第三話「三人旅」
民家の中から、
「ねみーよ!」
と、声が聞こえた。
その時、いきなりドアが開き、祐介は勢い良くドアに顔面をぶつけた。
「てーっ!これ傷口とか開いて無いよな?晴美?」
「うん。大丈夫」
中から、少年が出てきた。
「おっ、祐介か。お前彼女いたん?てか、目ーどうしたんさー?」
「目、切った。てか、切られた」
「誰に?」
「こいつの親父さん」
「おいおい、それ傷害罪で訴えたほうがえーじゃんか」
「それ以前に、薬物中毒なんさー。それより、その訛りきった群馬弁やめてくんねぇーこっちまで訛っちまうがな」
「わりい。わりい。標準語にするよ、俺はバイリンガルだからな」
「そりゃどうも」
「お2人は友達ですか?」
晴美が言った。
「うん、コイツは中学の時の同級生で、アウトドアが好きな奴だから仲間に入れようと思って」
「はじめまして、禅定 和樹と申します、どうぞよろしく」
「あ、はじめまして前園 晴美です」
「実はさ、こっちもいろいろあって、ある場所とある人物を探しているんだ」
祐介が声を発した時、家の中から野太い声が聞こえた。
「みんなそこじゃ、落ち着かないでしょ。部屋ん中入ってきなよ」
和樹は
「ほーい」
と返事をして、祐介と晴美を部屋に招きいれた。
部屋の中へ入るとまず目に付いたのは、十数本もある模造刀であった。
「相変わらずスゲーな、何本増やしたんだよ」
「いや、新しく作ったのはこの一本だよ」
和樹が模造刀を鞘から抜いた。
「おいおい、早くしまっておくれよ」
「なんで?」
「斬られそうなんだよ」
「刀が斬りたくねぇってよ」
「そりゃどうも……あと、頼みがあるんだ」
「何だよ、改まって」
「俺たちの旅行に、付いてこないか?」
和樹は何かを悟った様に微笑んだ。
「さては、旅行じゃねぇな。もっと危険な何かだ」
「冒険って言った方が聞こえが良いかな」
「冒険に必要なのはテント、ライター、サバイバルナイフ、懐中電灯、着替え、お金、覚悟と勇気、希望と情熱、おれに用意できるのはそれくらいか?」
和樹は、道具を数え始めた。
「愛と信念とくじけない心、俺の手持ちもこれぐらいだな」
と、祐介。
「誰かを助けたいって言う気持ち」
晴美が言った。
「父さんか?」
「ええ」
「じゃあ、早速、出発しようか。行き先は?」
「オトナシ」
「ふっ。予想どうりじゃねぇか」
「予想どうりだったか」
「どれくらい掛かるの?」
晴美が聞いた。
「さあな。行った事無いから、案外簡単に付いたりしてな」
と、和樹。
「車とかで行けないのか?」
祐介が言う。
「ぶっ壊れたんだよ」
と、和樹の親父が言った。
「どこがですか?」
「…ブレーキ」
「アウトだな」
と、和樹。
「あの、タクシーとかで行けないんですか?」
「みんな嫌な顔するんだよな。金もバカ高くつくし」
和樹の親父が言った。
「言った事あるんですか?」
祐介が聞いた。
「噂でね。それに、そんなの面白く無いでしょ?やっぱ冒険って言うのは歩きじゃなくちゃ」
和樹の家は民家にしてはおしゃれな空間だ。暖炉とシャンデリアがあり、本棚の裏には隠し扉があるらしい。
和樹が隠し扉の中へ入るよう声をかけたので祐介と晴美は本棚の前に立った。
「よいしょ」
そういって和樹は棚の横にある模様を叩いた。
模様はパソコンのCDドライブのように『パシャッ』と開いた。
どうやら取っ手になるらしい。
隠し扉は開いたまま一行は中へ入る。
「ここには、アウトドア用品が置いてあるんだ」
と、和樹の親父が言う。
そしてこれから、1時間、遠足の準備が繰り広げられた。
「よっし、これでオーケーだ」
祐介が言った。
「出発か?」
和樹が言う。
「ええ、ありがとう」
「出発の前に確認しておきたいんだが?」
和樹が言った。
「何を?」
と、祐介。
「晴美さんの親父に麻薬を売った野郎をフルボッコにしにいく……目的はこれか?」
「ああ、そうだ」
「うっし。やってやろうじゃねぇか」