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①王座交代とプロローグ

 広大な宮殿の一画。


 魔王が座するべき玉座の間にて、一人の女魔族が壇上から眼下の魔族達を見下ろしていた。


「勇猛なる魔族の諸侯達よ。聞くが良い。先日無念にも人間に討たれた私の夫である魔王陛下に代わり、息子が新たに魔王の座へと就く事となった。若輩である私の息子が魔王となる事に不安な者もいるかもしれない。だが安心してほしい」


 一度言葉を区切り、数百は居る実力高き魔族達を見回す。左右に顔を動かした動作はただ見回すだけではなく、鋭すぎる眼光で見られた魔族達の口を開く事が出来なくさせていた。

 威圧で強制的に作られた静寂に満足したのか、壇上の女性が続きを話し始めた。


「前魔王の妻たる私が息子の後見人となり、未熟な新魔王を支えよう。異議在るものはこの場にて名乗りを上げよ。魔族の掟に従い、後見たる私を倒せば、その者を新魔王と取り成そうぞ」


 魔族社会は実力主義だ。

 法律等はあるが、その法律とて公然と破る方法がある。不満があれば決闘にて武力を見せつけ相手を黙らせればいいのだ。たとえ相手が魔王だとてそれは通用する。


 魔族の頂点である魔王になりたい者は多数居る。彼らがそれを望むならば、異議を申し立てて壇上の女性と決闘をして勝てばいいのだ。

 だが誰一人異議を申し立てる者はいない。なぜならば、彼女こそ魔王の最後の正妻にして、魔王に次ぐ実力の持ち主だったのだから。


「異議ある者はいない……か」


 彼女の言葉に逆らう事は死を意味する。

 魔王亡き今、彼女こそ実質の魔王なのだ。


 眼下の静寂に満足したのか、強者のみが許される笑み――弱者を見下す嗤い――をした彼女が、玉座に座る自らの息子を立たせた。


「では今日より、私の息子を新魔王とする!」


 宣言をし手を上げた彼女に合わせるように喝采が始まる。一騎当千の破壊者たる魔族達が、彼女と新たなる魔王を称える。称える声は魔王になる息子に対する物よりも、女性への物の方が多かった。


 誰しもが理解していたのだ。魔族の中で随一の武力を持ち、さらには軍を率いた戦績でも並ぶ者が居ない彼女こそが真なる魔王だと。後見人となって表にでずとも、魔族社会を動かすのは彼女なのだと。

 息子の後に控える彼女を恐れ敬う声は、彼女が壇上を去った後でもやまなかった。




 場を息子に任せ裏に下がった彼女はというと。


「よしっ! これで面倒くさい政治とか軍事とかは息子に任せられる! ふふふ、策略通り魔王もヤったし、後は王母としてのんびり隠居の贅沢暮らしだ! 異世界の魔族に生まれてからずっと苦労した。苦労したけど、やっと苦労から開放される! ひゃっほぉ~い!」


 魔族達の思いとは裏腹に、楽隠居する気満々であった。






 王母となった彼女の人生は苦難の連続であった、


 魔族の侯爵家の長女として生まれた彼女。名をエレニア。

 両親に愛され生まれ育った彼女は、自我が確立して行くと自然と前世を思い出し、人格が前世の物となった。前世が日本生まれの男子であったエレニアは、転生も当然のごとく受け入れた――――訳もなく、5歳にして自分の生まれに軽い絶望を覚えた。


 異世界で自分の常識が通じなさそうな上に、人間の敵である魔族として生まれたのだ。しかも法や掟があっても、決闘という名の暴力で解決することがまかり通る環境。

 それに加えて性別が女性であったのもショックだった。


「金髪の美人幼女! 俺ってば超可愛い! いや、女の子なんだし俺はないな。私ってば可愛すぎる! にこって笑ったら素敵過ぎて鼻血が!!! 頭に生えてる角もちっちゃくてプリチーだな! ぉお、スカートを軽く上げて笑いかけたら破壊力がありすぎるっ!? 魔族の金髪幼女最高!」


 鏡の前で自分の姿を見て、ご両親には聞かせられない台詞を口走るほどショックを受けていた。自分の姿にハァハァする様子は、幼女とは言え職質レベルである。可愛さ台無しだ。


 ショックのせいか色々残念なエレニアは、自分を着せ替え人形にしている最中にふと気づいた。


「あれ? こんなに可愛い私だったら、嫁にしたい人はいっぱいだよな……。男の嫁とか嫌過ぎる! しかし我が家は侯爵家、権力で断ればいいか。……でも魔族って1対1の決闘で勝てば権力とか通じないんだっけ? って事はやばい、このままだと美幼女な私様ってばエロおやじの嫁になるしかないのでは!?」


 個人の武力を尊ぶ魔族社会。嫁入りを断ろうにも力がなければ従うしかないのだ。ここへ来てエレニアは絶望する――――かと思いきや、彼女は天啓とも言うべき考えに思い至る。


「あ、私が最強になれば良いんだ。な~んだ、簡単に解決じゃん。あっはっはっはっ」


 天啓というよりは明らかに前世の黒歴史の影響なのだが、本人は至極真面目であった。「男ならば一度は最強を目指すよな」などと心で思ってやる気満々だ。自分が今は女の子だと言う事を思い出して欲しい物である。


 魔族に生まれた影響か、或いは楽天的なだけなのか、最強を目指すエレニアの修行が始まった。






 5歳のエレニアは可愛い自分を男の嫁にやらん!という、どこかのナルキッソスさんと親友になれそうな理由で訓練を始めた。


 早朝に起きてはランニングをし基礎体力を上げ、家に仕える兵士を捕まえては武器術を習い鍛え、両親におねだりして魔法が得意な家庭教師をつけてもらい魔法を学んだ。魔族の体故か、鍛え始めると面白いように力がついていった。


 体を鍛えるだけではなく、日々の食事にも気を使った。

 魔力の塊である魔結晶を、自身の魔力を底上げする為に好んで食べたのだ。一部の魔獣や精霊からしかとれない魔結晶を侯爵家の力を使い集め、可能な限り摂取し続けた。


 物理的な技術と魔法技術を高めていった彼女は、修行を始めて数年の頃には周りの大人達が一目置くほどとなっていた。戦闘能力に関しては平均的な大人の魔族を超えて、万夫不当の上位魔族達とすら互角であった。


 10歳になったエレニアは、日々修行する自分を周りが認め敬ってくる事に気づいていた。

 結果、ストイックなボクサーのように技術と知識を求め学ぶ私ってばカッコいい、素敵!でも抱かれない!可愛い自分を抱いていいのは私だけなのさ!と、人として残念な領域に踏み込みつつ、力をつけて10歳で一人前扱いされる自分に満足していた。


 しかし現実はと言うと……。


 基本的に魔族達は決闘を重視し、力での解決を好む。

 だが決闘は重要な選択や譲れない物の為に行うだけであり、普段の彼らは紳士淑女であるのだ。決闘という名の腕力万歳主義では決してない。でなければ、街を作り王政を敷き法律があるはずもないのだ。


 そして日常大人しい魔族達が、破壊衝動を発揮し自身を鍛える場は実戦である。

 生まれもって人間を始めとした他種族に比べ、肉体的にも魔力的にも優れた魔族はエレニアのように修行などはしない。実戦で揉まれ強くなるのだ。逆に言えば実戦である戦場以外では大人しいのだ。


 そんな魔族達から見たエレニアは、侯爵家の令嬢にもかかわらず力を持て余し、兵士や家庭教師相手に力を振るい、時には享楽で野山の魔獣すら屠ってくる人物として写っていた。周りから尊敬されていたのではなく、ぶっちゃけ危険物扱いである。


 さらには魔力の塊である魔結晶は希少品であり、高級で甘味な嗜好品とされていた。元々魔力が高い魔族は魔力を高める為に摂取などはせず、お祝い事や特別な日に嗜む物だったのだ。キャビアやドンペリと言った、高い嗜好品と言えば分かり易いだろうか。そんな物を好んで食べまくるエレニアは、両親からして物凄い我侭娘だと思われていても仕方あるまい。


 エレニア本人は日々自己鍛錬をする素晴らしい私!と思っていたが、世間の評判は戦闘意欲旺盛すぎで破壊衝動ありすぎの我侭暴力娘である。エレニアを優しく見守ったご両親の胃痛を考えると、涙が止まらない現実であった。






 修行の合間の息抜き、ドレスを着た自分を鏡で見てニヤニヤしている最中のエレニアに一報が届いた。一報を届けた時の父親は、鏡を見てうっとりしてる娘の姿をスルーして伝えたという。自らの体調管理の為には仕方の無い事であろう。ハイライトが消えたレ○プ目だった事が、彼の娘に対する心労のほどがわかる。


「ちょ、ちょっとお父様、娘の部屋にノックもせずに入るとか変態すぎますよ? いくら私が可愛すぎても父親とは結婚できませんし、って言うか結婚する気はないんですけどね~。あぁ、こんな可愛い私を誰かにあげるなんて罪深いこと、私にはできない」


 父親の前ですら自分を抱くようにクネクネしているエレニアは、人としてもうダメかもしれなかった。長年の修行により、どこかの極地にまで達していそうである。自然な動作で胃薬を飲んだ父親を誰が責められようか。


「ふぅ。今日はエレニアに重要な知らせがあるんだよ」


 お腹を押さえながら言う父親の姿は哀れだ。

 頑張れ、全国の娘を持つお父さん。


「先日頼んでた新しい家庭教師の件ですか? 今度の方は厳しい戦闘で役立つ魔法を教えてくれるとうれしいな~。 それとも最近減ってきた魔結晶の事ですか? いつも食べてて、食べないと落ち着かないんですよね~。あ、もしかして模擬戦用の魔獣でも連れてきてくれましたか? 実戦形式の練習は力がつくんですよね~」


 立場と力を背景にした家庭教師へのパワハラ。

 甘味が大好きだからと高級嗜好品を常備させる財政難。

 10歳の娘にあるまじき、魔族の中でも交戦的過ぎる趣味。


 年頃の娘をもった父親の悩みにしてはハードすぎる内容だった。淑女教育まで好んで学ぶので文句も言えなかった。ちょっと型をぶち壊して常識から外れてるが、根は真面目で優しい女の子なのだ。そう自分を誤魔化して現実と戦う父親には敬意を評したい。


 エレニアが淑女教育を学ぶ理由が、可愛い自分をより可愛くして萌え死ぬんだ!という理由なのを知らないのは彼にとって救いだろう。実際は何の救いにもなってないが。


 そんな胃痛と次は頭皮への心配が必要な父親が、乾坤一擲の一報を伝える。


「幼くして血気盛んな娘が居ると魔王陛下が聞いたらしくてね。魔王様の正妻にとの話がきたんだよ。おめでとう、エレニア。魔王様が見初めて下さったんだよ」

「……………………は?」

「だから、魔王様がエレニアを妻にするって言ってきたわけだよ」

「な、なんでですか?」

「魔王様は強い女性を好むからね。今は前妻の王妃様もお亡くなりになって正妻がいない。妾ではなく正妻だよ。第一夫人だ。魔王妃だよ。やったね。エレニア」


 エレニアには途中から一切父親の声が聞こえていなかった。

 エロおやじの嫁にいかないように鍛えていたと言うのに、まさか強くなったせいで魔王に目をつけられるとは。まさに青天の霹靂。


 相手は魔王である。普通に考えれば玉の輿だし、力で魔族を束ねているので挑もうとは思わないだろう。一般的な魔族ならば。

 だがエレニアは残念な上に慢心していた。何より可愛い少女(自分)が大好きであり、日々の修行で実力をつけた彼女は黄金の鎧とか着てないのに慢心していた。いうなれば慢心王である。


「ふ、ふふ、ふふふ。そのお話は断ります! どうしてもと言うのであれば、例え魔王といえども決闘にて拒否いたします!」

「エ、エレニア? 正妻なんだよ? 決闘までして拒否するのかい?」

「当然です! いくら強いからって私のような10歳の娘を嫁にとか言う変態ロリコンはノーサンキューです! それ以外の男も嫌ですが。決闘でボコってやります! ふはははは、首を洗ってまっているがいい! 魔王よ!」


 王様の正妻になるという極上の吉報を全力で拒否するエレニアを見て、どこか遠くを見た父親は悪くはあるまい。嫁げば大人しくなってくれるかもと思っていただけに、彼の絶望はいかばかりか。後日、エレニアの母親が夫の為に育毛剤を密かに用意した事は良妻の鏡であろう。


 魔王とエレニアの決闘を行う事が決まった。


「ふっ、私が勝利して魔王になってしまうのか……」


 この日の為に鍛えて来た彼女は、黒歴史の構築にも余念がなかった。






 公開された魔王との決闘は熾烈を極めた。


 10歳の幼女でありながら、巨大な武器を振るい戦うエレニア。

 相手の魔王も100年以上も王の座に就いている猛者。老齢な見た目と違い、鍛えこまれた肉体と駆使する魔法は他に類を見ない強者だ。


 エレニアが身の丈を超える巨槍を投げつけ、超重量の戦斧を叩きつけ、鉄塊のような大剣で斬り付ける。武器を持ち替える合間に魔法を使い隙を潰す。その戦う様は歴戦の魔族達すら驚嘆する実力だった。両親の胃と財産を犠牲にした成果は、確実に彼女を強くしていた。


 対してエレニアの攻撃を受ける魔王。

 白髪に蓄えた白い髭と老人のようなたおやかな表情とは裏腹に、エレニアの猛攻をいなしていた。上位魔法に匹敵するほどの下位魔法を連発し、隙あらば手に纏った魔力を持ってエレニアの武器を破壊する。エレニアの武器攻撃も魔法攻撃も、絶大な魔力の鎧で防いでいた。


 激しく長い戦いも、決着という終焉を迎える。

 地面に倒れ伏すエレニアを手に抱え退場する魔王。観客の魔族達は、正妻に迎える少女を愛おしく抱えて去る魔王を見て感動する。10歳だと言うのに立派に戦ったエレニアと、その少女を降した魔王に万雷の拍手が降り注いだ。


 勇猛な少女を倒して妻に娶るという、物語になるべき光景に観客全てが感動したのだ。






 そんな感動する観客を置いておいて、エレニアはと言うと。


 魔王の寝室にお持ち帰りの直行便となっていた。敗北を悔しく思って気絶してから目を覚ましたら、裸の髭親父が目の前に居たのだ。


「ちょ、ちょ、ちょ~~! ま、魔王……様。決闘終わって直後にベットにランデブーとかいかがなものかと!」

「問題あるまい。余が勝利した今、お主は后となるのだからな」

「で、ですけど~~~! わ、私はまだ10歳ですしね? ほ、ほら、もうちょっと育ってから食べた方が良いかなぁって思ったり思わなかったり?」

「問題あるまい。余は幼いそなたが好みなのだ」

「貴様ロリコンか! 私が強いからじゃなく、可愛いロリだから妻にしたな!?」

「強くなければ余の攻めには体がもつまい。そなたはまさに理想よ」

「さっきから格好良く言ってるけど、変態な事を言ってるからな!」


 気絶して目覚めたら、裸の変態に襲われていた彼女の心情はいかほどか。相手が危惧していた通りのロリコンという絶望。魔王の癖に変態。恐ろしい、実に恐ろしい事態だろう。


「イタイイタイ、サイズ的に無理だから!」

「敗者の歎きも良い物よな」

「ぬぉぉぉ! ロリコンの分際でサドでもあるとか嫌過ぎる!」

「では本格的に行くぞ」

「い~~~~や~~~~~~!!!!!」


 決闘に負けた彼女は、魔王に美味しくいただかれたのだった。




 一昼夜、たっぷり女性としての体を教えられたエレニア。一人ぐったりとベットに沈む彼女は、女となった今は女性としての意識に目覚める……なんてことはもちろんなかった。


「よくも私の処女をぉぉぉ!!! 前世を含んでの初エッチがロリコン変態サドジジィとなんて嫌過ぎるぅぅぅぅ!!!!! 許すまじ! 魔王!」


 エレニアの魔王への復讐が始まった!




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