第5話 家族
クルール村は、暗くて分かりにくいが全体的に木造住宅っぽい。
しかし、夜見張りをする人はいないのか、誰もいない。
それどころか、家には明かりすら付いていない。
「かなり静かだが、もう村人は寝ている時間なのか?」
「そうですね、この時間だと大体の人は寝てると思います。 貴族は蝋燭を使ったりしますが、一般人は早めに就寝すると思うのですが・・・」
「・・・なる程」
「一応知ってると思いますが、人虎族は夜目がありますので、大体の暗さは蝋燭の火を付けなくても大丈夫です」
人虎族何て初めて知ったぞ。
虎が入るなら狼人族もいるのか。 また、もしかしたら他の種族もいるのか。
「クルール村は人虎族しかいないの」
「はい、人虎族しかいないですね。 エルフの義之さんは夜目を持っていないので大変かもしれませんが、基本良い村です」
・・・ちょっと待て。
また、聞き捨てならない事をフィーリアが重大な事を喋ったきがするんだが。
俺がエルフだと、俺は立派な人間だと言いたい。
どうして、間違うのか問いただしたい。
俺は、美男ではないし耳の長く尖ってない。
「何で、エルフだと思った?人間じゃなく」
「クスクスッ」
笑われた。
腰を少しだけ曲げて、右手で口を抑えて笑っている。
何故だ、笑う要素なんてどこにも無い筈なのに。
笑う彼女はやはり、可愛いが今はそれを堪能してる場合じゃない。
何故、笑うのか聴いてみよう。
「だって、クスクスッ。 ・・・・人間は遥か昔に滅んでるですから。 誰も見たことはないですからお伽話として語り継がれてるだけの種族ですよ。」
「・・・」
フィーリアは冗談が上手ですねと、笑いながら微笑んでいる。
えっ?人間絶滅したの?どうして?どういう意味?
現在、何度目かの混乱状態だ。
フィーリアが、冗談を言っている可能性が・・・いやないな。
嘘や冗談を言った気配がまるでない。
フィーリアにとっては人間はファンタジーな存在のようだ。
・・・駄目だ、このまま考えても不安で押しつぶされてしまう。
フィーリアには悪いが、深呼吸をして僅かでも落ち着かないと。
息を深く吸い、吐くこれを何回か繰り返す。
・・・・・・・よし。
「どうかなさったんですか」
「ここに来て、フィーリアの家に行く事が緊張してしまってのでここらで深呼吸をして落ち着こうかと」
「緊張する事なんてないですよ」
フィーリアが突然、深呼吸をした俺を見て話しかけてきたが、不安に押しつぶされそうになったなんていえる訳が無い。
とりあえず、冗談でも言ってごまかしておこう。
「家の人には、ちゃんと挨拶をしようと思うと緊張したので」
「みんな良い人なので緊急しなくても大丈夫です」
「・・・フィーリアを私に下さいっと言うつもりなんだけどね」
「×××××××」
フィーリアの顔が一気に赤くなる。
照れるフィーリアを見るには眼福、眼福。
尻尾も大きく動いている。
フィーリアだけなのか人虎族の特性なのか、分からないが尻尾は感情に左右されるのかもしれない。
「もぉぉぉぉ~、何いってるんですかぁ~」
「はっはっは、冗談です。冗談」
フィーリアが赤くした顔で両手で叩いて来るがちっとも痛くない。
ポカポカポカと音が聞こえてきそうだ。
「そんな事言うと入れません」
「ごめんなさい、私が悪かったです」
「次はありませんよ」
フィーリアから怒ったり拒否反応といった嫌な感じはなかったので、機会があればまた、冗談を言おう。
そうこうしてるとフィーリアの家にたどり着く。
どうぞ入って下さいと言われたので、フィーリアと一緒に家の中に入る。
「只今、戻りました」
「こんな遅くになにしてたんだい、余り心配を掛けさせないでおくれ」
「日が暮れる前に帰って来なさいと言ったのに」
家の奥から老人夫婦らしき、2人が出てきてフィーリアを向かい入れている。
親と言うより、祖父母と言った方がしっくりくる。
「フィーリア、こちらのエルフさんはどなたですか?」
祖父が厳つい顔しながら俺について訪ねてくる。
夜遅くに帰って来て知らない人と一緒なら気になるだろうけど、急に殺意の籠もった目を此方に向けないで欲しい。
怖いじゃないか。
「義之さんです。ブルーベアから助けて貰いました。今日、泊まる所が無いって事で来て貰いました」
「なんと、あの凶暴なブルーベアを」
「まぁ、怪我は大丈夫でしたか?」
「はい、大丈夫。義之さんに助けて貰いましたから」
「始めまして、義之です」
フィーリアから、紹介され挨拶しお辞儀をする。
ここは、無難な挨拶をしておこう。
はっちゃけると後々大変なきがするし。
「まぁまぁ、孫が危ないとところを助けて貰いありがとうございます」
「いえ、近くにいただけですので」
「ふん、どうだか擦り付けてから助けたじゃないのか」
「おじいちゃん、義之さんに失礼だよ。」
「まぁ大丈夫ですよ、フィーリアさん。 おじいさんは夜遅くに帰ってきたフィーリアを心配してたんですよ。 それに、夜に男性の方を連れてきて嫉妬してるだけです」
「これ、ばぁさんいらない事をいうでない」
ふん言って、背を向ける祖父。
やはり、フィーリアの祖父と祖母だったか。
もう見た目が、歳があれだから。人虎族は見た目が老けやすいとかじゃなく良かった。
親は今は出かけてるのかな。
それはさておいて、このじいさんはかなり孫に溺愛してる。
いや、超溺愛といっても過言じゃない。
フィーリアに対して尻尾が大きく動いて、俺を見るなり尻尾と毛を立ててるし。
人虎族は威嚇とかは尻尾を立てるのかもしれない。
じいさんしか見てないから分からないけど、それはおいおいだ。
「おじいちゃん、おばあちゃん。それで義之さんを今日泊めたいだけどいい?」
「まぁ、フィーリアさんを助けて貰ったんですからいいですよ」
「・・・ふん」
「いいの、やったー」
おじいさんは、耳を傾けながらも泊まる事には反対はしないみたいだ。
良かった、ここまで来て野宿は辛い。
許可を貰えたのが嬉しいのかぴょんぴょんと飛び跳ねるフィーリア。
「まぁまぁまぁ、義之さんの泊まる部屋はフィーリアさんの部屋でいいですかね」
「なっ・・・」
「えっ・・・」
おばあさんが飛んでも無いこと言ってきた。
おじいさんとフィーリアの2人とも顔が真っ赤だ。
怒気と照れによるもの、どっちなんて一目散に分かる。
おじいさんはそんなことは認めないと反対しており、フィーリアは小声でお部屋が・・・・まだ・・準備か独り言を喋ってる。
「突然来客したので、空いている部屋で構いません」
「あら、そうですか。わかりました、簡単に準備してきますね」
そう言い、奥へ入って行き、おじいさんも奥へ行った。
「義之さん、こちらです」
「お邪魔します」
フィーリアにつれられてリビングへ向かう。
「夕餉はまだですよね、準備しますので、お待ちください」
「・・・」
「・・・」
気まずい、超気まずい。
今、リビングには俺とおじいさんだけだ。
フィーリアは部屋で着替えてる最中だし、おばあさんはさっさと返事を待たずにして台所へ向かった。
おじいさんはこちらを厳つい顔してジーと見つめている。
ならば、こちらも見つめ、目で語り合おうじゃないか。
語り合うことなんてないけど。
お互いに見つめあい、夕餉を準備する音だけが鳴り響く。
「お待たせしました。夕餉をお持ちいたしました」
おばあさんが夕餉を4人分持ってきた。
長かった、たった数10分だがとても長く感じた。
「こんなものしかないですがエルフのお口に合えばいいのですが」
夕餉は硬そうなパンと何かの干し肉、野草を煮たっぽいものだ。
お世辞じゃないが美味しくはなさそう。
「いえいえ、大丈夫です。 フィーリアさんはいつも部屋でご飯を食べているのでしょうか」
「フィーリアですか。 いつもリビングで一緒に食べていますよ」
「遅いな、ちと見てくる」
おじいさんがフィーリアの部屋へ向かう。
「フィーリアいつまで時間かかってるんだ」
「きゃ、おじいちゃん勝手に入ってこないでよ。まだ着替えてるんだから」
じいさん、相手の了解もせず開けたのか。
年頃の女の子は開けられると怒るぞ。
しかし、じいさんの無駄にはしないぞ。
ちゃんと夕餉のオカズとしていただくから。
「なんじゃ、まだ着替えとらんではないか、服もこんなにたくさん出してどうする」
「いいでしょ、別に服を出しても誰も困らないんだから」
「もう夕餉は出来て、フィーリア待ちなんだぞ」
「えっもうそんな時間なの。あーどうしようまだ決まってないのに」
なかなか楽しい事をしてるな、じいさん。
俺が、突撃したかった。
デート前に服が決められず、時間ギリギリまで悩んでる女の子みたいだ。
しかし、ばあさんこちらを見ながらニヤニヤして笑わないで頂きたい。
「・・・何でしょうか」
「まぁまぁ、フィーリアを可愛がって下さいね」
着替えが長いのは俺の為、と言いたいのかばあさん。
そうだったら嬉しいけどさぁ。
ニヤついたばあさんから話題を逸らす為、別の話題を話そう。
「この時間当たりに夕餉を頂いてるのですか」
「いいえ。いつもは日が暮れる前に頂いてます。今日はフィーリアを待っていたので遅くなってます」
「先に頂こうとかは思わないのですか」
「夕餉は家族と食べるのが私の幸せですから」
「そうですか・・・」
本当に幸せそうに微笑むばあさん。
こんな夜遅い時間なのにまだ食べずに待って、いつも夕餉楽しみなんだろう。
ばあさんの幸せを俺も楽しみましょうかね。
あの2人はまだ言い合ってるので時間がかかりそうだ。
なら、俺はばあさんの幸せをかみ締めるとしよう。
「おばあさんがフィーリアを好きなのが良く分かりました。 もし、よろしければフィーリアとの思い出話を聞かせてもらいませんか」
「まぁまぁまぁ、よろしいので」
「ええ、あの2人はもう少し時間がかかりそうなので」
「まぁ、では話をさせていただきますね」
本当に楽しそうに話すばあさん。
小さい頃に花をプレゼントされた話や一緒に遊んだ話、おねしょした話なんかも楽しそうに話す。
長い間話を聞いてると2人が戻ってきそうだ。
家族は本当にいいね。
それを再認識が出来ただけでも十分な収穫だ。
俺は家族の元に帰れるのだろうか、それとも・・・
でもまぁ、今はこの時を楽しみましょう。
さぁ、夕餉の時間だ。