、正確な時間に直された時計。
時計の過去を知らない息子に、直された時計。
最終編集日:2014年 09月30日
ひっさびさにログインしたら1年と数か月前の遺物が残ってました
で、「なんやこれもう完成しとるやん」ということで推敲とかいう面倒臭いことはかっ飛ばして投稿した、というわけでございます
当時の私はなにを言いたかったのやら、なんとやら