第9話 夜会話
「只今、戻りました」
「まぁ、お帰りなさい。フィーリアさんは、ちゃんと案内できてましたか?」
「問題なく案内してくれました」
家にたどり着くと、ばあさんがお出迎えをしてくれた。
じいさんはまだ帰宅はしてないようだ。
「まぁ、何かありましたか」
「村の青年達に絡まれましたのでちょっとお仕置きを」
フィーリアが朝と違う感じだったので、異変を感じ取ったのだろう。
先ほどあったこと出来事を簡単に報告する。
「まぁ、怪我はありませんでしたか」
「怪我もなかったから大丈夫です。 それよりも汗を拭く水とタオ・・・布は借りれるか」
本当は服も着替えたい。
今着ているのは、ヒートテックを着ているので少しの運動したら、汗をかいてしまう。
それに、ここは異世界だ。
今着ている服とは全く合わずに俺だけ浮いている状態だ。
しかし、服がない以上今の服を着るしかない。
だが今は、汗を拭いてさっぱりしたい。
昨日は遅かったし、言うのも失礼だったしな。
「まぁ、でしたらお部屋にお湯と布をお持ちいたします。 少し時間がかかりますので、それまでの間お部屋でお待ちください」
「そうですか、じゃあお願いします」
フィーリアを見てみるがまだ俯いている。
やはり、怖かったのか。
このままだと、この家族にも影響を与えそうだな。
朝までおとなしくじっとしているとしよう。
「ばあさん、本日の夕餉はいらないです。 明日の日の出と共に出発をするから朝餉はいらない。 マドリーへの行き方は部屋に来たときに教えて下さい」
「まぁ、分かりました。 そのようにいたしますね」
フィーリアとこのままお別れになるがしょうがない。
俺のせいで、笑顔がなくなるとしたら素直にここから出て行こう。
部屋の中に入り、ベットに座り込む。
部屋の外では、ばあさんとフィーリアが話しをしているのが聞こえる。
ばあさんのほうがフィーリアの良く知ってるし、そっちのことは任せたぞ、ばあさん。
今度あったときは、またあの笑顔を見せてくれ。
また会えたらいいけど。
さてさて、今回新たに出てきたのが勇者、魔王、ハイエルフ、この3つだ。
昔、勇者と魔王がいたってことはこの2人が戦争でもしたのか。
大昔なら、本とか言い伝えがあるはず。
この辺も図書館があれば調べよう。
今度の種族はハイエルフか。
ハイエルフってあれだよな、エルフの上位種で基本能力が高く、傲慢な性格が多い種族だよな。
俺の知ってるハイエルフはそうなんだが、この世界はどうなんだろう。
とりあえず、俺はエルフってことのままがよさそうだな。
傲慢な感じを演じるのは疲れるし、ありのままならエルフっぽいはず。
最後にもう一度ステータス設定をしてみよう。
何か、変わったかもしれないし変わらないかもしれない。
ステータス設定を念じて設定画面をだす。
氏名 高坂 義之 男 20歳
身分 自由民
職業 村人Lv2
称号 神樹の加護を受けし者
スキル 強運Lv4
固有スキル ステータス設定 気操作Lv4
スキルポイント 1
あれっ、称号とスキルが増えている。
称号の神樹の加護を受けし者ってお昼に行ったラキの木ことかな。
ラキの木に手を触れた時、幸福になったような感覚はこの称号を入手出来たのでそのような感覚があったのだろう。
あのラキの木ってやっぱり神樹だったのか。
称号も選択式みたいだな。
外せるかどうか試してみよう。
氏名 高坂 義之 男 20歳
身分 自由民
職業 村人Lv2
称号 なし
スキル なし
固有スキル ステータス設定 気操作Lv4
スキルポイント 1
おおっ外せた。
ちゃんと称号の欄は残ってる、良かった。
だが、強運のスキルが無くなった。
もしかしたら、称号はスキルと関係があるかもしれない。
称号をセットした時にはスキルがあって、外したらなくなってる。
ならもう一度セットしたら、また現れるのかもしれない。
よし、称号をつけてみよう。
氏名 高坂 義之 男 20歳
身分 自由民
職業 村人Lv2
称号 神樹の加護を受けし者
スキル 強運Lv4
固有スキル ステータス設定 気操作Lv4
スキルポイント 1
やっぱり、あった。
そういえば、フィーリアが話をしていた異性と共に訪れると幸せになれるという話はこの称号のおかげかもしれない。
強運Lv4はなかなかいいスキルだと思う。 これから良いことがありそうなスキルじゃないか、役に立ちそうだ。
これで、確定だと思うが他の称号も手に入れて試してみよう。
とりあえず、称号はつけたままにしてと、スキル一覧でもじっくりとみてみよう。
今は、時間もあるし何のスキルがあるって知るのもけっこう大事だし。
スキル一覧を見て性欲増強のスキルが気になった。
普通になら、夜のお供に最適なスキルだが、悪友に会った時に性欲について熱く語っていたのを思い出したからだ。
悪友が言うには、性欲は健康体の人にしか宿らないらしい。
生物が生存し続けるための三大欲求である 食欲・睡眠欲・性欲 のうち、食欲と睡眠欲が満たされていない場合は性欲が発生しない。
つまり、性欲が発生しているときは、食欲と睡眠欲が十分満たされている状態なので、健康である。
性欲が発生する状態が健康であり、常に性欲を維持できる生活を送ることができれば、心身も健康でいられると熱弁していた。
悪友の熱弁は、ほとんどスルーしていたが健康体でいられるのは納得していた。
風邪を引いた時なんてのは当たり前だが性欲なんてものはなかったし、食欲も満たされていない時も性欲よりも食欲の方が満たされたいと考えてしまう。
冒険をするのにもまず健康的な身体でなければいけない。
これを逆に考えると性欲を満たされる状態は冒険が出来ることになる。
依存状態になるは、意味がないが性欲増強をスキル手に入れれば健康の身体を維持しやすくなるのかもしれない。
健康的になるのなら性欲増強をスキルを手に入れるのは悪くないかもしれない。
そこまで、外れのスキルじゃないと思うしスキルポイントを使って取得しよう。
日は完全に沈み、月の光が登り始めており虫の鳴き声がよく聞こえてる。
お湯と布はまだ持ってないもらってないので、ばあさん待ちの状態。
これ以上は明日に支障がきたすのでお湯はもう諦めよう。
就寝しようとした所で扉がゆっくりと開いた。
どうやら、お湯と布を持ってきてくれたようだ。
扉の前には、ばあさんではなくフィーリアが桶と布を持って立っていた。
えっえっえっ。
何でフィーリアが、お湯と布を持ってくるの?
俺が怖くなったんじゃないのか。
何故、ばあさんではなくフィーリアが持ってきた。
確かに、持ってくる相手は指名しなかったがよりによって何故フィーリアに託したばあさん。
おっと、このまま立たせてもしょうがない、さっさと桶をもらおう。
立ち上がり、フィーリアから桶を貰う為近づく。
「ありがとう。助かったよ」
「・・・・・・」
返事はないが、ちゃんと聞いているようだ。
桶に手を取るが、フィーリアは桶から手を離そうとしない。
「マドリーの町にはどの方向に進めばいいかな?」
「・・・初めて来た・・・道を・・逆に・・・真っ直ぐに・・・歩けば・・・つきます」
「なるほど、ありがとう」
とてもゆっくりだが、マドリーへの行き方を教えてくれた。
だが、桶を放さずに、ずっと持っている。
しばらくお互いが桶を持ったままの状態が続き、そろそろ声をかけようとした時フィーリアから真剣な表情で声をかけてきた。
「あ、あの、背中を・・・流しても・・・いいですか?」
何だと、フィーリアが俺の背中を流すといったのか。
ぜひ、俺の背中を流してくれ。
「ああ、お願いするよ」
嬉しそうに桶を持って部屋の中に入ってゆく。
家に連れてきたときより立ち直ってるようにみえる。
いや、持ち直しただけかな。
まだ最初に会った時のような感じの不安を抱えて、怯えてる雰囲気がある。
まぁ、後は家族のばあさんに任せよう。
背中を拭いて貰うためシャツを脱ぎ、上半身裸になる。
フィーリアの顔が若干赤くなるが気にしないでおく。
「じゃあ、よろしく頼む」
「はっ、はい」
持ってきた布を桶の入ったお湯に濡らして絞っている。
少し緊張しガチガチになりながらが、布を絞っている。
そして絞った布をゆっくりと俺の背中に当てた。
ぬるい。
桶に入ってた水は水でもなくお湯でもなくぬるま湯だった。
とてもじゃないがお湯といえない温度だ。
それでも、布が汗をふき取ってくれるのサッパリはする。
フィーリアは一生懸命に背中を擦っている。
布が乾いてきたら、桶の水に濡らして絞り取る。
これの繰り返しを行う。
あまりの必死に汗を拭いているので、声をかけることも出来ずにいた。
ちなみに性欲増強スキルのおかげで、かなりムラムラしている。
分かるな、可愛い子が賢明に背中を流して貰えるこのムラムラを。
おかげで、俺の息子が大変な状態だ。
無言のまま背中を流し終えて、右腕、左腕、前上半身、と順番に汗を拭く。
「汗を拭いて貰ってありがとう」
「いえ。 あの、義之さんにお願い事があります」
それは、覚悟を決めた表情になってのお願い事だった。
この2日には見たことのない必死になっている顔だ。
何としてもこの願い事は聞き入れてもらおうという決意が感じ取れる。
「何のお願い事?」
「もう一度、背中を流してもいいですか」
「別にいいけど・・・」
もう一度、汗を流してもらう為背中を向ける。
フィーリアは真剣な表情でに背中を擦っている。
布が乾いてきたら、桶の水に濡らして絞り取る。
2人は無言のまま、これを何度も繰り返しを行う。
「義之さん。・・・」
「・・・何」
フィーリアが穏やかな口調で声をかけてきた。
けれど、背中を拭くのはやめていない。
「ドドンに絡まれた時は怪我はしてないですか」
「全くの無傷だよ」
「良かったです」
夕方の時のことを心配していたのか。
俺に対する恐怖はなさそう。
恐怖の対象にあんな怪我がないと知って安堵なんてしないもんな。
では、何故あの状態に陥ったのだろう。
「義之さん。・・・」
「・・・何」
「明日の朝、この村を出て行かれるのですか」
「そうだな、明日の朝出て行く予定だよ」
背中を擦る布が若干、力が入る。
2回目から背中を擦ってもらってるが、1回目より力強く擦っているので痛い。
背中が赤くなっていないといいが。
痛いと言いたいが、どうも心の中の整理をしてるっぽいのでそれを邪魔したくはない。
赤くなって内部出血してもフィーリアの心意気を邪魔になどしたくはない。
理性と感情が今フィーリアの中でぶつかっているのだろう。
「義之さん。・・・」
「・・・何」
「この村に残りませんか」
「それは出来ない」
残ってもいいが、確実に他の村人とうまくやっていけない。
村人がエルフを嫌ってるのもあるが、主な原因が夕方の惨事だ。
元々ここにいるつもりなら、ぶっ飛ばすのではなく説得のほうが後々やりやすいからな。
まぁ、あの惨状を起こしている以上村にい続けるんのはもはや無理だろう。
最悪、村人全員が敵になるやもしれんからな。
「義之さん」
「何」
先ほどと違って、背中を擦るのを止めている。
張り詰めた声で訊ねてきた。
どうやら、これが本命っぽい。
「私も一緒に連れて行ってください」
「・・・どういうこと」
「義之さんと一緒に旅がしたいです」
フィーリアの方へ向くと、先ほどのお願いと同様の必死になって伝えてくるのが見てとれた。
体を震えさせながら、目には涙を少し零れ落ちている。
本気だ、本当に一緒に旅がしたいのだろう。
あっちの世界で見たことのある顔をしている。
「村から出れば、じいさんばあさんにもう会えなくなる可能性があるぞ」
「おじいちゃんとおばあちゃんには話をしています。 2人とも賛同してくれました」
ふむ、この話をさせる為にばあさんはフィーリアに桶を持ってこさせたのか。
しかし、超初心者の旅人と一緒でいいのだろうか。
「村から出れば、命の危険がある。 それでも一緒に旅がしたいか」
「村にいても、魔物の脅威があるのは違いはありません」
村にいても魔物の襲撃であるのか。
それは、それで怖いが旅をするのに最も恐ろしいものがある。
「それだけじゃないぞ、夕方の時の事忘れてはないか、ドドンが俺にしてきた事が当たり前に起こり得るのだぞ」
「ーーーーー」
フィーリアが息をのんでいる。
やはり、怖いだろう。
俺だってかなり怖い。
旅で一番気をつけないといけないのが、対人のにあると俺は思う。
世の中には、人を騙してお金を巻き上げる盗賊のようなやつもいる。
また、ドドンのように斬りかかってくるやつもいるだろう。
もの凄い平穏な生活から一転してるのだから、大変だ。
俺の場合は爺さんからある程度の訓練してるから多少は何とかなる。
「だ、大丈夫です」
「声が震えてるぞ、無理をしなくていい」
「無理はしてません」
完全に涙目になりながらも旅に同行してもらう事を諦めていない。
「例え、危険があっても義之さんと一緒に冒険がしたいです」
信念を持ったこの表情は良く知っている。
元の世界いた彼女のようだ。
こうなった場合、梃子でもう動かないのは経験済みだ。
そうなったら、コッチが折れるのか殆どだ。
はぁ~、今回も此方が折れるしか無さそうだ。
「分かった。 一緒に行こう」
「本当にいいのですか」
「本当にいいよ」
了承を得られて、本当に嬉しそうな笑顔をしている。
かなり嬉しいのか、此処にきて涙がポロポロと泣き始めた。
確かに旅は危険もあるが、その辺は後々経験すれば大丈夫だろうし、一緒に居れば多少は危険が回避が出来るはず。
それに、俺もこの世界の常識を知らないからわざわざ知らない人に聞かないでフィーリアに聞けばいいから助かる。
俺も1人旅は寂しいから相手がいるのといないのは大分違う、相手がフィーリアなら尚更だ。
ぶっちゃけて、フィーリアと一緒にいられるのは嬉しい。
だったら、最初から許可しとけって話になるけど、意思と覚悟を持っていないとかなりの確率で足を引っ張られる。
これのあるないでは、命の危険度が大分違う。
これだけは、俺が絶対に譲れない境界線。
さて、まずはフィーリアが泣いているので慰めよう。
現在のステータス
氏名 高坂 義之 男 20歳
身分 自由民
職業 村人Lv2
称号 神樹の加護を受けし者
スキル 性欲増強Lv1 強運Lv4
固有スキル ステータス設定 気操作Lv4
スキルポイント 0