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②魔王妃生活と前線事情

 魔王の妻となったエレニアは、毎日毎日魔王に食べられた。


 魔族で一番の実力者である魔王。王なので人間との戦争の前線にはいかず、王城で過ごす彼は体力が有り余っていた。健康のために好みの金髪赤眼ロリ角っ娘なエレニアを相手に、運動に励んでいたのだ。


「このっ、やめっ、ムリムリムリ、そこは違うぅ!」

「エレニアよ。新たな世界へ余と共に旅立つのだ」

「変態ぃぃぃぃ!!!」


 そうした日々を過ごしたエレニアは当然孕まされた。

 魔族の女の子に転生して男を避ける為に強くなったというのに、魔王に娶られ10歳にして孕まされる。そんな最悪の事態でも彼女はへこたれなかった。


 妊娠中も襲ってくる魔王を可能な限り回避し暇を作っては修行をし、同時に魔結晶も摂取し続けた。自己の力を高め、自分の処女を奪った憎き魔王を倒すために。そのかいがあり、エレニアの力は日々上がっていった。


 しかしお腹が大きくなり修行が出来なくなった頃に変化が訪れる。鍛え蓄えた力がみるみる衰えていったのだ。その理由はすぐに分かる。と言うよりもエレニアは自然と理解した。母体である自分の魔力や能力を子供に分け与えてしまっていたのだ。


 11歳になる前に出産したエレニア。出産後は決闘時に比べ大分弱くなっていた。子供に力を与えて衰えた。ある意味では力を奪われたとも言えるのだが、それでも彼女はめげなかった。


 出産が終わると子育ては世話係達に任せ修行を始めた――――のだが、再びロリコンが襲い掛かってくる。力が衰えた彼女は抗うことが出来ず、魔族だからかすぐにまた孕んだ。


 変態ロリコンサド魔王との連日の運動にも諦めず、修行を続けた。それは傲慢に他者を踏みにじり横暴を繰り返し、逆らう者は処刑する魔王に憤ってなどではなく、あくまでも自分の処女を奪い体を好きにハッスルしやがる事への復讐だった。自分以外にも酷いことをされている魔族は結構居たのだが、女性以外の被害者は目に入っていなかった。ちなみに女性被害者はエレニアのみだった。ロリコンはエレニアに夢中だったのだ。


 子供に力を分け与えてしまうので衰えるとしても、少しでも弱くならないように鍛えた。そして出産したと思ったらロリコンが~~~~のエンドレスに入る。


「ま、魔王様、私ってば出産して数日なのですけどぉ」

「ミルク味のエレニアも悪くはあるまい」

「貴様、知れば知るほど変態だな!」


 妊娠と出産の合間に修行を繰り返すエレニア。

 その日々も彼女が美しい大人の女性に育った時に終わりを迎えた。魔王が彼女に配下の第7師団を率いて戦いに行くように命じたのだ。魔王に処女を捧げ、何人もの魔王の子を産んだ彼女は嬉々として前線へ向かったという。


 世間的には王妃となり安定した立場と生活を捨て、魔王の為に人間との戦いの前線に赴いたとされている。魔王も妊娠しても体を動かし戦いを欲していた彼女を思って、軍と戦場を与えたと言うのが共通の認識であった。何人もの愛の結晶である子を作った魔王夫婦は、お互いの気遣いから離れることとなったのだ。


 そんな綺麗なストーリーは、世間の夢見る魔族社会にしかなかったわけだが。


 エレニアは戦いを欲していたわけではなく、魔王をヤル為に修行をしまくっていただけであり、魔王もロリじゃなくなったのでエレニアに飽きてきたのだ。様々な開は……新たな世界も見終わってエレニアにも飽きたし、暇があれば暴れてるし前線いけば?と言ったものであった。エレニアが嬉々として前線に向かったのも、ロリではなくなったから用無しになったのか!とさらなる怒りに燃えていたからだ。


 愛の結晶の子供達は確かに沢山産んでいた。子作りしまくりで愛し合ってると勘違いされている魔王夫婦であるが、魔王は孕んでるエレニアともしたかっただけで、エレニアにしてもこの世界にも避妊方法があるのだが知らなかっただけなのだ。夢見る世間の良識在る魔族達には申し訳ないが、事実とは無常である。


 世間の美談とは全く違う実情で、彼女は前線へと赴く。

 魔王打倒の力を得る為に。






 肉欲だけのロリコン魔王に捨てられたエレニア。


 元々好きでもないし、変態だし、サドだし、男とか嫌いだから前線行きはうれしいはず。なのに地味にショックを受けているのは、やはり彼女も乙女だからだろうか。


「おのれ魔王めぇ。ロリじゃなくなったら前線送りで死ねと言うのか! 許さん! 許さんぞ! こんなに美女な私を愛せない変態め!」


 自分が一番大好きな残念乙女ではあるが……。


 こうなれば前線で修行してやる!と意気込む彼女。

 しかし元人間として、人間と戦う気は~大いにあった。魔族にない技術も取り込んでやろうと企んだのだ。元人間だけあって人間の技術的な向上志向を知っているからか、確実に実があると踏んでやる気に満ち満ちていた。前線に送られるまで人間の技術の取り込みに気づかないのが、エレニアクオリティだろう。


 前線の城砦を居城とした彼女は、さっそく味方と敵を調べた。


 まずは自分の配下となった第7師団の実績。

 エレニアは魔族側の戦績を知って驚愕する。負け戦ばかりだったのだ。同時に恐れた。今の自分は人間よりも圧倒的な戦闘力を備えて居ると自負していたからだ。魔力で体を強化し、様々な魔法を行使できる魔族。自分より強い者は少数だろうが、それにしたって魔族軍が人間相手に負けるとは考えていなかった。


 この世界の人間に戦々恐々としつつも、調べる為に部下に人間の誘拐を命じる。そして連れて来られた人間を見てさらに驚く。前世で知っている人間よりは強いが、どうみても一般兵の魔族よりも弱く、彼女が思っていた人間レベルだったからだ。


「ねぇ、もしかして一般人を連れて来た?」

「いえ、戦場にて偉そうにしていた奴を連れてきました」

「ふむ」


 モッサリしたクマのような副官魔族に問いただし、改めてジロジロと捕虜の人間を見る。言われてみれば、立派な鎧にそれなりの剣を帯剣していて強そうだ。あくまでも装備はであって、エレニアの感想は『本人はめっちゃ弱そう』であるが……。何故捕虜が帯剣しているのかは、弱そうだから良いかという、魔王にやられても懲りない慢心っぷりからである。


「よし、一般兵っぽい君、人間側の情勢とか技術とか、将軍とかの強さについて聞かせてもらおうか」

「だ、誰が一般兵だ! このオルスタッド王国の中隊長である私に向かっての暴言! 愚劣なる魔族とはいえ聞くに堪えぬ!」

「中隊長? 雑魚じゃん」

「な、なんだと!」


 心の底から雑魚と言ったエレニアに対して、捕虜となった人間ばかりか控えている部下達まで驚いていた。この世界の軍隊の中隊長といえば、前線の現場で自らも戦いつつ部隊を纏め、後方の司令官と前衛の小隊を繋ぐ役割をする重要な要職である。決して雑魚ではない。中間管理職という、最もストレスが堪る要職なのだ。捕虜の人も立派に禿げ上がっている。


 しかしエレニアにしてみれば中隊長とは、大隊長や総司令官より弱く、RPGでの序盤の中ボスが精々かなぁと言った程度の認識である。後半になればフィールド上の普通の敵より弱いよね。とか平然と思っていた。前世の知識が悪い具合に働いていた。良い意味で前世が役立った事はないので平常運転ではある。


「まぁ君が中隊長でも中年隊長でもいいんだ。人間について教えてくれれば、すぐに帰すよ」

「バカな。人間である私を帰すなどという約束を信じられるか!」

「チッ、さすが人間強欲だな。アレをもってこい」

「こ、これは!?」

「根掘り葉掘り教えてくれたら、お土産にこれを持たせよう」


 部下に命じて持ってこさせたのは金のインゴットである。金はこの世界でも貴金属に属し、派手な輝きから王侯貴族に好まれていた。人間社会ではこのインゴット一本もあれば、庶民の生活なら3年は平穏に暮らせるだろう。


 中隊長である自分を雑魚と言い切られ恐れた。そこに報酬という餌の金をポンと渡して欲望を刺激し心の隙間を作る。中隊長は目の前のエレニアに心底恐怖した。捕まって死すら覚悟していたのに、欲望を刺激して味方を売ってでも生にしがみ付きたくなるように仕向けられたのだから。


 エレニア的には別に雑魚一人ヤっちゃっても仕方なかったし、前世的に情報提供者には報酬を渡すのが当たり前だと思っていただけである。捕虜とかいう認識も薄く、もしも連れて来られたのが女性ならばあらん限りの接待をしていたことだろう。


「くっ、本当に喋れば助けてくれるんだな……」


 エレニアの中身の残念さを知らない中隊長は落ちた。






 中隊長から聞いた情報を整理する。


 大事なのは人間側の戦力や技術。どうやら銃などは存在せず、剣やらの武器と魔法を主体としているらしい。その武器にしても魔族側の武具に比べ劣っており、魔法に至っては子供と大人ほどの差があるようだった。


 個人の武力に関しても、雑魚と思った中隊長が中々強いレベルらしい。つまり前線送りにされたが、あっさり人間に殺されることはなさそうなのだ。エレニアは一安心した。

 ただ人間の中にも稀に英雄と呼ばれる猛者がいる。彼らは普通の兵士とは隔絶した強さだ。そう中隊長に忠告までされたのに、一安心したエレニアは気にしなかった。慢心は強者の特権である。


 情報を整理してみて魔族の負ける理由がわからなかったエレニアは、前線の戦闘を見学する事にした。そして戦闘の様子を見て彼女は心底呆れた。基本的に戦闘は1対1……ではなく、魔族1に対して人間4~10くらいで戦っていたのだ。


 どうやら魔族は連携して戦うことをせず、戦場においても個人で戦い、あまつさえ人間を劣って居ると見なして複数の人間と同時に戦うのだ。何と言う脳筋。エレニアも真っ青の慢心である。


 戦場を見て危機感を高めたエレニアは、居城に戻り直ぐに対策を練った。第7師団の戦績が悪いままでは、それを理由に魔王に殺されるかもしれないし、戦場で多数の敵に襲われたら彼女とて不安だったからだ。美人の自分なら捕まったら陵辱されてアァ~ンな目に合わされてしまう!と言った女性らしい?理由が主である。


 と言う事で、前世の知識を初めて生かし第7師団の部下達に軍隊らしい動きを命じた。隊伍を組みお互いの死角をカバーさせたり、敵軍を誘導して包囲殲滅などの作戦を実行したのだ。マンガやアニメで見た程度の知識で稚拙で幼稚な物だったが、元々地力に差がある魔族と人間なので、第7師団は連戦連勝をしていった。






 第7師団を勝利に導き、部下からの信任も厚く慕われるだろうと思ったエレニアだったが、彼女は何故か決闘の日々を送っていた。連戦連勝なのに連日不満を表す部下と決闘をしていたのだ。


 個人の武力を尊び人間を見下す魔族達なのだから、彼女の命令には当然反発もあった。脳筋体育会系で上下間の立場をきっちりしている魔族の軍隊ではあるから、戦場では命令通りに動き勝利を得ていたが、戦場から帰ってはエレニアに決闘を申し込む者が後を絶たなかった。


 戦地に出て部下達から反発されたら涙が出ちゃう。だってエレニアは乙女だもん。

 そんな妄想をしていたクマさんな副官が居た。ついでに自分がフォローをして、美人なエレニアとアンアンを!と考えた彼は紛れもない立派な男である。むしろ魔王の奥さんと不倫を狙うのだから、漢と言うべきかもしれない。


 しかしクマさんの漢の夢は、決闘申し込みがあった初日に敗れ去る。


 エレニアは手応えのない人間との戦いよりも、部下との決闘を好んで行ったのだ。慣れない師団長生活にストレスも感じていたし、修行する時間も減っていた。丁度よい訓練だと言って、不満が在る部下達を叩いて殴ってボコボコにしたのだ。


 部下の不満を正面から受け止める上司ではなく、ストレス発散と自己鍛錬に部下を使う容赦のない上官であった。笑顔で決闘を受けては部下をボコボコにする上官や、やられる同僚を見て、ほどなくエレニアへの不満を言う者は居なくなる。正確に言うなら暴力で全てを黙らせた。決闘で解決する辺り、彼女も立派な魔族になったと言えよう。


「よ~し、今日の決闘相手は誰かなぁ?」

「エレニア様、今日は決闘の申し込みがありません」

「えぇぇ。人間相手だとやっぱり手加減しちゃうから、ストレス発散にいいんだけどなぁ。残念だ。あ、ベイガルさん、私とヤってみない?」

「ご命令ならば……」


 クマの副官ことベイガルさん。

 恋慕を抱いたエレニアの訓練相手となりボコボコにされる。恋心は身と共に敗れ去ったが、傍若無人なエレニアに対して部下の代わりに果敢に挑む彼は、第7師団の部下達から絶大な信頼を得る事となる。だから気絶しつつも幸福な笑顔をしていた彼はマゾではないのだ。部下の為に体を張った満足感で笑っていたのだ。好きなエレニアに虐められて喜んでいた訳ではないと信じたい。






 エレニアが第7師団の団長として前線に出てから数年。


 第7師団は魔族側と人間側の両方から注目の的となっていた。魔族が押されていた数多の戦場に現れては、連戦連勝をしていく常勝の軍団。疾風のように現れ、敵味方双方に目撃される間もなく勝利のみをもぎ取っていく。


 しかし第7師団の魔族達は決して驕る事はなかった。

 黙して語らず、ひたすらに魔王妃に従い戦う常勝の軍団。王妃の名声と共に、仕える彼らも忠義の士として讃えられる。


 寡黙なる精鋭と思われた彼らだったが、黙して語らないのは理由があったのだ。魔族にあるまじき不意打ち騙まし討ち、複数人での連携しての戦いでの勝利。




 語れば名声どころか罵声を浴びせられるので黙っていただけなのだ。




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